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“変化”と“王道”の鮮やかなコントラストを楽しむ――デビュー23年、自由に躍動し続けるGLAYの強さ

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
"これからのGLAY"の在るべき姿を提示したアルバム『SUMMERDELICS』(7月12日発売)
"これからのGLAY"の在るべき姿を提示したアルバム『SUMMERDELICS』(7月12日発売)

7月12日発売し、アルバムランキング1位を獲得したGLAYの2年半ぶりのオリジナルアルバム『SUMMERDELICS』は、TAKURO曰く「メンバーの個性をもっと出していくべき。例えばHISASHIの非常にニッチな世界やダークな世界を、GLAYとしてきちんとフォーカスして世の中に伝えていく」というコンセプトの元、新鮮さと斬新さとそして迸る4人の情熱を感じる作品だ。GLAYの現在地と未来を指し示す、キャリアの中でも非常に重要な一枚に位置づけられるはずだ。 その熱さと、アルバムが持つ意味、醸し出される進取性は、このアルバムを手に、9月23日にスタートしたアリーナツアー『GLAY ARENA TOUR2017“SUMMERDELICS”』にも感じる。そしてツアー真っ最中の11月22日には、55枚目のシングル「WINTERDELICS.EP~あなたといきてゆく~」を発売し、好調に推移している。アルバム、ツアー、シングルと立て続けにメッセージを贈り続けるGLAY。それは今、ファンに伝えたい事、伝えなければいけない事がたくさんありすぎるという、今がまさに充実の時を迎えている4人の、ミュージシャンとしての、バンドとして“強度”が増しているということだ。

「「あなたと~」は新しいファンにはGLAYの世界の幅広さを知ってもらい、ずっと支えてくれているファンには「これだよね」と思ってもらえるはず」(TAKURO)

これぞ
これぞ"王道"のTAKUROメロディと、ライヴでも人気の最新シングル「WINTERDELICS.EP~あなたといきてゆく~」(11月22日)
TAKURO
TAKURO

極上の強いバラード「あなたといきてゆく」は、今年4月から5月にかけて行われたホールツアー『GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2017-Nevere Ending Supernova-』ですでに披露されていた事もあり、ファンにはおなじみの曲だ。当初『SUMMERDELICS』に収録される予定もあったが、アルバムのコンセプトとはやや異なる季節感、温度感を持つ曲という事で、シングルとして発売される事になった。ファンからの人気が高いこのバラードについて作者のTAKUROは「『SUMMERDELICS』で、新旧ファンの方達を戸惑わせた部分があるかもしれない。だからある意味王道ともいえるこの曲をツアー中に出す事で、ずっと聴いてくれているファンには「これだよね」と思ってもらえると思うし、新しいファンの人にはGLAYの世界の幅広さを知ってもらいたいし、この曲もカップリングのバラード達も、秋にピッタリだと思った」と、すでにライヴでの反応に手応えを感じていた事と、新旧ファンに対しての想い、そして季節感を考えてのリリースだったと教えてくれた。

「こういう曲をメンバーが待っていた、という事はファンの皆さんも待っていたと思う」(HISASHI)

HISASHI
HISASHI

ボーカルのTERUは「いつもはコンポーザーとしてのテクニックをどこかに必ず入れてくるのに、本当にギター一本で歌えるシンプルなバラードを作ってきたな、というのが第一印象でした」と当初はそのシンプルさに驚き、HISASHIは「こういう曲をメンバーが待っていたという事は、リスナーのみなさんも待っていたと思います。最近はメンバー曲がシングルになったり、アルバムでも増えてきていたので、GLAYの王道メロディを聴きたいというリクエストは、僕の中でもありました」と、メンバーからもTAKUROメロディが求められていたと明かしてくれた。JIROも「これぞTAKUROメロディという感じ。『SUMMERDELICS』がトリッキーな夏のアルバムなので、夏を楽しんで、盛り上がって落ち着いたところで聴いて欲しいという気持ちが、TAKUROにもあったのだと思います。ライヴのアンケートでも非常に人気が高い曲です」と、“ファンも待っている曲”と語っている。

この曲は「年が明けたら結婚しようよ」という、強烈なひと言の歌い出しから始まる壮大なバラード、結婚ソングだ。実はTAKUROが20年以上前から温め、大切にしていた曲で、自身の人生、経験と照らし合わせ、今なら書ける、今出さなければいけないという想いになった。「元々「冬のプロポーズ」というタイトルで90年代後半からあった曲です。でも「あなた」と「わたし」の物語に終始している方が、世の中との親和性が高いんじゃないかとか、まだビジュアル然としていたロックバンドが、いわゆる自分の父母の世代、家族の事まで歌う事に、説得力をどう持たせるのかが自分の中での命題だったので、その時はまだだなと。自分に家族ができて、もう充分にその覚悟は備わったという想いはあって、メロディを書き足して、Bメロが1年くらい前に完成しました。<2人で編み上げる赤い糸の布は~>という歌詞は、10年以上前に書きました」と、どこまでも真摯なラブソングだ。

「TERUの歌が「あなた」の意味を教えてくれた」(TAKURO)

TERU
TERU

そんなラブソングはもちろんTAKUROが作った作品だが、作者に大きな影響を与え、歌に大きな意味を持たせたのはTERUの歌だった。「最初に歌詞をもらった時、「あなた」が全部平仮名でした。後になって祖母、祖父、母、父という漢字を「あなた」と読ませている事に気づきました。でも不思議なもので、僕もなぜあんなに優しく歌ったかというと、平仮名の「あなた」が第一印象ではなかったからです。普通だったらファルセットにしているところを地声で歌ったり、ファルセットでいけるところも、最後はあえて地声に戻したり、「あなた」によって表現を変えたくなって」とTERUは、この歌が元々持つ深いものを掘り起こしながら歌った。一方TAKUROは「元々この曲は「私」と「あなた」の物語だったのが、TERUの歌をレコーディングスタジオで聴いていて、秋の黄昏の向こうに見えるものは、自分の人生だなと思いました。祖父や祖母、父、母から受け継ぎ、引き継いできたものがあるんだという気持ちになって。それでこの「あなた」というのは「あなた」と「私」だけではなくて、上の世代、下の世代、大きな意味の「あなた」と思って、ひとつずつ漢字を当てていきました。TERUの中でもそうだったのかもしれないです」と、語っている。まさにあうんの呼吸というか、深い意思の疎通が音楽を通してできるのは、GLAYの絆のなせる業だろう。

「結婚式って両親、おじいちゃん、おばあちゃんもいる。そんな場所で流れる優しい歌にしたかった」(TERU)

GLAYの作品の中で、結婚がテーマになっている曲というと、TERUの姉の結婚式のために書かれたというエピソードが有名な「ずっと2人で…」(1995年)という名バラードがある。これはTAKUROが17歳の時に書いた作品だ。GLAYの基本はここにある。誰かのために、誰かに寄り添っている歌をずっと作り続けているのだ。「「ずっと2人で…」の後に、友達に息子が生まれたということを聞いて「グロリアス」を作ったり、世代によって常に誰かのために曲を書いているという意識はいつもあります。その集大成のような「あなたといきてゆく」は、自然と、こういうメッセージが生まれるようになったんだと、非常にすんなりと入ってきました。「グロリアス」の時の子なんて、もう孫ができていますよ(笑)」(HISASHI)。「この曲は誰に向けて歌おうかと考えた時、結婚するファンの人が、この曲を結婚式で使いたいって思ってくれると嬉しいなって思って。披露宴ってお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんがいるだろうし、そういう場所で流れる優しい歌が欲しいな、優しく包み込むような歌にしたいなと思ったのは、完全に結婚式場の雰囲気が頭の中に出ていたのかも(笑)。「ずっと2人で…」は全く意識していませんでしたが、「年が明けたら~」という最初のフレーズに引っ張られたのかな(笑)」(TERU)。

「今回のツアーは、JIROが作ったアルバム表題曲「SUMMERDELICS」が、独特の構成で、そのセッション感が弾いていて楽しい」(TAKURO)

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現在敢行中のツアーでもこの曲を歌うと、客席に静かな感動が大きく広がっていくのが伝わってくる。後半戦に差し掛かっているツアーだが、アルバム『SUMMRDELICS』からの曲を中心にしたセットリスト、その世界観を表現するライヴを観たファンの反応、反響をメンバーはどう受け止めているのだろうか。「やっぱりJIROが書いた「SUMMERDELICS」という曲があったからこそのこのタイトル、世界だから。実際ライヴでやっていても一番楽しいし、手応えを感じているのはこの曲です。そのセッション感や、世の中にある音楽の定石ではない展開は、本当に弾いていて楽しい」(TAKURO)と、アルバムタイトル曲が全ての始まりであり、今回の世界観の根幹をなしているという事を、ライヴで改めて感じているという。一方でお客さんの反応については「喜びと戸惑い両方感じている事が伝わってきたけど、そうでなければいけないと思うし。このインタビューが載る頃には、またいくつかの都市を回っていますが、いわゆる大都市では、今回の雰囲気を面白がってくれます。でも都市によっては「前のGLAYがいいな」とか、そういう声が大きいのも事実で、これからどうやって今の自分たちの志を理解してもらうかが、次の課題になるという予感がしています。ある意味そこまで深くえぐるかという映像を出したり、でもそれはHISASHIは世の中ってこういうグロいものも、エロいものも、ナンセンスなものもあるんだ、ただしその意味を見つけるのは受け手側のあなた達なんだ、という彼なりの世の中に問う姿勢を強烈に感じてはいます。なんだかんだでHISASHIが一番ロックかもしれない。自分の生き様を世に問うというか、それで否定されても構いません、”I don’t care”と言えるかどうかだって彼は良く言うし、そういう部分は俺も憧れるロックの姿勢です」(TAKURO)と、これまでの作品に比べ、そのトリッキーさに強く反応しているファンがいる事も、きちんと理解している。その上でブラッシュアップを重ね、ライヴは日々進化している。

「近年で最も実験的な要素が強いツアー。だからファンが戸惑うのは仕方ないけど、俺達はその違和感を楽しんでいるし、自信を持って臨んでいる」(JIRO)

JIRO
JIRO

ライヴの構成を考えているJIROは「これだけ盛りだくさんの内容で、僕らの中でも実験的要素が近年のツアーの中でも一番あったので、たぶんみんなキョトンとするんだろうなというのは想像できました。それが良くても悪くても、今までと違った感じだから嫌だったということだと思うんです。今までと同じ事をやっていて、よくなかったと言われたら考えものですけど、今までやってこなかった事をやって、嫌だったって言われたら、それはその人に合わなかっただけかもしれないし、俺たちがアクションを起こさないと何も変わらないので。なので色々な人の意見は真摯に受け止めますが、俺たちはその違和感を楽しんでいるんですよって言えるくらい、自信を持って臨んでいるツアーなので、新しいGLAYのスタイルが振り幅として出てくれば、このツアーは大成功だと思っています」と、圧倒的に明確な意思を持って、ツアーに、一本一本のライヴに向き合っている。TAKUROは「10年経って振り返った時に、2017年はこうだったと強烈な記憶として残さなければいけない。何となくツアーやったねとか、ファンリクエストによるベスト的なものだったねっていうものだけでは、バンドは前に進めない」と進化と深化の大切さを説く。

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『SUMMERDELICS』という探求心に満ちたアルバム、そしてメンバーの好奇心溢れるツアー、さらに満を持して発表する至極のバラード。2017年という年を4人は、明らかにGLAYというバンドの10年先、20年先に光を当てる時、そして改めて覚醒する“瞬間”として捉えている。

GLAYオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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