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岸谷香 “五十にして惑わず” 今、再びプリンセス プリンセス以来のガールズバンドをやる理由

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
"Unlock the girls"

昨年、プリプリ以降初めてガールズバンドスタイルでファンの前で演奏

実は、2017年2月16日、Zepp Tokyoで行われた岸谷香の『HAPPY 50th ANNIVERSARY 前夜祭』で、その“バンド”は姿を見せていた。同ライヴの後半、「今年50歳、またロックバンドをやりたいと思いました」と、Yuko(G&Cho)、HALNA(B&Cho)、Yuumi(Dr&Cho)という3人のガールズとの新しいバンド編成で、ソロ曲を披露。岸谷がプリンセス プリンセス以降、ガールズバンドスタイルで人前でパフォーマンスするのは初めてで、「新バンド結成か!?」と注目が集まった。それが現実となり、1月24日にミニアルバム『Unlock the girls』をリリースし、2018年1月27日からは『KAORI KISHITANI HAPPY 50th ANNIVERSARY LIVE TOUR 2018 50th SHOUT!』を、このバンドで行う。岸谷にとっては、中学の時に時に結成したガールズバンド、一時代を作ったプリンセス プリンセス、そして今回のバンドが「運命的に出会った3つ目のバンド」だという。

50歳を超えた今、なぜまたガールズバンドなのだろうか?

全ての事が中途半端に感じていた30代。「50歳くらいになったらロックバンドでもやるかな、と漠然と考えていた」

「プリプリを解散(‘96年)して、目標がないというよりは、なんだか全ての事が中途半端に感じたのが30代でした。何か新しい事をやろうと思っても、過去にやった事をちょっとアレンジしたような、こぢんまりしたものだったり。例えば自分の存在にしても、ベテラングループの中の一番下っ端なのか、若者グループの一番上なのか、私は誰に向かってメッセージを発信していくのか、色々な事がわからなくなったりして。その時に「しばらくやめようかな。50歳くらいになったら、またロックバンドでもやるかな」と漠然とは思っていました」(岸谷)。34歳と36歳で出産、以後13年間は育児中心の生活を送っていた。2014年にソロ活動を本格的にスタートさせ、2016年には10年ぶりにオリジナルアルバム『PIECE of BRIGHT』を発売、以後ライヴを精力的に行いながら、活動を続けていた。

そして50歳を迎えた昨年、岸谷は決めた。ガールズバンドをやろうと。

「50歳になったら、迷いも失うものもないだろうし、ジャンルや自分の位置も考えなくていいと思った」

「戦略でも深い話でもなく、漠然と50歳くらいになったら迷いも何もないだろうと思ったんです。どのジャンルの、どの位置だろうなんてもう考えないし、傍から見たら、どんなにお世辞を言われてもおばさんだし(笑)。もうそんなに失うものもないだろうし。かといって、それに向けて準備をするとか、人を探したりという事はしていませんでしたが、ずっと思ってはいました」(岸谷)

YUKO(G&Cho)
YUKO(G&Cho)
HALNA(B&Cho)
HALNA(B&Cho)
Yuumi(Dr&Cho)
Yuumi(Dr&Cho)

ソロでツアーを回っているうちに、バンドでやりたくなったという気持ちがあったのは確かだ。そして50歳というアニバーサリーを迎え、レコード会社からも「何かやりませんか、例えば記念ライヴとか」と提案され、その時に「どうせなら新しい事を始めたい、何をやろう、そうだ私、また女の子とバンドやりたいなって思ったんです」(岸谷)。そして岸谷が信頼しているスタッフから紹介されたのが、このメンバーだった。実はYuumiとYukoは、2016年に岸谷が出演したテレビの音楽番組でバックを務めていたことがあり、女性4人組実力バンドFLiPのメンバーとして活躍していた(2016年活動休止)。そこにロックバンドHaKU(2016年解散)のメンバーだったHALNAが合流し、岸谷のプリンセス プリンセス以来のガールズバンドが結成された。岸谷から声を掛けられ、バンドを組むことになったメンバーはどう思ったのだろうか?「もちろん嬉しかったですけど、音楽的な部分での考え方で、いわゆるジェネレーションギャップがあった時に対応できるのか不安でした。でも、例え考え方が全然違っても、それを楽しんでもらったり、自分も色々と吸収したいと思いました」(HALNA)。

「この3人に出会えたのは運命と思える。4人を神様が引き寄せてくれた」

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まさに“タイミング”だったのだろう。だからプロジェクトがスムーズに決まって、しかも実力のあるメンバーが集まってきて、岸谷の想いが熱を帯びて、広がり始めていた。「そう思ったんですよね。考えてみたらプリプリだって私が選んだメンバーではなくオーディションだったし、バンドのメンバーを自分で選んだり探したりしたことがないと思って。この人でいいのかって、何を基準にしたらいいのか正直わからないでしょ? インスピレーションだと思っていたから。でも運命だなと思ったのは、それぞれのバンドがまだ活動していたら、一緒にできなかったのに、ちょうどそれぞれが活動を止めるというタイミングだったので、これは神様が糸を繋いでくれたと思いました」(岸谷)。インスピレーションを確信に変えるために、4人はまずスタジオに入り、音を出した。その瞬間、新しいガールズバンドが誕生した。しかも圧倒的な実力を持つガールズバンドが。

「やった事がない事をやりたくて、エレクトロサウンドに興味があった。「Unloced」は、この4人の代表的な一曲になると最初からピンときた」

「プリプリは5人だったので、4ピースというのは新鮮だったし、せっかくならやった事がないことをやりたくて、エレクトロなものに興味が出てきました。女の子だし、合いそうだなって。鍵盤がいなくても、みんな上手いし、手数も増やせそうなので4人でも成立するし、エレクトロな部分を足しても楽しいと思いました。それと、決してルックス重視で選んだわけではないのに(笑)、みんなとってもかわいいから、そこもアピールするために、必死で演奏しているというよりは、もっと楽しいというか、ガールズバンドならではという感じにしたくて。ガールズって、私もこんな歳になって図々しいんですけど(笑)」(岸谷)。

ミニアルバム『Unlock the girls』(1月24日発売)
ミニアルバム『Unlock the girls』(1月24日発売)

ミニアルバム『Unlock the girls』のオープンングナンバー「Unlocked」が、まさに名刺代わりの一曲になっている。エレクトロサウンドと、セッション感が強いガレージロック的なサウンドに、サビは思い切り岸谷節が炸裂し、メロディアスだ。ライヴをイメージして作ったであろう、3人の楽器の聴かせどころもしっかりと演出している。「この曲を書いた時に、もう絶対にアルバムの一曲目に決まりだと思ったんです。この4人の代表的な一曲になると最初からピンと来ていたし、迷いがなかったです。でも、この曲のイメージを伝える時に、ドナ・サマーの「ホットスタッフ」みたいな感じでって、グループLINEを送ったら、みんな???マークで。ここで、ジェネレーションギャップを感じました(笑)」(岸谷)。

「ジェネレーションギャップを楽しむ。メンバー内で度々出てくる?マークこそがこのバンドのウリ」

しかしそのジェネレーションギャップを一番楽しんでいたのは岸谷だった。「みんながパラモアを教えてくれて、「ホットスタッフ」も四つ打ちなんだけど、今の四つ打ちはこうなんだって新鮮だった。このジェネレーションギャップが、いちいち面白かったです。でも、この度々出てくる?マークこそがこのバンドのウリだと思っていて、私も?マークを出すし、みんなも??みたいな感じで(笑)」。メロディが溢れていた80年~90年代の洋楽をモチーフにしたとしても、当時を知らない感性が、新鮮な解釈で作り上げ、それが斬新さとなる。「「Unlocked」は、四つ打ちで本当にわかりやすくて、このアルバムのテーマになると思いました」(Yuko)、「今まで自分がやっていたバンドが、マイナー調の曲ばかりだったので、こんなにメジャー調のポップな曲に出会ったのは初めてです」(Yuumi)、「人生の中でこんな明るい曲やったことないって、どの曲でも言っているから「みんなここから明るい世界に行こうよ」って言ってました(笑)」(岸谷)、「(笑)めっちゃ楽しいです!」(HALNA)。

「プリプリをリアルタイムで知らないメンバーで良かった。自由に言い合える関係でなければ、今回のような音楽はできなかった」

岸谷がどんどん曲を書き、それをメンバーに聴かせてセッションを重ねながら、『Unlock~』を作り上げていった。「みんなの感性で、どんどん変えて欲しかった」(岸谷)、「レコーディング当日も、結構変えながら録って直して、という作業を繰り返しました。ぎりぎりまで色々試して、楽しみました」(Yuko)。岸谷以外の3人は全員1989年生まれで、「89年ってプリプリの「Diamonds」が出た年で、それも面白いなって思って。みんな当時のプリプリを知らないのがいい。プリプリを好きな人だと私の言う事を絶対肯定すると思うし、こういう音楽はできなかった。でもこのメンバーは私が何か提案しても、好きじゃなかったら好きじゃないって言うだろうし、そこは自由だし、そのほうが絶対にいい」(岸谷)。

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「Unlocked」をはじめ、全ての曲がコーラスがフックになっている。これもこのバンドの武器だ。「絶対的にこのバンドの武器になっています。全員が最初から歌えるというのがわかっていたので、コーラスを多用したアレンジにしました。HALNAはそもそもずっと歌っていたし、だからコーラスでシンセのコード感も出せるなと思って、Yuumiも歌うし、一番最初にセッションした時に、割り振ってもいないのに、もうコーラスをやりながらドラムを叩いていたから、これはいけるって思って(笑)」(岸谷)。歌詞は、岸谷が全幅の信頼を置く木村ウニが手がけている。「彼女もプロジェクトの一員なんです。だからバンドというよりも、プロジェクトといったほうが自然かもしれません。メンバーが作り上げる音と、ウニちゃんの言葉と私の声がこのバンド、というイメージ」(岸谷)。

「どんどん変わっていきたい。そこは昔から変わらない。今はバンドの中の一粒という"不自由感"の素晴らしさを楽しんでいる」

岸谷は自身のブログで「今年は20代のキラメキと、50代の豊かさが合わさったような、躍動的な一年になるといいな」と綴っている。まさにこのバンドがそのメインステージになる。

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「私はひとつの事をずっとやり続けていると飽きる性格。だからここで思い切り暴れて、次のアルバムは全く違うものになってもいいと思うし、違う発想で違うものにしたくなるかもしれないです。どんどん変わっていきたい。これが、私なんだなって思いました。それは昔からそうだった気がします。今はこのメンバーで音を出しているのがもう衝撃的に楽しい。みんなに自慢したい。この4人でこんな音楽作っちゃったんだよねって。ソロはソロで自由で楽しかったけど、でもある意味囚われている幸せというか、やっぱりバンドって、制約があるのもの、できないことがあるっていうのがバンドだと昔から思っていました。それぞれの得意な事しかやらないのがバンドというか、その人達のいいところだけで成立させるものだと思います。なのでその不自由感の素晴らしさを、今また楽しんでいる感じ。4粒のうちの1粒になる感じを」(岸谷)。

「ガールズバンドの中で"優勝"する」が4人の合言葉

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岸谷は、まさに今が充実の時というほど、音楽に対して貪欲になっている。メロディメーカーと、強力な音を弾き出す凄腕ミュージシャンが集まり、化学反応を起こし、新しいガールズバンドが生まれた。「ガールズバンドの中で、“優勝”したい。かわいさもカッコよさでも、全部“優勝”しか考えていないです(笑)」(HALNA)、「強みしかないというか、この4人ではできない事がないというか。3人はそれぞれのバンドで、トリッキーな事をやってきて、香さんはキャリアも、音楽の知識も豊富で、色々な曲をたくさん知っているから、それがひとつになったら強い。みんな柔軟でなんでもやるし、できるので、ライヴをたくさんやって力をつけて、“優勝”したい」(Yuumi)、「世代が違うからこその良さをもっと活かしていきたいというか、もっと切磋琢磨して融合して、ひとつのバンドのサウンド、ガールズバンドはこれだ!というサウンドを作りあげて、“優勝”したいな、と(笑)」(Yuko)と、これまでバンド活動を経験してきたメンバーだからこそわかる、リアルな手応えを感じているようだ。一番手応えを感じているのは他ならぬ岸谷だ。「新人なので(笑)、優勝できるように頑張ります」と、余裕と気合、両方を感じさせてくれた。

岸谷香オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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