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GLAY・TAKURO「ファンのライフスタイルに最大限のリスペクトを、それがバンドの生き様の一つ」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
左からTAKURO(G)、TERU(Vo)、HISASHI(G)、JIRO(B)

来年25周年を迎えるロックバンド・GLAY。数々の伝説と記録を作り、成功と紆余曲折を乗り越え、まさに今が充実の時だ。GLAYがデビュー以来最も大切にしている事は、常に“ファンファースト”である事。真摯にファンに接しているからこそ、ツアーを行えば全公演ソールドアウトになり、コアファンに加え、新しいファンをきちんと新規開拓できていることを証明している。そんなGLAYが、バンドとファンの距離をさらに近くするために、2月1日にGLAY公式アプリをスタートさせた。GLAYの“理想”を形にしたともいえるこのアプリは、音楽オーディオとしての役割も果たし、これまでの音源はもちろんの事、MUSIC VIDEOやライヴ映像、書籍に至るまで、まさにGLAYの全てがストレスなくチェックできる。このアプリに、並々ならぬ思いを持っているのがGLAYのリーダーTAKUROだ。求められる側と求める側の関係を、少しでもよくしたいというバンドの考えを具現化し、ファンの手元に届ける事ができた今、改めてこのアプリに対する思い、ファンへの思い、そして来年の25周年についても語ってもらった。

GLAYはミュージシャンとして、ある意味、これ以上はないというほど理想的な環境で、活動ができているといえる。それは2006年にGLAYの版権、原盤、映像の権利、そしてファンクラブなどを前事務所から、TAKUROの個人会社「ラバーソウル」が全ての権利関係を買収できたからに他ならない。これにより、GLAYはどこかのマネージメント事務所の所属アーティストではなく、GLAYがプレイヤー、「ラバーソウル」はエージェントという、海外のアーティストに多いスタイルで、活動ができている。素晴らしい音楽を作り出せる創作環境をキープする事に成功した。そして今回、ファンの声に最大限耳を傾けて、それに応えていきたいという気持ちが形になったのが、GLAY公式アプリだ。

「自分達がいつまでもコンテンツでいてはダメ。コンテンツホルダー、もしくはアプリのようなプラットホームになるしかないと思った」

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「やっぱりそれまでの業界の形、慣習という人間が作ったシステムを改善、改革していかなければいけないのに、そのスピードの遅さにGLAYは合っていませんでした。自分達がいつまでもコンテンツでいてはダメで、コンテンツホルダーないし、今回のアプリのような、プラットホームになるしかないと思っていました。それがメンバーの期待にも応えられて、かつユーザーのためになると思いました。俺は24時間GLAYの事と、自分の人生をどうデザインするかを考えていて、それは第三者にはわからないし、メンバー同士の関係はメンバー同士にしかわからないし、いくら言葉で説明しても100%理解してもらえない。だから人に任せるのも限界だと思いました。俺らを取り巻く環境という名の制度も疲弊していたので、自分達で全ての権利を持ち、活動した方が、それが一番ファンの人たちが好きなGLAYの形になると思いました。その思いの最新形がこのアプリです。やっぱりメンバーが一番大切にしているのは、GLAYとファンの人たちが活発に交流できる場だと思うし、それに対して組織やシステムに望むのは、アーティストとしての自由な発想を遮られることなく、それはお金という意味でも、時間という意味でも、好きなだけGLAYというものを謳歌したいという事です。音楽を取り巻く状況が厳しくなっていく中で、このままではミュージシャンは食えないと悲観しているだけではなくて、顕微鏡で見たときに、道はもっともっと無数にあるんだということを、次の世代の人たちに伝えたい」。

「ミュージシャンが迷った時にやるべき事は、いい曲を書いて、いい歌を歌って、いいパフォーマンスをすれば、何の問題もない」

時代の変化、環境の変化に対応し、自らが変革を望み、道を切り拓いて進んでいるGLAY、そのリーダーTAKUROの言葉は、他のアーティスには眩しく映るはずだ。「そんなに難しい話ではないと思っていて、ミュージシャンが本当に迷った時やるべきことは、いい曲を書いて、いい歌を歌って、いいパフォーマンスをすれば何の問題もない。それが世界にひとつしかないものであれば、必ず誰かがそれを手にとって、大切にしてくれます。それをマッチングさせるのは難しい仕事かもしれないけど、この広い世界の中で、諦めなければその出会いは必ずある。この20年間くらいは、色々なところから、とにかく不安の声が聞こえてくるけど、俺は一度も不安に思ったことがないです。あの天才的なボーカルTERUとJIRO、HISASHIというものすごい才能を持ったメンバーがいるこのバンドを預かっていて、これで食えないって言ったら、音楽の神様に怒られます(笑)。だから聴きたい人と、聴かせたい人をくっつければいいんだと。すごくシンプルな事で、このアプリもそうです。例えば昨日ファンになったから、会報の第1号を見たいと言われたら、すぐに見てもらいたいだけで、もう廃盤になってしまったアルバムを、ブックオフやメルカリではなく、こっちできちんといい音で提供できるなら、やりますよね」。

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アプリの構想のきっかけはファンからの、昔の作品の再販のリクエストだった。しかし在庫を抱えるリスクを考えると、制作する数が読めない、そこで躊躇してしまう、このストレスを解消するのはどうすればいいのかを考えた事が、アプリ制作へとつながったという。「メンバーの色々な意見、現実的なところから、途方もないアイディアまで(笑)、ひとつずつ吟味していって、落とし込んだ結果、本当にシンプルな形になりました。巷では、本屋さんやレコード店が大変だという声がある中で、やっぱり今を生きる人たちが、手に取りやすいのは本当にスマホやタブレットなんだという現実を、まざまざと見せつけられ、感じながら作業を進めていきました。今またアナログレコードが人気という話も聞きます。確かにレコードは温かい音がする、でも子供たちの世代がスマホを置いて、レコードに戻るということは多分ないと思う。それをまず認めるところから始めました」。

「アプリは、ずっと応援してくれているファン、新しくファンになってくれた人、両方に満足してもらえるものでなければいけない」

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来年の25周年までにローンチさせたいという思いが強かったのだろうか。「そこにはこだわっていませんでしたが、でも1日も早くという気持ちはありました。ファンの人たちの声に応えられない歯がゆさは、常々感じています。このアプリの中には2つテーマがあって、まずデビューから応援してくれている人にとって楽しいものである、そして新しくファンになってくれた人たちにとっては、最高の入口である事という、一見矛盾しているかのような2つテーマを、ひとつのアプリにどう落とし込めるかという部分が一番難しかった。それと、GLAYのより深いところを知りたい人たちにとって魅力的なもの、ライトなファンの人たちにとっても、ここでGLAYの全ての歴史を知る事ができますよという、このふたつをひとつにするデリケートな作業が大変でした。昔からファンでいてくれている人達は、音源、映像ともにすでに持っているもので、でもライフスタイルが変わっていく中、その便利さはさらに進化して、昔のものをどこからか引っ張り出してきて、開けて、プレイヤーに入れて、という行為はしなくなると思いました。さっきも出ましたが、その便利さに人は勝てないと思い、映像も音源も全てここに詰め込まないと意味がないと考えました。それは聴きたいもの、観たいものが入っていないのであれば「じゃあ聴かなくていいや、観なくていいや」となるからです。でも俺たちにとっては、どの作品もその時々に全力を尽くしたものだから、愛して欲しいので、「ないならいいや」という選択をされてしまう事が、作り手にとっては一番怖いことです。その恐怖を克服するには、ここに来たらGLAYの全てがありますという状態にしなければいけません。それとこのアプリは最小のチームでやっているので、ユーザーからのクレームも含めての声が、すぐにメンバーまで上がってくるので、そこでまた改善のスピード感が90年代とは全然違います」。

「電子チケットもいいのですが、でも写真入りの紙のチケットがいいという声にも応えたい。可能性をたくさん示したい」

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至ってシンプルの考え方であり、ファンにストレスを与えないようにという最大の配慮でもある。そしてファンにとっても、業界全体にとっても、さらには社会的な問題にもなっているチケットの不正転売問題にも、GLAYはHPで不正チケットの番号を発表したり、スタンプ式電子チケット機能を採用するなど対応している。しかしこの問題についても、TAKUROは独自の視点を持ち、“ファンファースト”を貫いている。「電子チケットという選択肢もあるけど、今ここで新しいメディアと俺たちはケンカはしないし、無視もしない、でも競争はしたい。それは自分たちが鍛えられるから。電子チケットももちろんやりますが、でも長年ファンクラブに入っている人たちは、写真入りの紙のチケットが欲しいんです。そこにも応えたいので、チョイスは示します。世の中がどんどん電子チケット化していくからといって、紙のチケットをなくしたりはしません。例えば、チケットを持っている人が、どうしても都合が悪くなったので、友達にそのチケットを譲りたいという、人として当たり前の行動も無視できません。買った本人しか入れません、というのはあまりにも乱暴すぎる。俺は自分の息子に「久保家の男子たるもの紳士であれ」って教えているので、それは紳士的じゃない。だから自分が紳士でいなければ、息子にも胸を張って言えないんです(笑)。今は不寛容すぎる社会なので、俺は可能性をたくさん示したいと思います。人生の答えはひとつじゃないという事を、ここまで大げさに話すつもりはないけど、アプリも含めてGLAYの活動全般で、それはメッセージとしてあります。あなたのライフスタイルはあなたのものですよっていう。配信で聴くもよし、でも俺たちはCDも丁寧に作ります。歌詞カードを見ながら聴きたいというライフスタイルに、俺達は最大限リスペクトを払いますという、GLAYというバンドの生き様の一部のようなものです」。

「アプリを通して、新たにファンの声を聞く事ができた」

アプリをリリースして以来、TAKURO、メンバーの元にはファンから様々な想いや感想が届いているという。「去年出した曲を聴いてファンになりましたという人にとっては、GLAYの過去の曲を聴く事は大変な労力が必要になります。でも聴くシングル、アルバムの順番なんて関係ないんですよね。自分たちが24年というキャリアを積んだおかげで、その体験を新しいファンの人たちにもしてもらえる。今まで一緒に歩んで来たファンの人たちの感覚とは全く違う表現で、俺たちに俺達の音楽を聴いた感想を伝えてくれます。デビューからファンになってくれた人たちが、結婚や出産、育児などでGLAYの音楽から離れている時期がある。それで少し時間に余裕ができた時、もう一回聴いてみようかなと思っても、押し入れからCDやDVDを引っ張り出してくる必要がない(笑)。ポチッとやるだけで、離れていた時期の映像も音楽も流れるし、場所もとらない。面白いのが、一緒に歩んできたファンの人たちの中には、俺達が20代の時に出した音楽の意味が、その時はいまひとつ理解できなかったけど、40歳を過ぎて本当の意味がわかったし、自分なりの解釈ができました、という声もいただいています」。

「25周年は、時間をかけてファンが一番望んでいるライヴの形を実現させたい」

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応援してくれている人との距離がさらに近くなり、新しいファンも増えて、来年の25周年は賑やかになりそうだ。「盛大になりそうです。メンバーともミーティングを重ねていて、ライヴハウスから大きいハコまで、1年半くらいかけて、応援してくれた人たちみんなに届くような、一番ファンの人たちが望んでいるライヴの形を、実現させたいと思っています。ひとつ面白い事を考えていて、アルバム『HEAVY GUAGE』が来年発売から20周年なので、その完全再現ツアーをやったらいいんじゃないかという話があって。他のツアーはちょっと…という人でも、たくさんの人に聴いていただけた『HEAVY GAUGE』のツアーなら、行ってみたいと思ってくれる人も多いのではと思いました」。

このアプリによって、自主レーベルでのひとつの完成形を提示したGLAYのミュージシャンとしてのスタンスには、これからますます注目が集まりそうだ。そして25周年に何を観せてくれるのか、ファンのワクワク感は止まらない。なによりGLAYのメンバーがファンとの交流を一番楽しみにしている。

GLAYオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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