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阿木燿子×宇崎竜童が「子供を育てているよう」と語る、舞台“曾根崎さん” 「死ぬまでやり続けたい」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
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阿木燿子プロデュース・作詞、宇崎竜童音楽監督・作曲の、近松門左衛門の文楽『曽根崎心中』とフラメンコを融合させた『Ay(アイ)曾根崎心中』が、12月12日から東京・新国立劇場で上演される。ヒットメーカー夫妻が手がける、ライフワークともいえるこの舞踊劇は、『ロック曾根崎心中』から始まり、2001年に『フラメンコ曾根崎心中』と形を変え、初演から17年目の今年から、スペイン語の“ああ”という感嘆詞を表す“Ay”を頭に付け、改題。主人公、お初と徳兵衛を演じるのは、鍵田真由美と佐藤浩希、工藤朋子と三四郎のペアが、Wキャストで魅せる。歌のパートを三浦祐太朗、Ray Yamada、若旦那(湘南乃風)が務めることでも、注目を集めている。さらにナレーションでは名優・仲代達矢が参加するなど、豪華なキャストで新たなスタートに臨む。この舞台を「我が子のよう」と、愛情込めて大きく成長させてきた阿木燿子と宇崎竜童に、作品への思いと意気込みをインタビューした。

『フラメンコ曽根崎心中』から17年、『Ay曽根崎心中』へ。「我が子を育てている感じ」(阿木)

――初演から17年経ちました。

阿木燿子
阿木燿子

阿木 そうなんです、子供を育てている感じがありますよね。

――この舞台は色々な出会いから生まれていると、お聞きしました。

阿木 そうなんです。宇崎が映画『曽根崎心中』(1978年)で、徳兵衛を演じたことから始まって、自分の演技のできに納得がいっていなかった彼の元に、文楽との共演の話がきました。それで1979年に『ロック曽根崎心中』として舞台化しました。

宇崎 でもあなたがフラメンコを学んでいなければ、フラメンコと結ばれることはなかったよね。

阿木 本当にそうで、当時私がフラメンコを習いに行っていて、そこでダンサーの鍵田真由美さん、佐藤浩希さんと出会いました。両方にストーリーがあって、両方がこの作品に結実する何かの御縁があったと思います。

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『曽根崎心中』は、遊女お初と徳兵衛の悲恋を描いた物語で、二人の心中事件をもとに作られた、近松門左衛門の代表作。この舞台は、無情な仕打ちや、やり場のない怒り、男と女の儚い愛を、フラメンコで表現する。フラメンコは、踊り・ギター・カンテ(フラメンコの歌)が三位一体となって表現されるもので、カンテはその要となる。

阿木 特にカンテはうめくように、クラシック的な方法ではない、独特な地声というか、叫び声で、ブルースと通じるものがあると思います。

――フラメンコは靴音と、かき鳴らすギターが基本ですが、そこに宇崎さんが作るメロディアスな音楽と、阿木さんが手がける日本語詞が重なると、独特の新しいものが生まれています。

宇崎竜童
宇崎竜童

阿木 嬉しいです。サウンド的にいうと、どのジャンルにも入れられない、フラメンコがベースになってるけど、ピアノ、ベースが加わって、しかも篠笛や和太鼓、津軽三味線が入って、どのカテゴリーに入れたらいいか、自分たちでも決められない。

宇崎 今回はいつものフラメンコの編成に、ピアノ、エレキベース、パーカッション、篠笛、和太鼓、津軽三味線2本が加わります。初めて12拍子の音に参加するシンガー、ミュージシャンもいると思います。洋楽器のセンスが加わることで、サウンドが変わるし、サウンドが変わると踊りも変わるし、僕たちが想像できないパフォーマンスに仕上がっていくと思います。

若旦那、三浦祐太朗、Ray Yamadaの歌にも注目

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近松が描く江戸の世と現在とをつなぐ役割をする阿木の詞と、宇崎の手によるメロディアスな楽曲は、感情が迸る踊りと共に、観る者を近松の世界へ引き寄せる。歌のパートを務めるシンガーの歌も、この舞台の大きなポイントになる。

阿木 三浦祐太朗君に関しては、2人で、前回準備をしている時にスタッフが色々な男性シンガーのCDを集めてきてくれて、その中に彼の作品もあって。情感がある声を探していたので、彼の声は求めているものだと思いました。それでライヴを観に行きました。

宇崎 それで、予感から「確信」に変わりました。

阿木 Rey Yamadaさんは、YouTubeで聴いて、ライブハウスに観に行って、面白い曲を作られているし、音程もしっかりしていて、声は伸びやかで、ビジュアル的にも美形で。あれだけ明るいと、逆にものすごい悲しみを表現できる人かもしれないと思いました。

――湘南乃風の若旦那さんは、どんなところに魅力を感じられましたか?

阿木 湘南乃風がデビューした頃から、面白いなぁと思っていました。今回は、彼の声はもちろんですが、ルックスにも惹かれました。

――若旦那さんの声って、迫力があって、でもその後ろに優しさがありますよね。

宇崎 それを表現したいと仰ってくれました。会った時に、彼が「なんで僕なんですか?」って聞かれて、僕の中では、昔、安岡力也に出演を依頼したことがあって、彼のなんともいえないワイルドな部分を、若旦那に見たんだと思います。

――歌い手は、その役に成り代わって歌だけで感情を伝えるという、難しい役割です。

阿木 本当にそうだと思いますし、このお仕事を引き受けてくれ、感謝しています。ご本人たちの中で、シンガーとしての新しい扉を開けようという意識も感じています。

「腑に落ちるアバンギャルド、みたいなジャンルになっていると思う」(阿木)

――衣装も独特で、でもこれが視覚的に非常に大きな役割をしていると感じました。

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阿木 17年の間に、衣装をひとつ取っても改良を重ねて、立っている時は着物に見えて、踊るとスカートに見えて、靴を履いてもおかしくない衣装を試行錯誤して作り上げました。

――観て、聴いて腑に落ちるというか、まさにこの舞台の世界を表していると思いました。

阿木 フラメンコと結びつかないと思いますが、これはドンピシャ、ハマっていると思います。今、腑に落ちると仰っていただきましたけど、腑に落ちるアバンギャルド、みたいなジャンルができていると思います。

「作っている側なのに、彼女は客席で毎回泣いています」(宇崎)

「泣けない時はなぜなのかを考えて、修正していく。涙がいいバロメーターになっている」(阿木)

――音楽と歌、そして踊りを通じて、演者の感情が内からあふれ、圧倒的な熱量かつ繊細な表現力が、この舞台の魅力です。

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阿木 お客さんも終わった瞬間に、お初と徳兵衛と一緒に死んでいるというか、泣いてくださるんですよね。でも今回は生き返るというか、お客さんが会場の外に出た時に、魂が蘇生するような舞台になっていると思います。

――世界に引き込む力、巻き込む熱量が、強く、高いので、終わるといきなり現実に“引き戻される”感覚が強いのでしょうね。

宇崎 タイムマシーンに近い感じですね。阿木も作っている側なのに、客席で観て毎回泣いています。

阿木 泣けない時はなぜなのか考えて、踊りなのか歌なのか、照明なのか…だから涙がいいバロメーターになっていると思います。

――宇崎さんが作る楽曲についても、プロデューサーである阿木さんからの厳しいジャッジがあるのでしょうか?

宇崎 もちろん(笑)。曲を仕上げると「これでいいの?」って言うんですよ。でもそう言われると、「そうだよね」って言う、素直な自分がいるんですよ(笑)。それでまた作り直して。かつて詞が先にできていた時は、その詞を読めば、メロディが浮き出てきました。70年代、80年代はそうでした。でも逆転したときに、詞がメロディの中から浮き出てくるようなメロディを渡さなければ詞が出てこないわけです。そこに苦しんでいます。もの作りは修行のようなものです。

「この舞台自体に意志があるというか、息をしているよう。だから死ぬまでやり続ける」(阿木)

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このインタビューの後、新しい情報が入ってきた。今回、物語の結末に新しい演出を施す。それは徳兵衛役のカンテ(歌)として出演する三浦祐太朗が、阿木作詞、宇崎作曲の「菩提樹」を歌うことだ。この作品は、8月1日に発売された三浦のオリジナルアルバム『FLOWERS』に収録されている。三浦の母、山口百恵のヒット作を数多く手がけた名コンビが、今の三浦祐太朗を表現して作ったのが「菩提樹」だ。山口百恵のラストシングル「さよならの向う側」のアンサーソングになっているという。「さよなら~」は<約束なしのお別れです>と去っていき、「菩提樹」は<また逢(あ)えるよね また逢いましょう>と、相手のことを想い、また逢えることを固く胸に誓い、想いを巡らせる。お初と徳兵衛の生き様にもリンクする。徳兵衛として三浦祐太朗が、この歌をどう表現するのか、こちらも楽しみだ。

最後に、この作品の今後について聞くと、「『曽根崎心中』自体に意思があるというか、息をしているというか。だから私たちは愛情とリスペクトを込め、“曽根崎さん”と呼ぶことがあります。こんなに長く仕事をしてきて、この感覚は他にはありません。だから死ぬまでやり続けようと思っています」(阿木)と力強く語ってくれた。

『Ay曽根崎心中』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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