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Chageが語る”ポプコンライヴ”の魅力 「ここが自分の原点 あの頃に戻るチャンスをくれる」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「「僕らのポプコン~」は、原点を見つめ直すチャンスを与えてくれた」(Chage)

昨年末、ヤマハが運営するリゾート施設「つま恋」が、40年を超えるその歴史の幕をおろしたというニュースが伝えられ、中高年の音楽好きは「あのつま恋が」と驚きと共に、淋しさを感じた人も多かったはずだ。「つま恋」は「ポプコン」(ヤマハポピュラーソングコンテスト)の本選会場として、70年代~80年代後半まで、プロデビューを目指す全国のアマチュアミュージシャンにとって聖地だった。のちに吉田拓郎が伝説のオールナイトライヴを行ったり、夏フェス「ap bank fes」の会場にもなったり、音楽ファンにはおなじみの会場だった。

今のようにSNSやYouTubeなどで、自分達の音楽を広く伝える手段や、レコード会社にデモテープを送るという手法が一般的ではなかった70年代~80年代後半は、いわゆるコンテストやオーディションで、デビューのチャンスをつかむというのが一般的だった。その中で「ポプコン」は草分け的な存在で、井上陽水、中島みゆき、小坂明子、長渕剛、八神純子、世良公則&ツイスト、チャゲ&飛鳥、クリスタルキング……数え切れないほどの、のちに音楽シーンを牽引するアーティスト達が、ここをステップとして選んでいる。そういう意味で「ポプコン」が、若いアマチュアの才能を積極的にフォローアップし、日本の音楽史上に残る名曲の数々を残したその功績は大きい。

昨年行われた第1回目の『僕らのポプコンエイジ ~』
昨年行われた第1回目の『僕らのポプコンエイジ ~』

昨年、そのポプコン出身者が一堂に会し『僕らのポプコンエイジ ~Forever Friends, Forever Cocky Pop~』が、東京・千葉・埼玉の3か所で行われ、大盛況だった。Chage、鈴木康博、石川優子、三浦和人(元雅夢)、辛島美登里、小坂明子、渡辺真知子他が出演し、名曲の数々、様々なコラボレーションでファンを楽しませた。その『僕らのポプコンエイジ~』が、今年も5月7日の東京・府中の森芸術劇場を皮切りに、神奈川、千葉、大阪で行われる。昨年出演したメンバーに加え、世良公則&神本宗幸らの出演が決定しているが、その観どころ、そして自身にとってのポプコンという存在、ポプコンの思い出を、ライヴの出演者のひとりChageにインタビュー。チャゲ&飛鳥(当時)誕生秘話などを語ってくれた。

「「僕らの~」は、お客さんはもちろん、出演者が心から楽しんでいる。みんな特別な想いで参加している」(Chage)

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「お客さんが誰のファンとかではなく、ポプコンで青春を過ごした人達が集まってきてくれたので、会場の雰囲気がとにかく温かくて。それぞれの青春の場所に返っていくさまが、お客さんの顔を見ているとわかるんです。そういう意味で素敵なイベントが始まったと思った」。昨年第一回目の感想をChageはそう語ってくれた。当時はポプコンから生まれた楽曲を、「コッキーポップ」という、テレビ(日本テレビ)とラジオ(ニッポン放送)の双方で展開していた番組を通じて発信し、多くの人の耳に届けていた。国民的ヒットを量産した、ポプコンという“括り”でひとつになるイベントが、これまでなかったのも意外だ。「やっとできると思い、嬉しかった。お客さんはもちろんですが、出演者も本当に楽しい時間を過ごせました。こういう機会がないと会えなかった人も多いので、みんな感謝していました。当時の話に花が咲いて、楽屋だけではなく、リハでもみんな口ずさんでいるし、本当に温かい雰囲気で、よくぞこの企画を考えてくれました。アマチュア時代に「つま恋に行こうぜ」という、同じ志を持った人間が今ここに集結して、みんな特別な想いで参加しています」(Chage)。

Chageもポプコンに参加した事が、自身の人生の中でも大きなターニングポイントになっている。「当時、楽器をいじり、歌を歌っていた人達は、腕試しじゃなけいど、みんな一度はポプコンに応募していたと思います。ヤマハはアマチュアに対して懐が深くて、地区別対抗戦のようになっていました。スタッフの方たちの情熱もすごく感じていましたし、残念ながら閉鎖されてしまいましたが「つま恋」というステータスがあったので、そこに少しでもかかわる事ができた事は誇りです」(Chage)。

”チャゲ&飛鳥”「ポプコン」激闘記

38年前のポプコンに出場し、プロを目指している時の自分を今でも鮮明に覚えているという。「当時僕は大学を留年してしまい、実家が福岡で天ぷら屋をやっていたので、次男という事もあり、三代目を継ぐのかなとおぼろげに思っていました。でも高校時代からラジオで「コッキーポップ」を聴きながら、ポプコンの存在ももちろん知っていて、音楽をやっていました。大学に入っても軽音楽部に入ってさらに音楽にのめり込んで、そんな時に博多のヤマハに行ったらポプコンの応募用紙があるわけですよ(笑)。それで青春の思い出にエントリーしてみようと思って、出てみたら福岡地区大会でグランプリを獲ってしまって。その場からすぐ親父に電話をして「ごめん、(家を)継げんようなった」と言いました(笑)。この後九州大会があって、そこでグランプリを獲らないとつま恋の本選にも出られないのに、舞い上がってしまった僕は、親に「継げん」と言ってしまって(笑)。でも九州大会ではグランプリを獲れなくて、そうするとやっぱり悔しくて、つま恋に行きたくなるじゃないですか。憧れだったつま恋が目の前に見えてきて、頑張れば行けるんじゃないかとスタッフからも言われ、飛鳥(当時)と二人で組んで歌ったらどうかと提案されました。それでツインボーカルのバンドスタイルで九州大会に出て、グランプリは獲れませんでしたが、その時に男性デュオは面白いかもしれないと二人とも思って。1978年の大会にチャゲ&飛鳥として「流恋情歌」で念願のつま恋での本選会に出場しました。それで親父には「本当に継げん」と言いました(笑)。デビューが決まっていないのに(笑)」。

自信満々でつま恋の本選に乗り込んで行ったチャゲ&飛鳥は、全国の予選を勝ち抜いてきたファイナリスト達の実力を目の当たりにして、戦う前に白旗を上げたという。「リハで全国から集まってきている凄い人達の歌を聴いて、九州でグランプリを獲ったくらいで、有頂天になっている場合じゃないと思い知らされました。大阪代表の円広志さんが出てきて「♪飛んで飛んで~」と歌った瞬間に、飛鳥に「帰ろうか」と言いました(笑)。「ダメだこれは、無理だ」と。次から次へと凄い人たちが出て来て、大友裕子の「傷心」を聴いて「凄い女性シンガーがいる」と驚き、これはグランプリは絶対無理と確信しました。その時のグランプリは円広志さん「夢想花」でした。やっぱり悔しくて。それでまたチャレンジしようという事になり、九州のスタッフと傾向と対策を練って、やっぱりインパクトがある曲が必要だろうと。それでできたのが「♪燃えて散るのが花」の「ひとり咲き」(デビューシングル)です。下馬評は高くて「第17回は九州(チャゲ&飛鳥)じゃない?」と言われ、見事九州大会でグランプリを獲って、再び全国大会に臨みました。そのリハで今度は前回とは逆の現象が起こりました。僕らが歌ったら、他の出場者が「負けた」とか「敵わない」と白旗を上げたので、僕らはそこで天狗になってしまったんですね(笑)。それで本番で歌を間違えてしまって。せっかく大村雅朗さんがアレンジしてくれた音と歌が合わなくなってしまい、まさに不協和音が会場中に流れて、当然グランプリは獲れませんでした。最優秀賞も獲れず、入賞止まりでした。最優秀賞までが日本武道館で行われる「世界歌謡祭」に出場できる権利があって、当然僕らは武道館で歌うつもりでした(笑)」。Chageは自身の、そしてチャゲ&飛鳥としての“ポプコンの日々”を、鮮烈な思い出として、まるで昨日の事のように語ってくれた。悔しい想いもし、苦い思い出ではあるが、チャゲ&飛鳥は、1979年にワーナー・パイオニア(現ワーナー・ミュージックジャパン)からメジャーデビューを果たした。

「「僕らの~」に来ているお客さんは、本当にキラキラしている」(Chage)

Chageと同様に、ポプコンという場所で特別な時間を過ごし、想い抱えたアーティストが集う『僕らのポプコンエイジ~』は、アーティストが心からステージを楽しみ、自ずとそのノリや空気は客席に伝わり、そこは特別な空間になる。「純粋にあの頃に戻れるというか、戻るチャンスをくれる、原点を見つめ直すチャンスを与えてくれました。出演者はみんなそう言っています。僕もデビューしたての20代の頃に戻っている感じです」(Chage)。今年は第2回目という事もあり、内容もブラッシュアップさせ、アーティストもさらに気合が入っているようだ。

Chageと石川優子
Chageと石川優子

「僕は去年、石川優子さんと「二人の愛ランド」を25年ぶりに歌わせてもらったのですが、お客さんが本当に喜んでくれて、ふだんはライヴに来ても、もう立たないだろうなあという感じの人が(笑)、立ってノリノリで口ずさんでくれて、その感触が忘れられません。僕もそうですが、お客さんも年を重ねてきて、でもステ―ジ上から見るお客さんは本当にキラキラ輝いていて。みなさん笑顔で、ある意味アンチエイジングになっていると思います(笑)。音楽の力だと思います。今年は八神純子さんが全会場出演してくれます。今もものすごい歌を聴かせてくれますので、皆さんに喜んでもらえると思います」(Chage)。

それぞれのアーティストの名曲はもちろん、予想できないコラボも楽しみだ。「百戦錬磨のアーティストばかりなので、去年もリハーサルは一回で、後は当日現場でという感じでした。それで十分なんです。みんなわかっているからすぐに歌えるんです。でもさすがに世良公則さんと「あんたのバラード」「燃えろいい女」を歌えと言われても、「先輩、さすがにそれは無理です」と言いそうですけど(笑)」(Chage)。

CDショップへも、昔はよく行ったライヴにも行かなくなった世代、人達が足を運べる場、楽しめる場を作ったという意味でも、このライヴの意義は大きい。ポプコンというアイコンがあるだけで、わかりやすく、参加しやすいというのがお客さんにとっては嬉しいはずだ。「ポンと音を出すだけで当時に戻れるし、どこの会場も僕はそこが「つま恋」に見えてしまいます。お客さんもこのライヴがタイムマシンだと思って、当時の事を思い出し、気持ちも若くなり、物置に眠っているギターを出してきて弾いてみたり、古いレコードを引っ張り出して聴いてみたり、そういうふうになってくれると嬉しいです」(Chage)。

「これからは歌いたい曲を歌い時に堂々と歌っていく。それが一番自分らしいと思うから」(Chage)

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プロデビューを目指し、ポプコンに応募してから38年という時が流れ、Chageは来年還暦を迎える。本人は「全然意識していない」と言うが、CHAGE&ASKAとして、そしてMULTI MAX、ソロとして長年音楽シーンの第一線で歌い続け、年を重ねてきた今、音楽に対する考え方、想いというのはどう変わってきているのだろうか。「1979年「ひとり咲き」でデビューした時は、まさか自分が60歳になるまで歌っているとは思っていませんでした。当時はとにかく一生懸命で、自分の事しか見えていませんでしたが、今はお客さんがどうやったら楽しくなれるか、お客さんに寄り添う音楽ができればいいなと心から思います。シンガーとしてこれからも、歌いたい曲を歌いたい時に堂々と歌いたい。それが一番自分らしいと思っています」。シンプルな考え方だ。しかしキャリアを重ね、色々な時と事を経てきたからこそ、辿り着いた境地なのだろう。その「歌いたい曲を、歌いたい時に堂々と歌う」機会が、5月からスタートする『Chage Hall Tour 2017~ Have a Dream!〜』だ。これまでのライヴとは違い、オリジナル曲はもちろんJ-POPの名曲達をChageというフィルターを通して歌い、次代につなげていくというライヴで、新しい扉を開けたChegeの新境地を観る事ができそうだ。

「たった一度の人生ならば」(限定盤/5月3日発売)
「たった一度の人生ならば」(限定盤/5月3日発売)

そして5月3日にはニューシングル 「たった一度の人生ならば」をリリースする。悩んでも迷っても強く生きていくという、「人生について」の決意表明を歌った胸に迫る作品だ。カップリングは、チャゲ&飛鳥の作品で、ファンの間でも人気が高い「愛すべきばかちんたちへ」(オリジナルは1982年、アルバム『黄昏の騎士』に収録)を、愛をこめてセルフカバーしている。この曲は、長いキャリアの中で、ChageとASKAが詞も曲も共作した唯一の作品という事で、こちらも注目を集めそうだ。また、曲中の博多弁での2人のやり取りの部分には、今回は同郷の後輩でもある博多華丸・大吉がスペシャルゲストで参加している。

『僕らのポプコンエイジ ~Forever Friends, Forever Cocky Pop~』オフィシャルサイト

『Chage Hall Tour 2017~ Have a Dream!〜』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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