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“フジモン復帰”バッシングと野田クリスタルの発言の受けとめ方、まるで『不適切にもほどがある』再現

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

2023年10月に当て逃げ事故を起こして活動を自粛していたお笑いコンビ、FUJIWARAの藤本敏史が3月23日放送『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系)で地上波復帰を果たした。

MCの明石家さんまから「目が合ってしもた」「地上波一発目やぞ」と話を振られた藤本敏史は、「冷たくされて当たり前です」「本当に申し訳ありませんでした」と謝罪。ただ共演者から「逃げモン」と野次る声が飛ぶと、藤本敏史は「僕はもう絶対に逃げないので」「(テレビ番組の)『逃走中』に出ても絶対逃げないです。すぐ自首します」とコメントして笑わせた。

『逃走中』のくだりは事前に考えていたことだろうか。このあたりの反応の絶妙さは「さすが」と思えるもので、あらためてお笑い芸人としての感度の鋭さが光った。ほかにも活動自粛前よりも顔がふっくらしていて艶も良いと指摘された点も、いかにも“フジモンらしいおかしさ”があった(いずれもあくまで個人の見解です)。

“フジモン復帰”のバッシング、まるで『不適切にもほどがある』第8話

しかし、SNSやネットニュースのコメント欄は案の定、大荒れに。“フジモン復帰”を歓迎する視聴者がいる一方で、厳しい意見も目立った。その叩き方はまるでドラマ『不適切にもほどがある』第8話(3月15日放送/TBS系)で不倫アナウンサーの復帰をめぐるバッシングを再現したかのようである。

藤本敏史は、刑事罰を受け、被害者や迷惑をかけた関係者への謝罪と処分を経て、番組側から正式な依頼を受けて今回の出演となった。当て逃げは100パーセント悪いこと。しかしそのあとの復帰までの流れは手順を踏んだものである。とは言っても『不適切にもほどがある』に登場するテロップ「あくまで個人の見解です」のように、“フジモン復帰”の捉え方もそれこそさまざまな「個人の見解」があるだろう。

ただそんな“フジモン叩き”のなかで驚かされるのが、『さんまのお笑い向上委員会』でのやりとりを真に受けすぎている視聴者の多さである。特に、野田クリスタル(マヂカルラブリー)と藤本敏史のやりとりだ。

MCの明石家さんまら共演者からイジられて笑いを集める藤本敏史に対し、「吉本の風紀委員」こと野田クリスタルはただ一人「なんか明るいなあ。こんな笑いを取っている姿は見たくない」と首をひねり、藤本敏史の「野田、俺、150連休やったんやで。ある? そんな連休」との反論にも、「150連休、休んだ感じがないんだよな。温まりすぎているっていうか」と突き放し、「こんなに不祥事ばっかり起こして、吉本の芸人。当然のように戻ってくるのをここで処理するシステムができるのが、俺、許せないんですよ」「ここに出てきたら全部すっきりするみたいなのも鼻につくんですよ」とピシャリ。

そんな野田クリスタルの持論に、SNSやネットニュースのコメント欄では賛同の声も少なくなかった。「視聴者の気持ちを代弁してくれている」「本当にその通り」「その不快感に共感」という風な意見があるほか、逆に「そんなことを言うなんて野田クリスタルは何様だ」と“フジモンサイド”の怒りの声も見られ、なかなかのカオスに。

あと藤本敏史の「150連休」という言葉に引っ掛かりを覚えた視聴者もいるようで、不祥事による謹慎処分を「休暇」と表現したところが「反省の色が感じられない」とされた。つまり、なにをどうやっても叩かれるものは叩かれるのだ。ちなみにこういった不祥事タレントのあるべき態度と扱い方をパロディ化した傑作が、1月14日放送『チャンスの時間』(ABEMA)における「渡部建(アンジャッシュ)がやっていいはしゃぎ方と、やってはいけないはしゃぎ方」を千鳥がジャッジする内容である。

藤本敏史に物申した、野田クリスタルのトーンの“巧さ”

『さんまのお笑い向上委員会』をちゃんと鑑賞した上で野田クリスタルの考えに同意している人もいれば、「野田クリスタルが“フジモン復帰”に物申した」というようなネットニュースの見出しや記事内容だけで判断している人もいるだろう(『不適切にもほどがある』第8話でも番組を鑑賞していない人からの批判について描かれていた)。

ただ、バラエティ番組である以上、これらのやりとりは当然ながら演出である。もちろん野田クリスタルは本当に許せないと思っているかもしれない。それでもバラエティ番組としてそれぞれの“言い分”が放送され、共演者たちがそれをおもしろがる姿も流れるということは、それはやはりお笑いの演出なのだ。

なにより不祥事タレントの地上波の復帰初戦で、誰かが“厳しい世論”を代表する役割を担い、復帰ムードをあえて払拭したり、対立したり、白黒をはっきりさせたりして進行するのはバラエティのお決まりである。そうやってあえて不祥事に触れるなどすることで、そこへ戻りやすくしているのだ。

野田クリスタルが見事だったのは、それらをあのリアルなトーンでやってのけたこと。むしろあのトーンだったから、真に受けて賛同したり、“フジモン叩き”を加速させたりする視聴者が続出したとも言える。その点で、野田クリスタルはとにもかくにも“巧かった”のである。

バラエティやドラマなど作りものを“真実”として受けとめすぎることの危うさ

それでもあのやりとりをバラエティ番組の演出として感じられない視聴者が意外と少なくないことは、ちょっと危険ではないだろうか。

『不適切にもほどがある』でしつこく「あくまで個人の見解です」「この作品には、不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、1986年当時の表現をあえて使用して放送します」と注意喚起のテロップを入れたりするのも、そういった現在の視聴者への皮肉である。そしてそれは、ドラマとしての笑いの演出でもあるのだ。

同ドラマの第5話(2月23日放送)で、在宅医療法をしている患者の近くで主人公の小川市郎(阿部サダヲ)が煙草を吸う場面があり、それが問題視されて「誤解を招く表現があった」と公式サイトで謝罪が掲載された。これも「そういうドラマ(=作りもの)なんだから」と謝罪したことに疑問を持つ人もいれば、「謝って当然」と考える人もいた。同場面でなんらかの注意喚起のテロップが入っていなかったこともあるが、結局のところドラマ(=作りもの)の演出でやっていることに過ぎない(もちろん「作りものだったらなにをやっても良いのか」となるが)。それでもこういった内容のドラマでも謝罪に追い込まれるところに、いかにも“今っぽさ”が見られた。

一つ言えるのは、バラエティであれ、ドラマであれ、テレビ番組としてそこに映し出されるものを“真実”として正面から受けとめすぎる視聴者が増えてきたということだろう。正しいか、正しくないかは別として、それが現在なのである。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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