”日本のAORの女王”・八神純子 これからも歌い続けていくために必要な事、大切にしたい想い

「苦労し、謙虚な気持ちで歌う歌は、また違う響きを持って、伝わると思う」

7月8日Bunkamuraオーチャードホール
7月8日Bunkamuraオーチャードホール

7月8日、渋谷Bunkamuraオーチャードホールのステージでは、東京フィルハーモニー交響楽団が奏でる、たおやかで流麗なサウンドをバックに、八神純子が普遍的な名曲の数々を、その圧巻のボーカルで披露していた。伸びやかで、一転の曇りもないその声は、デビュー40年を迎え、さらに透明度と輝きを増していた。『八神純子プレミアム・シンフォニック・コンサート2017』はその名の通り、フルオーケストラをバックに八神が歌うスタイルで、オーケストラの一人ひとりが奏でる楽器の音がひとつになって、さらに八神の歌声と重なり、ひとつになって、得も言われぬ感動が客席を包む。この日も「パープル タウン」「思い出は美しすぎて」「ポーラー・スター」「みずいろの雨」「Mr.ブルー~私の地球~」というおなじみのヒットナンバーから、昨年発売したオリジナルアルバム『There you are』からも披露。東日本大震災の被災者と交流から生まれたバラード「1年と10秒の交換」は、ひとつひとつの言葉を丁寧に伝えようとする、八神の想い、表現力によって、まるで言葉に翼が生えたように、客席の一人ひとりの元に届いていた。

この日はゲストに元オフコースの鈴木康博を迎え、八神の「この曲をギターを弾きながらオケと歌って欲しい」という強い希望で、鈴木のオフコース時代の名曲「一億の夜を越えて」を、アコースティックギターとオーケストラというスタイルで披露。疾走感のあるロック調の同曲が、激しさを失うことなく見事にドラマティックな曲に仕上がっていた。MCもふんだんに取り入れ、オーチャードホールという会場と、オーケストラとの組み合わせが醸し出す緊張感を、少しでも和らげ、歌をゆったりと聴いてもらうように気遣っていた。全18曲をまさに魂を込め歌い切った八神への拍手は、いつまでも鳴りやむことがなかった。

「ビルボードクラシックスのステージに立つのに、ふさわしいアーティストでいたい、その思いが全ての仕事にいい影響を与える」

この感動のコンサートから数日後、八神に話を聞くことができた。今回のコンサートの事から、秋に行う自身が主催し、手作りで行うコンサートツアー「キミの街へ~再会~」の意気込みまで、“日本のAORの女王”の胸の内を聞いた。

「“ビルボードクラシックス“はこの公演で4回目になりました。たくさんのレパートリーの中から公演を時間内に収めるために選曲に悩んでいると、プロデューサーが、今回は中盤でのオーケストラによるクラシック曲の時間を私の歌に、と言って下さいました。これにはまた悩みましたが、やはり、お客様に1曲でも多くの歌を聴いてもらいたいという思いから、オーケストラの演奏の時間も私の歌のためにいただきました」。それは信頼関係があるからこそできた事であると八神は言う。「このコンサートの回数を重ねるごとに、私がビルボードさんの期待に応えたいという気持ちが、ものすごく高くなってきています。ビルボードクラシックスのステージに立つのにふさわしいアーティストでいたいと思うし、そういう気持ちでいる事が、私の仕事全てにいい影響を与えていると思っています。ビルボードクラシックスのお仕事を頂いて、もうかれこれ3年になりますが、この3年で私を大きく成長させてくれたコンサートです。このコンサートを、よりたくさんの人に認知してもらうにはどうしたらいいかということも一生懸命考えました。そして少しでもファンの方に喜んでもらいたいと思い、リハーサルを公開させていただいたり、これも東フィルさんやビルボードさんの協力なしでは実現しなかったことです。コンサート当日に向かう道のり、本番、終わった後までがしっかり繋がっているイベントなので、学びがとても大きいのだと思います」。

そしてチームの関係性がステージには全て出ると教えてくれた。「主催者とアーティストとのチームが一つにならないと、スペシャルなコンサートはできないという事が、この1年くらいでわかりました。チームはひとつにならなければいけないとよく言うし、私も今までそう思ってやってきたつもりでしたが、チームが一つになるというのはどういうことなのかという事を、改めて教えられました」。

八神は今年1月にも同じオーチャードホールで「ヤガ祭り」と題して、バンドとオーケストラという構成で約4時間半、まさに“歌いまくった”。今回のコンサートはフルオーケストラが作り出す凛とした空気と、繊細かつダイナミックな音によって、八神の曲のメロディの美しさがより際立っていた。「今回はとにかくじっくりと聴いてもらいたいと思って。座ってゆっくり聴いて欲しかったので、割とバラード系の曲を多くしたのですが、ギリギリまで迷いました。でも最後まで座って聴いてくださって、スタンディングオベーションをして下さって、それが私にとっては一番のご褒美でした」。

元オフコースの鈴木康博をゲストに迎えた事も、今回のコンサートの大きなトピックスだった。「一億の夜を越えて」を初めてオーケストラバージョンで披露するという事で、多くのオフコースファン、鈴木ファンも駆けつけた。

「せっかく交響楽団でやるのだから、私は最高にカッコイイ鈴木さんを見せつけたい!と思ったので、「一億の夜を越えて」をやりたいと思いました。あの曲は最後に鈴木さんが「サンキュー!」と言ってキメたのですが、これは東フィルさんも楽しんで協力してくださり、ホッと和んだ瞬間でした」。

「復興支援で学んだ事は、自分のためにできないことでも、人のためにはできるという事」

八神は2011年の東日本大震災の復興支援を積極的に行い、その際の体験、経験が自身の歌手人生に大きく影響していると、様々なインタビューでも語っている。人を楽しませるという事の素晴らしさを、再確認できたという。「自分のためにはできない事でも、人のためにはできるという事を、東北の支援をして強く思いました。チャリティーコンサートをやりたいのに、どうすれば良いのか分からなくて色々な人にメールを書きまくっても、何も戻ってこないという状況もありました。それでJAさんに電話をして、思いを伝えたらJAさんが受け止めてくださって、最初のチャリティーコンサートを、私の地元・愛知県のセントレア空港で開催することができました」。

「アルバム『Here I am』では人々の心に寄り添い、『There you are』では、私を待ってくれている人達がいる事がわかり、感謝の気持ちを込めた」

震災後の2013年に発売したアルバムは『Here I am』で、私はここにいるよと人々の心に寄り添い、最新アルバム『There you are』では、待っていてくれてありがとうと感謝の気持ちを表し、その心の変化を歌に込めている。「『Here I am』を作った時には、被災からそんなに日にちが経っていなくて、素朴なもの、東北の風景が浮かんでくるような歌や、励ましたいという思いがこもっている歌、その時の私を表している歌が多かったです。東北の人達も懸命に頑張って、自分の仕事に徐々に戻っていくという時間の流れの中で、私はここにいますよという意味を込めた『Here I am』で。『There you are』という言葉は、行く先々でコンサート、私をずっと待っていてくれた人がいるんだという事を改めて感じて。知らない街に行っても、私を待ってくれている人がいるんだという事がわかって、その思いを『There you are』というアルバムに込めました。『There you are』を作る前あたりから、ビルボードクラシックスのお仕事を頂くようになって、プロの歌い手としてもっと極めたいという気持ちがどんどん強くなってきて。なので『There you are』というアルバムの中には、ビルボードクラシックスで歌ったら絶対いいだろうなという事も見据えて作った曲もあります」。

被災者の事を想い、書いた「1秒と10秒の交換」を八神が歌い始めると、涙を流す人が多く、リアルな歌詞とオーケストラの音、そして八神の表現力豊かな歌が大きな感動を作りだしていた。「今回あの曲を入れると、ズシンと重くなるのでどうしようか迷いましたが、でも歌っておくべき歌だなと思ったし、オーケストラでやる事によってより一層伝わる歌だと思いました」。

コンサート終演後、八神はすぐにロビーに登場し、サイン会を行った。あれだけパワフルな歌を2時間歌った後とは思えない元気さで、八神を待つファンの元にすぐに駆け付けた。「握手会、サイン会はとっても素敵な時間で、できる限りやりたいです。自分が自信を持って作った作品なので、聴いて下さる方に直接渡したいという気持ちがすごくあって、どんな買い物でも価値があれば高くないじゃないですか。3,500円という値段を高く感じる人もいれば、安いと思う人もいて、でも私が買って下さった方の目を見て、握手をして、これすごくいいので楽しんでくださいって渡すことによって、それが高いものではなくなってくれるといいなって。思い出と一緒にその人の元にある、とても大切なものに変わると思います。CDショップやネットでそのアルバムを目にした時にも、その握手会の時の事を、きっと思い出してくれると思います」。

9月からのツアーは、スケジュールを自分で決め、自分で会場を押さえて行う。とにかく歌いたい、歌を届けたいという強い思い

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八神は9月から『キミの街へ~再会~』というコンサートを行い、待ってくれているファンに会いに行く。これまでのツアーと違うのは、今回は八神が自らツアーを組み立て、会場を押さえ、まさに手作りでやっているという部分だ。八神ほどのキャリアのアーティストが、今またこういう動きをするのはなぜなのだろうか。「このタイトルは、初めて会う人はもちろん、テレビで見てくれていた人も、直接私の声を聴いた事がないという人も多いと思いますが、そういう方も含めて、みなさんに“再会”するという意味を込めました。今、私のようなアーティストがコンサートをやろうとすると、その会場、会館の自主開催、共催で、というパターンが多くなって、そうなると集中した日程が組めなくて、結局リハーサルを何回もやり直さなければいなくなるし、でも私はとにかく毎日歌いたいのに、これは困ったなと思い、それだったら自分でツアーを組んじゃおうと、会場を押さえました。『There you are』のコンサートツアーでまだ行けていないところを選びました」。

「歌う場所があればあるほど、アーティストは成長する。だからオープニングアクトに、地元のアーティストに登場してもらう」

アーティストがリスクを負って自主興行で歌う場所を確保するのは、それでも歌を歌いたい、届けに行きたいという、純粋な想いからの動きだろう。もちろんプロモーションプランも自身で考え、イベンターと相談しつつ実行している。「このコンサートの目的はもうひとつあって、プロでもアマチュアでも、ライブをたくさんやっているアーティストは、やっぱり歌う場所ってすごく大事だと思うし、歌う場所があればあるほどアーティストは成長すると思うので、私のライブのオープニングアクトとして、地元のアーティストに登場してもらって、歌を披露してもらいます。そこでまた何かを得て、羽ばたいてくれるといいなと思って。米子では地元の「リトルフェニックス」という少年少女合唱団との出会いがあり、彼らを迎える予定にしています」。

「今の私にとって、苦労して主催しようとしているこのツアーは、実はすごいチャンスをもらっているのかもしれない」

歌う場所を確保するという事が、どれだけ大変かという事を今回実感した八神の、同様にそれぞれの地区で頑張って活動しているミュージシャンへの粋な計らいだ。「一生懸命地元でやっている人達と分かち合えば、分かち合うという事で新たに生まれるものがあると思うので。今回プロモーションで各地にお邪魔した時に、出演していただくアーティストに、プロモーションにお付き合いしてもらっています。そのアーティストのライブも観に行きましたが、とても新鮮な気持ちになれました。こういう事って、自分がゼロからやっているからこそ考えられる事で、やっぱり人任せにしていると、こんな事は考えつかないと思います」。

歌への向き合い方が変わったという八神の姿が、新しいツアーではより近くで見る事ができ、“魂の歌”を聴くことができそうだ。「やっぱり歌は私の生き方がそのまま表現として出るので、多分苦労してコンサートを主催しようとしている私が歌う歌は違った響きを持つように思います。自分でリスクを持ち、「コンサートに来てください!」ってお願いすることでとても謙虚な気持ちになれます。コンサートのチケットが即日完売!なんていう状況はもちろん理想的ですが、今の私にとってこのコンサートツアーは、実はすごいチャンスをもらっているのかもしれないと感じています」。

どんな状況になろうとも歌い続ける、歌を届けるという強い想い、そしてさらに成長を続けたいと思う気持ちが、ヒット曲を多く持つキャリア40年のベテランを、さらに強くする。

『OTONANO』八神純子スペシャルサイト