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ホフディラン 古巣から”名盤”再び 新作は 「デロリアンで1996年から現在に来てしまった感じ」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
左からワタナベイビー(Vo/G)、小宮山雄飛(Vo/Key)

古巣・ポニーキャニオンに19年ぶりに復帰。9枚目のオリジナルアルバム『帰ってきたホフディラン』を発売

10月18日、ポニーキャニオンからポップスシーンにとって重要な作品になる、語り継がれるであろう2枚のアルバムが同時発売された。たまたま発売日が同じになった、というだけかもしれないが、なんとも贅沢なライナップだ。一枚は澤部渡のソロユニット・スカートのメジャー1stアルバム『20/20』、そしてもう一枚がホフディランのメジャー復帰アルバム『帰ってきたホフディラン』だ。両方ともメジャーという言葉が、資料等にも使われている。最近よく「この時代、メジャーとインディーズの差って?メジャーで出す意味って?」という事を聞かれるが、それを思い出した。でもこの2組は自らが「メジャーで出したかった」と言っている。CDが売れないと言われているシーンの中で、イニシャル(初回出荷枚数)も、もしかしたらインディーズもメジャーも大差がないのかもしれない。それでも作り手側がメジャーにこだわるというのは、やはりその宣伝、販路の規模に期待し、一人でも多くの人の耳に自分の音を届けたいという思いからだ。

ホフディランは1996年にポニーキャニオンからデビューした。そして今回19年ぶりに古巣に復帰し、ニューアルバム『帰ってきたホフディラン』を10月18日にリリースした。珍しいケースだが、それもひとえに日本全国のホフディランファン、そしてまだホフディランの音楽に触れた事がない人へ、音を届けたいという思いからだ。さらにこの発売に合わせ、過去のオリジナルアルバム5作品(『多摩川レコード』『Washington, C.D.』『ホフディランIII』(以上3作品ポニーキャニオン)『31ST CENTURY ROCKS』(日本コロムビア)『PSYCHO POP KILLER BEE』(〃))が再発された。収録音源にリマスタリングを施し、未発表曲などを収録した特典ディスクとの2枚組仕様となり、生まれ変わった。旧譜の活性化、これもアーティストサイドにとっては大切な事で、メジャーで発売する意味、という事だ。

10月17日、タワーレコード渋谷店で行われたアルバム発売記念イベント
10月17日、タワーレコード渋谷店で行われたアルバム発売記念イベント

10月17日、タワーレコード渋谷店で行われた『帰ってきた~』の発売記念イベントで小宮山は、「本当に素晴らしいアルバムが完成したので、皆さんこの2週間はぜひじっくりこのニューアルバムを聴いてほしいです。同発した再発売のアルバムは、とりあえず購入だけしていただいて、2週間後に聴いてもらえればいいです」と客席を笑わせていた。

『帰ってきた~』が発売されるに至った経緯が面白い。ホフディランは2016年デビュー20周年を迎え、小宮山雄飛が「一緒に盛り上げてくださいよ」と旧譜の再発も含めて、古巣・ポニーキャニオンに相談に行った。デビュー当時、ホフディランの担当だった吉村隆氏は現ポニーキャニオン代表取締役社長になっていた。「じゃあ、うちで出しなよ」という鶴のひと声により決まり、小宮山は半信半疑で「…出していいっすか?」と言いながら、その証拠の鶴のひと声をスマホに録音しようとしたというエピソードを聞かせてくれた。トップダウンと聞くと、なんだか嫌らしい感じがしないでもないが、当時ディレクターだったスタッフも、一旦ポニーキャニオンを辞めていたが、数年前に復帰して、今回再び担当になったという縁もあり、“あの時”のノリ、熱さの中で制作が進められた。スタッフもファンもメジャー復帰を喜んだ。

「『帰ってきた~』は、古巣からリリースする事ができて、スタッフもファンの方もみんなが一丸になって盛り上がれるものにしたかった」(小宮山)

『多摩川レコード』完全再現ライブ”HMV GET BACK SESSION「多摩川レコード」LIVE”(9月2日渋谷クラブクアトロ)
『多摩川レコード』完全再現ライブ”HMV GET BACK SESSION「多摩川レコード」LIVE”(9月2日渋谷クラブクアトロ)

二人は『帰ってきた~』の原型となるアルバム作りを、メジャー復帰が決まる前から進めていた。「20周年の後だったので、個人的には時代的なことを含めても、リリースする以上は100点満点の作品でなければ、次はないと思っていました。だから選曲にはいつも以上に時間をかけて、そんな時にポニーキャニオンから発売できる事になって。感謝の気持ちと共に、ファンの方もスタッフもみんなが一丸となって盛り上がれるものにしたいと思い、『多摩川レコード』を意識しました」。そう小宮山が言うように、90年代を代表する名盤の一枚と言われている、1stアルバムを作り上げた時の初期衝動と、“ノリ”を大切し、並々ならぬ思いを込め、作り上げた。『多摩川レコード』は、当時のスタッフが、二人の迸るポップスに対する情熱と才能を、遮ることなく一枚に詰め込んだ。「本当に好き勝手やらせてもらいました。その後の戦略やコストの事を全く考えずに、『多摩川レコード』には詰め込みたいだけ詰め込んで、自由にやらせてもらいました」(小宮山)。ワタナベイビーは「THE BLUE HEARTSの1stアルバム(『THE BLUE HEARTS』)のようなショッキングなものを、自分達のデビューアルバムにすべきだという事を、当時、なぜかずっと思っていて。でもできあがったのはああいう感じでしたが、先日の『多摩川レコード再現ライヴ』(9/2渋谷クラブクアトロ)でも、お客さんが一緒にみんな歌ってくれて、愛されている作品だなと改めて思いました。そんなアルバムを一枚でも残せた事は、ラッキーだなと思います」。多くの人、アーティストに影響を与えたTHE BLUE HEARTSの1stアルバム、そして同じように、後にデビューするアーティストや多くのポップスファンに影響を与えた『多摩川レコード』、どちらも聴き手が受けた“衝撃”は凄まじいものがあった。

今も色褪せない1stアルバム『多摩川レコード』。「『帰ってきた~』は、あの時のワクワク感を感じながら作る事ができた」(ワタナベイビー)

そんな“衝撃”を『帰ってきた~』では再び感じる事ができる。ワタナベイビーは「今回は、あの時のワクワク感を感じながら制作する事ができ、ワクワクするいい作品に仕上がりました。こんなことを本心で言えるアルバムを作る余力が、自分にあるなんて思っていなかった(笑)」と自画自賛している。フォーキーで、ロック、遊び心満載でどこか捻くれた、毒っ気のあるポップスが支持されされ続け、以来、愚直にホフ流ポップスを作り、歌い続けてきた。もちろん『帰ってきた~』もそんな二人の情熱が溢れている。

変わっていく時代の中で、毒も愛嬌も感じる、自由でエバーグリーンなポップスを奏でるホフディラン

小宮山雄飛
小宮山雄飛
ワタナベイビー
ワタナベイビー

『帰ってきた~』は14曲中、小宮山曲が7曲、ワタナベイビーが6曲という構成で、「あの大震災以来、ハッピーな事しか書きたくないし、歌いたくない」という小宮山曲は、ファニーでハッピーな曲が多い。自分のソロ用に準備していたという、アルバムのオープニングナンバーで、50’sの洋楽の薫りとせつなさが漂う「僕のかわいい女の子」は、「これがアルバムの1曲目にくるとインパクトがあると思った」と、最後にレコーディングした曲で、特に思い入れの強い1曲として挙げた。ワタナベイビーが書いた曲で、特にお気に入りの曲として「あの風船追っかけて」と「恋は渋谷系」を挙げ、「ワタナベ君は、テーマが決まっていたり、誰かに提供する時は、職業作家的な立ち位置の仕事をして、キュンとする曲を書く」と絶賛している。一方ワタナベイビーは、特に思い入れのある曲として2曲目の「ヤンヤンヤン」を挙げた。この曲は、デビュー前から存在していた曲で、当時の担当だった前出の吉村氏もお気に入りだったという。しかしなかなか陽の目を見る事はなく、今回ようやく収録されたベイビー節全開のシンプルなラブソングで、「僕の一番典型的な曲なので、いかにもって感じでしょ?うちの散らかった部屋にいくらでも転がっているような(笑)」と、変わらない毒っ気のある言い方で笑わせてくれつつ、ようやく音源化されたことを喜んだ。小宮山曲では、小宮山同様「僕のかわいい女の子」が「できあがりが想像していたよりも全然良くなって、好きな曲」と絶賛している。また今年6月にリリースした配信限定シングル「雨あがりの夜空に/映画の中へ」の2曲も収録されている。「雨あがりの夜空に」では、仲井戸"CHABO"麗市がレコーディングに参加しており、ニセ☆忌野清志郎=ワタナベイビーとの絡みは必聴だ。「映画の中へ」は小宮山作品で、映画の本編前に流れるポリシーシネマ用のBGMとして使用された、ビッグバンド風のサウンドのジャズテイストで、せつない歌詞と共にファンの間では人気の高い一曲だ。

『帰ってきたホフディラン』(10月18日発売)
『帰ってきたホフディラン』(10月18日発売)

「僕のかわいい女の子」を始め、変わっていく時代の中で、変わらないホフ流ポップスが貫かれているこのアルバムは、より自由で、人懐っこいポップスの集合体だ。「僕らは本来、もっとベテランになっているべきかもしれないし、悪く言えばもっと老いているというか、錆びついているというか、でもそのどちらでもなく、成長もしていなければ老いてもいなくて、1996年からデロリアンでここに来てしまったような感じです」(小宮山)、「僕は実際成長していないというか、今まで成長を拒みながらやってきたと思っていて。ビジュアルは老人になりましたけど(笑)」(ワタナベイビー)。

変わっているけど変わらない、深化したホフディラン流ポップスは、これからも聴き継がれ、語り継がれていく。

ホフディラン オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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