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日本のアーティストを世界へ発信 麻田浩「SXSWは"ヘンな”アーティストを求めている」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「海外で一番嫌われるのはモノマネ。強烈な個性が求められている」

30周年を迎えた世界最大の国際音楽見本市SXSW

昨年30周年を迎えた、国際音楽産業見本市 SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)。毎年3月、アメリカ・テキサス州オースティン市を舞台に行われ、世界中から2000組のミュージシャン、音楽関係者、ミュージックラヴァーが集結する。ライヴ、ディスカッション、トークセッションなどが行われる、世界中のエンタメ業界人が注目する音楽コンベンションだ。ここから、新しいミュージックトレンド、ブレイクアーティストが生まれ、ノラ・ジョーンズ、ザ・ホワイト・ストライプス、ストロークス、フランツ・フェルディナンドetc…多くのアーティストがその後、音楽シーンを席巻している。そんなSXSWアジア事務局代表を務める麻田浩氏は、1996年からSXSWに関わり、日本のアーティストをSXSWへ出演させる「ジャパンナイト」のプロデューサーも務めている。「ジャパン~」を同イベントの中でも、最も集客力のあるショウケースへと成長させた、伝説のミュージックマンだ。今も精力的にライヴハウスに足を運んでいるという麻田氏に、SXSWと「ジャパンナイト」の現状、世界の中での日本のミュージシャンの見え方、見られ方などを聞いた。

1996年からSXSWに関わり、「ジャパンナイト」をスタートさせ、日本のアーティストを世界へ紹介

――SXSWは、今や世界最大のマルチメディアの祭典といわれ、規模がどんどん大きくなっていますが、スタートは1987年で、最初はインディーズの音楽展示会として行われていたそうですね。

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麻田 そうです、SXSWは元々3人のインディーズ関係者が、テキサス州オースティンで、どうやればもっと売れるのだろうか?という事をディスカッションした、小さな勉強会でした。一方で当時、音楽業界のコンベンションとして、規模も知名度もメジャーだったのが、ニューヨークで行われていた「ニューミュージック・セミナー」でした。僕もマネジメントしていたピチカート・ファイヴをここでプロモーションしたり、日本のアーティストを紹介する、「最高」と「PSYCO」をかけた「PSYCO NIGHT(サイコーナイト)」というイベントを立ち上げ、やっていました。それでこのイベントにSXSWのスタッフが観に来て「自分達もオースティンでコンベンションやっているんだけど、こういう、日本のアーティストを紹介するショウケースをやってくれないか」と声を掛けてくれたのが最初です。

――それで1996年からSXSWにかかわるようになって。

麻田 そうです。最初の年はロリータ18号と、ホッピー神山率いるPUGSを連れて行きました。それまで向こうの人が知っている日本のアーティストというと、それこそ坂本九くらいしかいない時代で、そんな中で、女のコのパンクバンドと、ホッピー神山のテクノっぽいロックに驚いていました。

「Keep Austin weird」が街のスローガン=SXSWの精神

――日本人自体が珍しく、しかも披露した音楽も衝撃だったんでしょうね。

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麻田 2組ともすごくウケたので、これはもしかしたらイケるかなと思い、次の年から「ジャパンナイト」を始めました。テキサス州は全米でライヴハウスが一番多い街で、レコード会社も、音楽出版社も多くて音楽好きが多い都市です。特にオースティンはテキサス大学他大学がたくさんあって、学生の街なんです。だからどこか知的な雰囲気もありつつ、街のいたるところで「Keep Austin weird」というスローガンを書いたボード見かけます。「オースティンはヘンな街にしておこうこうぜ」という意味ですが、そんなシャレが通じる街です。だからSXSWでも「ヘンなもの」がウケる。ユニークな発想や作品、技術への評価が高いです。

――面白いものを、面白いと思える街にしようというスピリットが根付いている。

麻田 そういう街なので、日本人アーティストは得でした(笑)。それまで日本人のアーティストなんて見たことがなかったのですから(笑)。

――そうやって麻田さんが紹介する日本人アーティストが、そこでウケて、どんどん日本の音楽に興味を持ってもらえるようになってきたんですね。

麻田 毎年お客さんがたくさん来てくれて、本当にありがたいなと思っています。テクニックだけで勝負したら、勝てないバンドも向こうにはたくさんいるので、その中で日本人アーテイストに興味を持ってもらえるのは嬉しいですね。

――最初からSXSWの「ジャパンナイト」に出場する事を目標にしている若手アーティストも、最近は多いですよね

麻田 5年位前に福岡に行った時に、SXSWに出場したバンドと話をする機会があって、彼らが「僕ら明日からロス行きます。東京に行くのもロスに行くのも、そんなに飛行機代変わらないんですよね」という話をしてくれて。そういう時代になってきたんだなと驚きました。東京に行っても、レコード会社も事務所もなかなか決まらないから、「自分達がアメリカでどういう風にウケるか知りたいんです」と言っていて、もうこういう世代の人達の時代が来たんだなと思いました。

――麻田さんは日本の新人バンド、アーティスト、アメリカのこれから出てこようとしてるインディーズのバンド、アーティスト、両方を観る事ができます。何か大きな違いを感じますか?

麻田 日本のアーティストもみんな演奏が上手いですし、差というのはそんなには感じないのですが、特にこの10年くらい感じているのは、日本のミュージシャンは洋楽、古い音楽をあまり聴いていないんだなという事です。向こうのバンドは、様々なジャンルの“いい音楽”をよく知っています。それはラジオなどから、そういう音楽が四六時中流れてくるという環境も大きいと思います。『SXSW2010』に出演したOKAMOTO’Sと、一緒に全米ツアーを回った時、彼らは必ずその都市のレコード屋に行っていました。古い音楽もレコードで聴いていて。そういう子たちが日本のミュージシャンにもいるんだと感心した記憶があります。

「海外で一番嫌われるのはモノマネ。強烈なオリジナリティがなければ、向こうでは受け入れられない」

――例えばYouTubeとかサブスクリプションで、昔のいい音楽にも接触しやすくなったという環境もあるかもしれませんね。

麻田 そうかもしれません。お金を出して買っているから、よりちゃんと、一生懸命聴くという感覚もあるかもしれませんね。

――日本のアーティストが世界を舞台に活躍するためには、何が一番必要でしょうか?

CHAI「SXSW 2017 and US TOUR 2017」
CHAI「SXSW 2017 and US TOUR 2017」

麻田 まず、海外で一番嫌われるのはモノマネです。だから例え下手でも、きちんと自分、オリジナリティを感じさせてくれる人が僕は好きですし、それがなければ海外では勝負できない。でもそんなに個性があるアーティスト、バンドってなかなか出てこないですし、やっぱり他にはない、自分たちの何かを出そうという強い姿勢が必要です。それと日本でJ-POPで売れたいのか、それとも絶対海外で売れたいという、闘志のようなものがあるのかどうかだと思います。もちろん日本のマーケットで勝負するという事は、全く悪いと思わないですし、自分がやりたい事をやって売れるのは本当にすごい事だと思います。でも海外のアーティストは、世界中で売れたいという気持ちが強い人たちが多いです。『SXSW2017』には日本からCHAIという女の子バンドが出て、彼女達の学習能力の高さに驚きました。ライヴの後すぐ、「今日はここがダメだった」と一生懸命ミーティングをやっていて、すごいなと思いました。CHAIの音楽の、ベースのフレーズを聴いているとモータウンサウンドのフレーズに似ていて、でも本人に聞くとモータウンは全く知らないみたいで(笑)。

――今、女性のバンド、ミュージシャンで才能がある人がたくさん出てきていますよね。

麻田 女性が強いですよね、特に日本は。もしかしたら日本の一番強いところかもしれません。海外ではカッコイイ女の子のバンドがそんなにいないんですよね。

「歌、演奏は練習をすれば、ある程度はうまくなる。でも"ヘンなもの"を持っている人はなかなかいない」

――「ジャパンナイト」に集まってくるミュージシャン、音はどんどん変わってきている感覚はありますか?

ドミコ
ドミコ
PRANKROOM
PRANKROOM

麻田 基本的に言えるのは、先ほども出ましたが、日本のミュージシャンは演奏能力がすごく上がっているという事。でも僕は“ヘンなもの”が好きだから、どうしてもそっちに目がいってしまいます(笑)。それとやはり、さっき言ったオースティンの街のスローガンが根底にはあるので(笑)。たぶん練習をすれば、ある程度は演奏も歌も上手くなると思います。でも“ヘンなもの”はなかなか出てこないというか、だからこそ“ヘンなもの”を持っている人を育ててあげたいと思ってしまいます。何はなくともオリジナリティ。向こうのアーティストで、それまでやっていた音楽に違和感を感じて、オースティンにやってきて全てをリセットして、本当にやりたい事をやったら、生まれ変わり、売れていった例をたくさん見ています。オースティンの街自体がそういうもの、力を持っている場所だと思うので、色々なアーティストを「ジャパンナイト」に連れていってあげたいと思います。

「今年の「ジャパンナイト」に出演するドミコ、PRAKROOM、Rude-αは、3組ともいい意味で”ヘン”だから、期待している」

――今年の「ジャパンナイト」には、すでにライヴシーンをざわつかせているバンド・ドミコと“いきなり米国フェス出演オーディション2018”でグランプリを獲得したヒップホップグループ・PRANKROOM(プレンクルーム)と、同オーディションの最終ライブ審査に勝ち残ったラッパー・Rude-α(ルードアルファ)の参加が決定しています。

Rude-α
Rude-α

麻田 3組ともいい意味で“ヘン”で、強いオリジナリティを持っているので、向こうのお客さんの反応が楽しみです。

「地方のミュージックシーンが面白くなってきた。いいミュージシャンがたくさんいる」

――『SXSW』はオースティンが、エンターテイメントの中心・ニューヨークから見て、南南西の方向にあるところから付けられたネーミングだとお聞きしましたが、麻田さんが今日本で、音楽的に東京以外で気になるに地方都市はありますか?

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麻田 最近すごく京都が面白いなと思っていて。アメリカでも、ミュージシャンはニューヨークとかロサンゼルスに出て行く必要がなくて、地元に住んで、宣伝もネットでほとんどできてしまう。京都には面白いバンドがたくさんいるし、京都出身・在住の、くるりの岸田(繁)さんが「京都音楽博覧会」を、10-FEETが「京都大作戦」といったフェスを定着させたり、音楽の街というイメージがあります。僕も時々京都のライヴハウスに観に行ったりします。福岡も面白いし、福島もそう。島根県にいいシンガー・ソングライターがいたり、富山もロックが盛んです。日本も地方創生をずっと謳っているのだから、地方の音楽シーンやエンタテイメントにもっとお金を出してあげて、盛り上げてくれるといいのに、といつも思っています。アメリカでもIT関連の会社といえば今まではシリコンバレーでしたが、今はどんどんオースティンに移ってきています。トヨタもテキサスに本社を移したり、もうロサンゼルスやニューヨークにいる必要はないという事なんでしょうね。これからも色々な分野で、日本も同じような現象が起こってくると思います。

SXSW ASIAオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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