Yahoo!ニュース

来年全国ツアー決定 東京に拠点を移し7年、“上方落語の爆笑王”・桂雀々が目指す場所、見たい景色

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「街を歩いていてみんなに気づかれるのが、61歳くらいかなと思っています(笑)」

昨年の芸歴四十周年記念公演には、桑田佳祐、明石家さんまがゲストで登場。ドラマ『陸王』では、俳優としての存在感を見せる

画像

“上方落語の爆笑王”、落語家・桂雀々(かつら・じゃくじゃく)が、“爆笑王”と称される所以を見せつけてくれたのが、2017年6月22日東京国際フォーラム・ホールCで行った、『桂雀々独演会 芸暦四十周年記念公演「地獄八景亡者戯2017」だ。この雀々の晴れの日のスペシャルゲストとして、明石家さんま、そしてシークレットゲストで桑田佳祐が登場し、その場にいた誰もが驚いた。この奇跡の共演は、翌日、ニュースでも大きく取り上げられ、それまで雀々のことを知らなかった人たちも、この日本のエンタテイメントシーンを代表する大物二人を、自身の周年記念公演に呼ぶことができる桂雀々って?と、注目を集めた。

そしてこの年の10月、雀々はTBS日曜劇場『陸王』(主演/役所広司)に、埼玉中央銀行行田支店・家長亨支店長役で出演し、いやみな銀行員を演じ切り、ここでも注目を集めた。それでも「まだまだ顔を知られていない」と残念そうな雀々に、約一年ぶりにインタビュー。ますます輝きと深みを増してきた、表現者の現在を聞かせてもらった。

「ドラマの撮影現場の緊張感は勉強になった」

画像

「演技はそれぞれの現場で監督の演出が違うので、非常に勉強になります。当たり前ですけど、僕の中では落語の方が楽。ひとつの役に没頭して、相手のリアクションを見て、こちら側も発信するのですが、落語の場合は自分のリズム、自分の間合いでできます。『陸王』ではいじわるな悪役で、でも落語にはそんな悪役は出てこない。落語の登場人物は全部“善”なんです(笑)」。

落語は高座でひとりでスポットを浴び、ひとりで全てを背負う。でもドラマや映画は“俳優部”の一員であり、チームの歯車のひとつだ。“爆笑王”の異名をとる大物落語家にとって、その場所は違和感はなかったのだろうか?

「確かにそこが一番の違いで、最初は戸惑う部分もありましたけど、僕は僕なりに精一杯頑張りました。でも現場のあのピリピリ感は、「これは精神的についていけるかな」って不安に思いました。落語でそんなに精神的にピリピリすることないですもん。でもその緊迫感をある意味楽しもうと思っていたら、気がつくと最終回でした(笑)。役者はお話があればどんどんやっていきたい」。

全員でひとつのものを作り上げる、落語とは違う創作方法、現場の緊張感が病みつきになったようだ。『陸王』に出演後は、ドラマへの出演依頼が殺到しているという。

「東京に拠点を移して7年。色々なことが早く進んでいる感じもするけど、もっと顔を売りたい」

そんな雀々が大阪から東京に拠点を移したのは芸歴35周年を迎えた2011年、51歳の時だった。大阪で絶大な人気を誇った雀々が「上方落語を東京でもっと広めたい」と一念発起し、勝負に出た。以前のインタビューでは「東京に行くのは、40では早い、60だと遅い、行くなら今」と、動いた。それから11月で丸7年。その時想像していた景色を今、見ることができているのだろうか。

画像

「最初は10年かかると思っていました。この11月で東京に来て丸7年、58歳になりました。10年というと後3年で、街を歩いていてみんなに気づかれるのが、61歳くらいかなと思っています(笑)。今はまだ浸透していない。いくら視聴率がいいドラマに出ても、ちょっと出たくらいだとダメなんです。ずっと出ていないと、顔は知ってもらえない。落語家じゃなくても、役者に間違われても構いません(笑)。顔が売れているということだから。でも想像よりも、色々なことが早く進んでいる感じがする。ただこれ以上スピード感があると、逆に僕がついていけないかもしれない。目指しているのは70歳。今のジュリー(沢田研二)の年です(笑)。70歳になると、また新たなものが見えてくると思う」。

「地獄八景亡者戯2018」

画像

東京に来てからも積極的に落語会や独演会を開き、その人気はチケットが入手困難なほどだが、今年も多くのファンが待ち望んでいる、あの大ネタを見ることができる。それが11月22日、日本青年館で行われる『プライム落語SP 桂雀々独演会「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)2018」』だ。雀々が東京で『地獄~』を披露するのは、先述した昨年の東京国際フォーラムでの単独公演以来、約1年5か月ぶりだ。雀々の大師匠、三代目桂米朝の十八番で、亡者一行が、三途の川や閻魔様の前で、地獄の沙汰も笑い次第とばかりに、死してもなお笑いにこだわるという、1時間を超える、上方落語屈指のスケールの大きなネタだ。ちなみに、閻魔様の前で芸を見せ、面白ければ極楽行きというシーンで、去年は桑田佳祐が登場し、客席を驚かせた。時事ネタやアドリブをふんだんに取り入れて、“あの世”の様子を面白おかしく聴かせてくれる。今年はいつもにも増して、“濃厚”な『地獄~』が楽しめそうだ。同時に今年の芸能界と世の中で起こったことを振り返ることができそうだ。

画像

「今年は大物俳優さんを始め、色々な方が亡くなってニュースになりました。ということは濃い『地獄~』になるということです(笑)。僕はなんといっても西城秀樹さんが亡くなったことがショックでした。僕のテレビデビューは秀樹さんが、きっかけなんです。というのも12歳の時、大阪の素人参加番組に出た時に、秀樹さんがゲストでした。秀樹さんが、僕と肩を組んでくれて、司会の西川きよしさんが「秀樹さんどうですか、彼を見て?」って聞いてくれたら、秀樹さんが「僕の弟みたいですね」って、言ってくれたんですけど、僕はその時「全然顔がちゃうやんけ」って思ったことを覚えています(笑)。そんな思い出があるので、秀樹さんの歌は是非取り入れたい。独演会当日まで、世間では何が起こるかわかりません。当日を楽しみにしていて欲しいですね」。

古典落語の原型はありつつ、デフォルメを重ねていき、笑いの濃度を高めているのが上方落語。それを大きなアクションと独特の描写の仕方で、登場人物がまるでそこにいるような錯覚を味わう事ができるのが、雀々の落語だ。古き良き伝統を進化させている雀々のまさに真骨頂を味わえるのが、『地獄~』だ。独演会には毎回、雀々が気になっている落語家がゲストとして登場するが、今回は、三遊亭兼好を指名した。「彼の落語が好きなんです。切り口がシャープで、声もいいですよね。間違いなく次代を背負っていく落語家の一人だと思うし、僕が持っていないものを持っているので、一緒にやると楽しいと思い、お願いしました」。

会場の日本青年館は、音楽のライヴやイベントの会場としてのイメージが強く、落語ではあまり使わない会場だ。しかし来るべく2020年東京オリンピック・パラリンピックの際は、再び注目を集めるエリアだけに、伝統文化・落語の新聖地候補として、名乗りをあげそうだ。

「全国ツアーは夢だった。まずは足跡を残して、次につばがるようにしたい」

雀々の勢いは止まらない。来年3月からは初の全国ツアー『雀々史上、初の全国ツアー2019 にっぽん、まるごと笑わせまっせ!~Jackjaku Japan Jack~』を行う。詳細はこれから発表されるが、「還暦のときは、日本武道館公演をやりたい」という野望を実現すべく、アーティストさながら、全国津々浦々を回る予定だ。

「師匠の桂枝雀が昔全国ツアーをやって、僕も前座として、北海道から九州まで一緒に回りました。当時は上方落語を東北や新潟でやるのは珍しくて、上方落語がどこまで通用するのか、わかりませんでしたが、どの会場も満員で、爆笑に次ぐ爆笑で、それを目の当たりにして、いつか自分でもやってみたいと思っていました。理想の形、夢の形ですね。その街を歩いて、人を見て、何か閃くものがあると思います。初めてのツアーなので、まずは足跡を残して、次につながるようにしなければいけない」。

「落語を演じるのではなく、落語の世界の登場人物になりたい」

画像

最後に、多忙を極める雀々に、どうやって、色々なことをインプットし、息抜きはどうしているのか聞いてみると、「オン・オフはなくて、ずっとしゃべってます。ベースは落語ありきで、落語を演じるのではなく、落語の世界の登場人物になりたいんです。だから今も、商店街が近いところに住んで、そこを通るたびに、お店の人との会話を楽しむ。そこにある飲み屋にも、濃いキャラのお客さんがたくさんいて、退屈しない。そういう意味での環境作りは必要。絶対にタワーマンションなんかに住んだらダメ(笑)。人と絡むところにいないと。僕がもっと有名になったとしても、これは変わらないです(笑)」と、オンもオフも人を楽しませることを楽しみにしている、“まじめな表現者”の表情で語ってくれた。

BSフジ「プライム落語」特設ページ

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事