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さらば・森田、オズワルド・畠中、吉住ら芸人から熱烈支持のヒグチアイ、1億回再生曲の葛藤からの脱却

田辺ユウキ芸能ライター
ヒグチアイ/画像提供:ポニーキャニオン

1月24日に5枚目のアルバム『未成線上』をリリースしたシンガーソングライター、ヒグチアイ。

同作には、映画『その恋、自販機で買えますか』(2023年)主題歌の「自販機の恋」、ドラマ『初恋、ざらり』(2023年/テレビ東京系)エンディング曲の「恋の色」、映画『女子大小路の名探偵』(2023年)主題歌の「この退屈な日々を」、アニメ『進撃の巨人 The Final Season 完結編(各話版)』(2023年)エンディング曲の「いってらっしゃい」など全11曲が収録。

タイアップ曲が半分以上を占めながら、ヒグチの「いろんな積み重ねがあるなかで、時には折れなきゃいけない物事があったり、諦めがあったり。それでもこれからやっていかなきゃいけないという気持ちもあって。そのすべてを持って生きる複雑さを『未成線上』というタイトルに込めました」との気持ちが伝わってきて、作品として貫かれているものがある。

そんな『未成線上』のことを中心に、ヒグチに話を訊いた。

1億回以上の再生数「悪魔の子」の存在「どんどん自分の手から離れていって」

『未成線上』で特徴的に感じるのは、「明日はどうなるか分からない」という不確かさだ。不確かだからこそ、「今日できなかったことは明日に持ちこそう」と開き直れたり、逆に先々への不安がより増したりする。多くの楽曲で、「明日」「未来」という言葉になにを委ねるかが描かれている。

その点についてヒグチに尋ねると、「私自身、元々『結局は今が一番良いんじゃないか』『これ以上はない』と先に期待しないタイプ。いろんなことに諦めを持っているので。だけど、今日がしんどくてなにをしても無理なときって、あるじゃないですか。そういうときはとりあえず先延ばしにしようという感覚もあります。だからといってその先に希望があるわけではないんですけど」と捉えているという。

なかでもヒグチが作詞作曲を手がけた収録曲「誰でもない街」には、「もうどうにでもなればいい」「もう明日のことは知らない」と投げ出す気持ちが歌詞にあらわれている。ヒグチは「一番、自暴自棄だったときの曲なんです」と笑う。その要因の一つが、2022年のリリース曲「悪魔の子」の存在だ。

同曲は、アニメ『進撃の巨人 The Final Season Part2』(2022年)のエンディング曲に起用された。YouTubeチャンネルで配信中の「悪魔の子(アニメスペシャルVer.)」は1億1千回以上という驚異的な再生数を記録している。まさにヒグチの代名詞的な楽曲となった。ヒグチは「最初は『進撃の巨人』ってすごいんだな、という感覚でした。でも曲がどんどん自分の手から離れていって、勝手に飛んでいっちゃう気持ちになりました」と今まで味わったことがない感覚が押し寄せたという。

「勝手に飛んでいっちゃうから、作り手として自分も合わせて飛んでいかなきゃいけないと思ってしまって。一時期、すごくしんどさがありました。自分をもっと大きく見せなきゃいけないのかなとか。もっと分かりやすく言えば、『人気者みたいに見せなきゃいけないんじゃないか』って。広く知られた曲が一つあって、それを聴きに来てくれる人たちを『ファンにしなきゃいけないんだ』と考えてしまったから。1年くらい、そういうふわふわした時期が続きましたね」

「悪魔の子」をもう一度、自分の手元に手繰り寄せることができたきっかけは「いろいろ考えずにとりあえずこの曲を演奏しよう」と思えたことだと話す。

「たとえばフェスで『悪魔の子』を演奏しなかったら、この曲だけ知っている方にとっては『やらなかった』となるはず。だからワンマンライブとかではなく、幅広い方が見聞きする場では良い意味でなにも考えずに『悪魔の子』をやるようにしました。でもそうやって自分のなかで区切りをつけたことで、『自分が歌うと決めたんだし、自分がこの曲を歌うのが一番だし、なにより自分が作った曲なんだから』と納得できるようになりました。そもそも、自分で作詞作曲した曲なんだから嫌いになる要素は一つもない。今ではちゃんとこの曲が自分の手元にあると実感できています」

オズワルド・畠中悠とユニット結成「2年に1回くらい曲を作って10年後にアルバムを」

ヒグチアイ/画像提供:ポニーキャニオン
ヒグチアイ/画像提供:ポニーキャニオン

日常について歌い、内省的でもあるヒグチの楽曲の支持者は、意外にもお笑い芸人が多い。

ヒグチは「自分は上京したとき、うまくいかなかったり、うまくいきそうだけどダメだったり、それでもなんとか生きていかなきゃいけないと、もがきながら曲を作っていました。そういう背景がもしかすると、芸人さんが自分の生き方に重ねて聴いてくれるのかもしれません」と分析。さらに「さらば青春の光の森田(哲矢)さんが、私のデビュー曲『備忘録』(2016年)が一時期、芸人の間で流行ったと教えてくださって。森田さんも誰かのオススメであの曲を聴いてくださったみたいです」と芸人間で広がりはじめたきっかけを口にする。

2021年には、ヒグチがファンであるピン芸人・吉住を起用したミュージックビデオ「やめるなら今」が公開された。

「吉住さんは『うわ、そこを突くんだ』みたいなことを積み重ねて大爆笑を呼ぶ。その目線が好きなんです。あと人の輪にうまく入っていけない感じとか、女性芸人として一人でやっていこうとする強さとか。でも今ではちゃんと前に出ていらっしゃるじゃないですか。それって賞(2020年『THE W』)で優勝した経験などが背中を押してくれている部分もあるんじゃないかと思うんです。音楽であれば多くの方が知る曲を作ることに近いのかもしれません。そういうなにか強い名前や肩書きが身につくことで、背中が押されたり、こちらに対する相手の目線が変わったりするので」

2023年にはオズワルドの畠中悠とユニット、は行を結成。ヒグチがピアノ、畠中が歌とギターを担当。音楽フェス『LuckyFes2023』では、その場で出たお題を取り入れる即興曲も披露した。

「オズワルドさんのラジオ番組(茨城放送『レバレジーズ presents MUSIC COUNTDOWN 10&10』)に私が出演するとき、畠中さんが音楽家みたいな雰囲気で喋るというくだりがあって。そのノリで一緒に歌ったら楽しいだろうなと思っていたんです。で、私が畠中さんの誕生日に、畠中さんが作った曲『あたらしいとうきょう』をカバーしたこともあって、その流れで『フェスで一緒に歌いましょう』となりました。フェスで演奏した即興曲は、畠中さんが『やりましょう』とおっしゃって。『そんなことできるんですか』と驚きました。即興なのにちゃんと笑いに持っていけるのがすごい。は行はまたやりたいですね。畠中さんが歌詞を書いて、私が作曲をして。2年に1回くらい曲を作って10年後にアルバムを出すみたいな、そういう気軽な感じで」

ヒグチは『HIGUCHIAI band one-man live 2024[未成線上]』と題したライブを2月4日になんばHatch(大阪)、2月10日にElectric Lady Land(名古屋)、4月21日にEX THEATER ROPPONGI(東京)の3か所、『HIGUCHIAI solo tour 2024[未成線上]』を3月2日の長野市芸術館アクトスペースを皮切りに計6か所で開催する。

「ライブはいつも現実で、そこにあるものしかなくて、自分が今持っているものしか出せない。私にとって地に足をつけたものはライブしかありません。もし『良いな』と思う曲があれば、その曲の今の形をぜひライブで聴いてほしい。きっとその何倍も良く聴こえるはずなので」

ヒグチアイ
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※記事初出時の見出しに誤りがございました。お詫び申し上げます。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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