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千鳥・大悟、永野ら注目芸人たち 2024年春改編で見えたコンプラ時代でも愛される“不適切”なイメージ

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:アフロスポーツ/bj-league)

2024年春のテレビ番組の改編期がやってきた。3月でレギュラー放送を終了する番組のなかには、『アイ・アム・冒険少年』(3月4日終了/TBS系)、『ブラタモリ』(3月9日終了/NHK)、『世界一受けたい授業』(3月23日終了/日本テレビ系)、『日立 世界ふしぎ発見!』(3月30日終了/TBS系)など、長年続いていたタイトルも含まれており、「テレビ界のリニューアル」を印象付けるかたちとなった。

一方、今回のテレビ番組改編に際してトピックスとしてまず挙げられているのが、千鳥の大悟への期待感の高まりだ。

大悟とヤギが田舎旅をする『ヤギと大悟』(テレビ東京系)は3月8日でレギュラー放送を終了したが、4月からは芸人たちのプライベートの領収書やレシートにまつわるエピソードトーク番組『トークで落とせ!大悟の芸人領収書』(1日放送開始/日本テレビ系)、大悟から出題されるお題に芸人たちが30秒で挑む即興型のお笑い番組『開演まで30秒!THEパニックGP』(1日放送開始/日本テレビ系)の2番組でMCを担当。さらにコンビでは3月31日より再スタートとなるスポーツ番組『すぽると!』(フジテレビ系)にも出演する。なかでも『すぽると!』に抜てきされたのは、千鳥がいかに幅広い層に親しまれているかをあらわす結果となった。

千鳥・大悟は「今もっとも信頼されているお笑い芸人」

現時点でコンビ含め地上波レギュラーは『相席食堂』(ABCテレビ)、『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系)、『酒のツマミになる話』(フジテレビ系)など10本以上。さらにネット配信番組『チャンスの時間』(ABEMA)なども抱えている。

特に興味深いのが、ほぼすべての番組でMCをつとめ、芸人仲間らが奮闘する姿の“見届け人”のような立場を担っているところ。ワイプで映し出される大悟が、披露されるネタを見ながらツッコミを入れたりするスタイルの番組が非常に多い。この状況は、ダウンタウンの松本人志のような「この人がそう言うなら」という信頼の厚さに近いものがある。現在の若手芸人らはそういった場で「大悟にネタを見てもらい、感想を言ってもらうこと」が大きなステータスになっているはず。視聴者にとっても「このネタはそういうおもしろさがあるんだ」と、番組鑑賞をする上で大悟の発言を軸にしやすくなる。

さまざまな点で、大悟は「今もっとも信頼されているお笑い芸人」になったのではないだろうか。2024年4月のテレビ番組改編はあらためてそれが分かるものとなった。

毒舌キャラで再ブレイク・永野から感じる「捨て身の芸人の強さ」

この先1年のテレビなどの勢力図をあらわす上でも重要な春の改編。大悟のほかにも、この1年で大きな飛躍を遂げそうなタレントは誰なのか。

最注目は、毒舌全開のピン芸人の永野だろう。

3月17日放送『だれかtoなかい』(フジテレビ系)出演時も「毒舌キャラで再脚光」「今一番コメントが恐ろしい男」と紹介され、東野幸治の「2024年は永野の年になる」、令和ロマンの「5年後に天下を取るのは永野さん」というコメントも引用。現在の注目度の高さがうかがえた。永野は同番組で「もともと売れる前はそんな感じ(毒舌)だったんですけど、売れてからはどうしても愛されたいと思って」と2015年の1度目のブレイクを果たしたときは抑え気味だったと明かし、以降、番組出演などが落ち着き始めて「どうせテレビに呼ばれないしいいや」と自身のYouTubeチャンネルなどで毒舌をオープンにしたところ、好評を集めたのだという。

加えて2022年6月29日放送『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の「陰口企画」をきっかけとした後輩のお見送り芸人しんいちとの舌戦でも、永野の悪口、卑下などが冴えわたり、連日のようにネットニュースを騒がせた。『チャンスの時間』では、1月21日放送回で「年下には絶対笑わない」と後輩芸人たちのネタを腐しまくり、同年2月18日放送回では「今、一般人が付け上がっている。一般人からXを取り上げろ」など、暴論、極論を展開。

永野のすごさは、そういったネガティブ系の発言であってもちゃんと芯を食っているところ。「誰も言えないなら俺が言う」とばかりに、自ら嫌われ役を買うようにして言いづらいことをズバズバと口にする。前述したように「テレビは呼ばれないからいいやと思って」と捨て身になった芸人の強さを感じさせる。一方『だれかtoなかい』に出演が決まったとき、「ビビっちゃって。スタッフさん的には配信とかYouTubeのノリで、殴り込みって思っているかもしれないけど、俺だって人の子だからそりゃブレますよ」と本音を漏らすなど、毒舌家ながらチャーミングさも持ち合わせているところが親しめる。この1年は永野から目が離せない。

“キモダチ”のマユリカはネタ良し、平場のトーク良し、リアクション良し

『M-1グランプリ2023』で4位となったお笑いコンビ、マユリカも好気配が漂っている。

4月からは、大喜利と4コママンガの要素を組み合わせた『お笑い4コマパーティー ロロロロ』(3日放送開始/中京テレビ・日本テレビ系)、アイドルグループのFRUITS ZIPPERと共演する『マユリカとおねだりフルーツジッパー』(テレビ朝日系)がスタート。

Podcast番組『マユリカのうなげろりん!!』(ラジオ関西)がSpotifyなどで常にランキング上位を飾るようになり、同番組で企画されたビキニ写真集が5千部を売り上げるなど、“亜流”の道を進みながら熱烈な支持を獲得してきた同コンビ。

『M-1グランプリ2023』ではネタのおもしろさだけではなく、番組内で紹介された“キモダチ”という肩書きでもザワつかせた。ルックス的なイメージだけではなく、幼少期からずっと一緒の同級生コンビであること、コンビ名が自分たちの妹の名前を由来としているところなどが“キモダチ”と称された所以だろう。ただネタが終わり、真っ先に示したのが“キモダチ”への不本意な態度だった部分が爆笑を呼んだ。平場での立ち回りのうまさもインパクト大だった。

あと阪本はモーニング娘。のファンで、推しは野中美希。2023年8月8日配信『うなげろりん!!』で初対面することになったときは礼服のようなスーツを律儀に着て来たり、同年10月8日放送『ゴッドタン』で共演した際にはMCの矢作兼(おぎやはぎ)から「1日デートできるとかなったら」と質問され、「本来だって、関わるべき相手の方じゃないんですから。お話ししたいっていうのも恐れ多い相手なんで」と答えたり、アイドルファンとしてとにかく殊勝。取り乱しそうになりながらもなんとか平静を保つリアクションのおもしろさが際立っていた。

ネタ良し、平場のトーク良し、リアクション良しのマユリカがテレビ関係者から重宝されるのも納得だ。

コンビ揃って不祥事のTKO、“謝罪芸”で復権気配

永野、マユリカが大注目だが、ダークホースとして挙げたいのがベテランのTKOだ。

木本武宏、木下隆行ともに不祥事で松竹芸能を退社し、テレビ番組などからも敬遠されるように。ただ、いわゆる“チョイ役”でバラエティ番組に徐々に出演するようになると、手を前に組んで深々と頭を下げる悲壮感たっぷりの“謝罪芸”、後輩芸人らに弱みをつけ込んでこられても耐え忍ぶ“我慢芸”、自分自身を見つめ直す“改心芸”、ほんの少しだけ言い返す“反論芸”で笑わせるなど、さすがの腕前で必ず結果を残している。

2023年12月22日放送『千原ジュニアの座王 1時間SP』(カンテレ)では、コンビ揃って即興ネタに挑戦。不慣れだとする一発ギャグ、大喜利などでもちゃんとウケをとって印象を残した。

3月3日放送『お笑いワイドショー マルコポロリ!』(カンテレ)ではメイン企画も組まれるなど露出も増えてきており、復権気配が漂っている。

求められる“不適切さ”、コンプラやクリーンさが求められる風潮の揺り戻しか

大悟、永野、マユリカ、TKOの4組に共通するのが、現在のテレビ番組の主流には合わない“不適切さ”だ。

コンプライアンスが重視され、番組内容や出演者などすべての面をいかにクリーンに見せるかが優先事項とされる風潮のなか、永野は毒舌、マユリカはキモさ、TKOは不祥事……と、相反する要素が持ち味となっている。大悟も酒やタバコが好きで、かつては不倫発覚のスキャンダルもあった。昭和の感覚を持つ芸人とも呼ばれている。

ただテレビ関係者が、クリーンなイメージが薄かったり、脛(すね)に傷を持っていたりする芸人を求めているのは、近年、執拗に課題とされているコンプライアンスの揺り戻しではないだろうか。大悟、永野、マユリカ、TKOはそういった“不適切さ”もバランス良く、そしておもしろく見せることができるので、起用しやすいのだろう。

2024年春の番組改編で見えたのは、千鳥の大悟がそのポジションを高め、そして固めはじめていること。そして、永野、マユリカ、TKOを見かける機会がこれからさらに増えそうな予感である。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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