中井貴一 渾身の一作、ドラマ『記憶』が話題 「役者が辛い思いをしなければいい作品はできない」

韓国の人気ドラマ『記憶』の日本版リメイク 「リメイクほど肚をくくってやらなければいけない」

骨太な大人のドラマが注目を集めている――3月21日にスタートした中井貴一主演のドラマ『記憶』(フジテレビONE/TWO/NEXT×J:COM共同制作/毎週水曜22時~)が話題だ。突然、若年性アルツハイマーを宣告された敏腕弁護士が人生を振り返り、過去に解明できなかった事件の真相を追う人生を懸けた闘いと、家族の愛を描くドラマだ。韓国の感動作『記憶~愛する人へ~』の日本版リメイクで、「リメイクほど肚をくくってやらなければいけない」という主演の中井貴一に、このドラマにかける想いを聞いた。

「どんな作品でも、役者が辛い思いをしなければ面白いものにならない」

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若年性アルツハイマー型認知症を宣告された50代の弁護士・本庄英久(中井貴一)。覚えなければいけない事はどんどん忘れていき、忘れたいと思っている事は、思い出すようになってしまう。それは前妻との間に生まれた息子を、交通事故で亡くした過去だ。いまだにその犯人は捕まっておらず、いつしかその事実と向き合う事からも逃げていた。新しい家族との生活も仕事優先。しかしアルツハイマーを宣告され、徐々に記憶を失っていく中、残りの人生を懸けて事件の真相を追い、最後の弁論に挑む―――。中井貴一が魂を込め臨んだこのドラマ『記憶』の制作発表が3月9日に行われ、そこで中井は、役者全員が難しいテーマ、役どころと向き合い、辛い思いをしながら取り組んだからこそ、面白いドラマに仕上がったと語った。「いつもそう思っています。現場で過ごす時間は楽しくていいと思いますが、役を取り込んでいる時間は、それはコメディであろうとどんな種類の作品であろうと、役者が辛いと思わないと、僕は絶対いい作品はできないと思っています。だからといって、現場でしかめっ面をしている必要はなくて、役に入った瞬間の辛さのようなものがないとダメだと思う。以前出演させていただいた『最後から二番目の恋』(2012年,2014年/フジテレビ系)の時も、コメディタッチでしたが、全員が病気になりそうなくらい、大変な想いをして作り上げました。今回も本当に辛いです。そういう意味では面白いドラマになっていると確信しています」。

「若年性アルツハイマーに焦点を当てているのではなく、人がその仕事を全うするまでを描いた物語」

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若年性アルツハイマーという、徐々に記憶がなくなっていく残酷な宣告を受ける役を、どう受け止めて、どう思いながら演じていったのだろうか。「難しかったです。若年性アルツハイマーの症状を、病院の先生にお話を聞かせていただいたのですが、この病気の患者さんの一番の特徴に、取り繕うという行為があるそうです。例えば人に会った時には、何気ない会話ができる、取り繕っているんです。でも会った事を忘れてしまう。だから周囲は病気と気づかない事も多い。ドラマを観ている方が「なんであれを急に忘れて、あっちの事は覚えているんだよ」と思わないよう、ご都合主義にはならないように気をつけました。僕は本当に忘れた感じを出していきながら、それを隠そうとする言動、行動の方が表に出るという事を意識して演じました」。

若年性アルツハイマーという“病”がテーマではあるが、そこに流れる“再生”という大きなテーマが、このドラマの輪郭を太いものしている。「若年性アルツハイマーに焦点を当てたドラマかというと、決してそうではありません。アルツハイマー病を患っている人の普段の生活を、そのままドラマにしたようなところがある。普通の生活があって、そこにアルツハイマー病があるわけで、このドラマも本庄という人間が、弁護士という職業を全うする、生き抜くという事が底辺に流れているので、すごくリアルだと思う。だからアルツハイマーの患者さんを抱えている家族の方が、もしかしたら共感できるという部分で、嫌な気持ちになってしまう方もいらっしゃるかもしれません。でも少しでも、頑張ろうって思ってくれると嬉しいなと思います」。

「オールロケで、順撮りする事で、役者は季節の移り変わりを肌で感じながら演技できる。ドラマが持つ温度感が、視聴者にもよりリアルに伝わるはず」

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37年というそのキャリアの中で、映画、ドラマで本当に様々な役を演じてきた中井が、今回挑む、突然若年性アルツハイマー病であると宣告される弁護士という難しい役どころと、どう向き合って、体の中に入れていったのだろうか?「彼の出発点は、お母さんと共に苦労しながら、努力をして弁護士になったという反骨心とコンプレックス。生活のために泥臭く生きてきて、必死でお金を稼いできて、母親を幸せにしたいという気持ちも強く、努力して今の立場を手にしたんです。だから虚勢を張って、例え嫌な奴と思われても、裁判に勝つ事が弁護士の仕事だと思い、生きてきて、それが病気によってその虚勢が一枚ずつはがされていくのが、本庄なんだと思う。それと同時に、自分の周りにいる前妻や、奥さんの皮も剥がされていくのだと思う。彼が病気になった事によって、周りが温かいもので包まれていく感じで、冬の寒さから、病気によって春が来る物語になっています。撮影は極寒の中でオールロケという(笑)、厳しい中で行われましたが、だんだん温かくなってきた事を実感するんです。ドラマの最終回の頃は、すっかり温かくなっていると思いますが、そうすると、これってこういう事だったんだなって、僕等役者も、観て下さっている人も、よりわかるというか。莫大な予算をかけて、デジタルを駆使するドラマもいいと思いますが、人間が五感で感じる何かをフル活動させ、芝居をしてきました。整った環境というよりも、全員で整わせなければいけなかったという事が、功を奏しているドラマになっていると思う」。

「スケジュールの問題、そして生半可な気持ちで臨めない内容なので、最初は出演を断っていた」

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そんな骨太で人間味溢れるこのドラマへの出演オファーを、中井はスケジュールがなかった事も理由だが、それ以上に「生半可な気持ちで携わってはいけないドラマだなと思い」、断り続けていた。「昔、ある映画への出演が決まって、台本を読んで、役を入れていた時、プロデューサーに「中井さん、あの役ちょっと扱いが小さくなったから、こっちの役やってよ」と言われました。その時僕はとてもがっかりしました。役者って、この役は絶対あなたにやって欲しいって言われたいんです。このドラマのプロデューサーは、何回断っても「今回の本庄という弁護士は、中井さん以外考えられないんです」と、ずっと言ってきてくれました。連ドラは若い人たちが中心で、僕らも20代の時に連ドラをやっていた時、先輩達からバトンを受け、月9しかりで、若い世代がドラマを作っていくという流れがあります。そんな中で、上の世代が連ドラをやるとなると、刑事ものとかがお決まりだったりしますが、このドラマは全然お決まりの感じがない。そこで自分達の世代が主役をはって、この大変なテーマのものをやるという意味も大きいと思いますし、若い人をターゲットにしたドラマが多い中で、ここまで求められて、それに乗らないのはどうなのかという事を考えさせられました。本当にどう考えてもスケジュール的に無理でした。こんな濃密なドラマを、短期間で録るのは逆に失礼だと言いました(笑)。でもその熱意にほだされて、入っていた仕事を調整してもらって、逆にちゃんと時間をかけて作って欲しい、順撮りでやりたいと言いました。それは役者の感情が自然に、丁寧に入っていくからです。こういう事がドラマを作っていく事なんだという事を、僕は共演の泉澤(祐希)さんや今田(美桜)さんのような若手に、伝えなければいけないと思いました。キャスティング優先のドラマがあっても然りだけど、作り込むものがドラマであって、バラエティとはそこが違うという事を伝えたかった」。

「今、コンプライアンスの問題もあり、地上波は思い切ったドラマが少なくなった。僕はテレビっ子世代だから地上波のドラマに対する思い入れが強い。このドラマが刺激になれば」

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中井はこのドラマを、観る方にも、TVドラマ業界にもポジティブな影響を与える存在になって欲しいという。「今、コンプライアンスが厳しくて、地上波も忖度があって思い切ったドラマが少なくなった。僕はテレビっ子世代だから、地上波のドラマに対する思い入れがどうしても強いです。どこで放送しても同じとはいえ、地上波も頑張ってもらいたい。本当にいいドラマなので刺激になればいいな」と、ドラマにかける思いを語った。

オリジナル版に出演したイ・ソンミン、ジュノ(2PM)がカメオ出演する事でも話題。森山直太朗が歌う主題歌「人間の森」が、ドラマをさらに引き立てる

韓国のオリジナル版『記憶~愛する人へ~』で、主人公の弁護士を演じた人気俳優イ・ソンミン、そして彼を支える若手弁護士役・ジュノ(2PM)が、カメオ出演する事でも話題になっている。森山直太朗が手がけた主題歌「人間の森」は、哀しみと美しさを湛えドラマに寄り添い、より印象的なものにして、心に残してくれる。「撮影を終えたら『記憶』ロスになりそう」という、中井をはじめとする役者陣の熱い想い、そして制作サイドの熱意とがひとつになって、非常に熱量が高い、血が通ったドラマになっている。俳優・中井貴一の代表作のひとつになりそうな、“ガツン”とくる一作だ。

『記憶』オフィシャルサイト