Yahoo!ニュース

FLOWER FLOWER・yui「正直、シーンに戻ってこれると思っていなかった」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

FLOWER FLOWERが活発に動いている。yuiは、ますます“バンドのボーカル”としての佇まいがより魅力的になり、バンドの音楽性は斬新で進取的精神に富み、より個性的になっている。

6月に東京、大阪で3年半ぶりかつ初のワンマンライヴを敢行し、ファンを熱狂させる

FLOWER FLOWERは2013年にそのキャリアをスタートさせ、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「JOIN ALIVE」「New Acoustic Camp」「COUNTDOWN JAPAN」などの大型フェスに出演したほか、対バンスタイルの自主企画イベントも行うなど、ライヴに軸足を置いた活動を行っていた。7月に「月」、翌2014年5月に「神様」を配信リリース。さらに8月には橋本愛主演の映画『リトル・フォレスト 夏・秋』の主題歌に新曲「夏」「秋」が起用された。そして11月、初のパッケージ作品、1stアルバム『実』を発表。しかし2013年の『COUNTDOWN JAPAN』への出演を最後に、スタジオワーク以外、目立った活動をしていなかった。

画像

そして今年5月8日、大阪、東京でワンマンライヴを行うと突然アナウンスし、ファンを喜ばせた。その後も夏フェスへの参戦、1年ぶりのシングル「マネキン」(8月2日)の発売と、態勢は整った。そして6月22日に約3年半ぶりで、初となるワンマンライヴをビルボードライブ大阪で、6月30日に東京・恵比寿ガーデンホールで行った。その見事なバンドアンサンブルにFLOWER FLOWERというバンドの可能性を、改めて感じ取った人が多かったはずだ。

「3年半ぶりのライヴは、色々忘れていたこともありました(笑)。バンドとしていうとグルーヴの出し方とかも忘れていたり、でも途中から「これだったこれだった」と体が思い出し、いい演奏ができたと思います」と、大阪でのライヴは最初はブランクから来る戸惑いがあったものの、徐々に感覚が戻り、改めてこのバンドでやる事の喜びをかみしめた。同時にFLOWER FLOWERというバンドの“手応え”を実感した。「ライヴをやらせていただいて、これからの活動もいい方向に向かっていくと確信できました。リハや制作をやっていた時にはまだ見えにくかった、今後のFLOWER FLOWERの未来が見えたような気がしました」。

「今までは自分というロウソウを大きな炎で燃え上がらせ、自分でどんどん削っていた。でも今は違う」(yui)

yuiはバンドの活動当初は金髪のショートヘアが印象的だったが、ニューシングル「マネキン」のMUSIC VIDEOやアーティスト写真では一転、黒髪のロングヘアー姿で登場し、心境の変化、音楽への向き合いの変化をその外見、表情から感じさせた。「今までは、自分というロウソクを、大きな炎で燃え上がらせ、どんどん削っていたのだと思います。今はその減り方がすごく少なくなった。それは子どもが生まれ、守るものができ、自分が壊れてしまったらいけない状況だからだと思います。メンバーもいるし、支えもあるので、そういう意味では、自分をあまり追い込まず、負担を掛けず歌えるようになった感じがします。こんなに気持ちよく歌っている事、今までにあったかなあと思うくらいの自由さというか」。

10代からシンガー・ソングライターとして大きな注目を集め、常に大きな期待の中で音楽活動をしていく中で、歯車が狂い始め、楽しかったはずの歌う事が、楽しくなくなり、だんだんと納得のいく歌が歌えなくなっていった。そしてソロ活動を休止し、FLOWER FLOWERをスタートさせた。「このバンドを始めた頃は、ロックというか歪んだ音を好んで使ったり、怒りをモチベーションに音楽を作っていました。さすがに出産とか結婚を経験すると、そこは変わってくるだろうと思っていましたが、リハーサルスタジオに入って、久しぶりにメンバーと音を出してみると、逆にこのバンドは自分が思っているよりも、ロックが似合うかもしれないと思いました。実際に音を出してみたら「あれ、私変わっていない部分もあるな」って。それでまた考え方が変わって、シングルも最初に考えていたものよりもヘビィなロックの「マネキン」でいってみようよって、メンバーに提案しました」。

「「マネキン」の歌詞を書いた事で、素直になれた。”私は弱いけど、それでいいんじゃん”って。是非女子高生に聴いて欲しい」(yui)

「マネキン」(初回生産限定盤/8月2日発売)
「マネキン」(初回生産限定盤/8月2日発売)

その言葉通り「マネキン」は、前作「宝物」の、温かかった感じから一転して、初期衝動のような熱さを感じさせてくれる、“ヘヴィなアコースティック”とも呼びたいロックだ。強い音とシンプルだけどヒリヒリする言葉が、鋭さを感じさせてくれる。「「神様」(2014年)もそうでしたが、メッセージ性や強い主張がある曲を、時々意識して作りたいと思っているので、タイミング的にもバッチリでした。是非女子高生とかに聴いて欲しい。最初は強い言葉で書き始めたのに、最後は弱い自分でもいいじゃんってなっていて。登場人物が二人いるような感じもしますが、人間は本来心の中にもう一人の自分がいるものだと思うし。人に合わせたり、人の意見に流されるのではなくて、もっと自由にやればいいじゃん、合わせる必要ないじゃんって思って、それを言葉にしたら、自分に答えが返ってきた気がして。私は弱いけど、それでいいじゃんって、もう一人の自分に言われた気がします」。より自分に素直になり、心の自由を手にしたyuiの歌の表現力は圧倒的だ。それはyuiを支えるメンバー、mafumafu(ベース)、sacchan(ドラムス)、mura☆jun(キーボード)、という、それぞれが数々の有名アーティストのバックも務める、凄腕ミュージシャン達が弾き出す音の影響も大きい。yuiの歌にきちんと寄り添いながらも、それぞれの音がしっかり主張し、極上のバンドアンサンブル作り出している。「今までは勝手に一人で鎧を着ていた気がしていて、でも今はみんなで共有している感覚があるので、その鎧が少し軽くなっているというか、なんなら着ていない時もあるくらいで、それだけ自由に歌えているのかなと思っています」。

「FLOWER FLOWERは、このメンバーを自慢するためにやっている」(yui)

そしてさらにyuiとバンドの関係性、個性派集団が信頼関係で繋がっている事を象徴しているのはyuiの「いつも冗談っぽく言うのですが、FLOWER FLOWERをやっているのは、このメンバーを自慢するためにやっています。バランスも良くて、本当にかっこいい音を出してくれます」という言葉だ。類まれな才能のボーカリストをリスペクトするバンド、そしてyuiはこのバンドが音楽の、さらに今の自分の心の拠りどころになっている。それを感じるのがシングル「マネキン」であり、カップリングの「ドラマ」だ。「ドラマ」もこのバンドの真骨頂ともいうべきセッション感溢れる、シンプルだけど重厚なサウンドにピアノが絡むジャジーなアプローチに、yuiの歌が差し色になって、それぞれを引き立たせている。一緒に音楽を奏でる事ができる幸せを、4人がかみしめているのが伝わってくるようだ。

加速し出したFLOWER FLOWER。yuiは今、このバンドを、そして自分自身の事を俯瞰でどう見ているのだろうか。「3年半もライヴができてなかったから、またできて感謝しかないです。正直戻ってこれると思っていなかった。ミュージシャンって、作品を出したりライヴをやったり、とにかく出し続ける、やり続けることで成立しているものだと思っていたので、ステージに3年立たないというのは相当な覚悟というか、全てを失うかもしれないということも考えました。でもまたこうやって機会をいただけたので、メンバーがついてきてくれる限り、一生懸命頑張りたいと思います」。

シングル「マネキン」と「ドラマ」では、改めてyuiのボーカリストとしての可能性、メロディメーカーとしての才能を強く感じさせてくれたと共に、これまでの音楽の固定概念を壊すような、新しい音楽を提示してくれるバンドである事を証明してくれた――まさにFLOWER FLOWERという名の“衝撃”である。

FLOWER FLOWERオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事