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『ジョブチューン』が炎上騒動から巻き返し、好感が持てる番組になった3つの理由

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:アフロ)

1月6日に放送された正月特番『ジョブチューン〜アノ職業のヒミツぶっちゃけます!新春SP』(TBS系)が好評を集めている。

さまざまな職業のプロフェッショナルが自らの職業の秘密を明かす同番組。中でも人気企画は、有名なレストランやコンビニエンスストアの飲食類を一流料理人が試食して「合格」「不合格」のジャッジを下すもの。

『新春SP』では、大手回転寿司チェーンのくら寿司が超一流寿司職人から「全品合格」を勝ち取るために自慢の商品を提供する「くら寿司×超一流寿司職人」と、過去放送回で一流料理人を唸らせ続けてきたローソンの「満場一致合格」のスイーツのなかからナンバーワンを決める勝ち抜き戦「ローソン満場一致合格スイーツNo.1決定戦!」の2企画がおこなわれた。

Xでは、「ローソン満場一致合格スイーツNo.1決定戦!」で登場したスイーツなどが次々とトレンド入り。視聴者からも「食べたい」といった投稿が続出した。

「おにぎりの試食拒否」「パンケーキ騒動」が炎上

『ジョブチューン』は過去、商品をジャッジする一流料理人の講評などをめぐって何度か炎上してきた。

2022年1月4日放送の正月特番では、有名シェフがコンビニチェーンのファミリーマートのおにぎりの試食を拒否。その上で味を判定しようとし、批判が殺到した。さらに不遜に見える態度が視聴者らの怒りをかった。不快感を示す声は審査員だけではなく、無関係なレストランにまで及んだ。そして番組側が「この度の番組出演者、番組とは無関係のお店に対してのSNSをはじめとする誹謗・中傷、迷惑行為はお止め頂きたくお願い申し上げます」と注意喚起する事態にまで発展した。

同年11月26日放送の同番組では、レストランチェーンのロイヤルホストが参加。しかしこちらも炎上騒ぎとなった。なかでも、伝統的かつ低価格という触れ込みで提供されたパンケーキ。審査員から「提供額を値上げして、もっとこだわったパンケーキを作るべき」と講評されたほか、約50年にわたって親しまれてきた3枚重ねのスタイルについても「1枚にした方が良い」と具体性に欠けるコメントが飛び出したり、「最近のフライパンは機能が進化しているため、焼き色なども家庭で再現できる」となぜか手間暇をかけて自宅で作って食べることを前提とした話になるなど、噛み合わない内容ばかり飛び出して物議を醸した。

商品の良いところに着目して審査するスタイルに

これまで炎上騒動が目立っていた『ジョブチューン』。ただ炎上以降の放送回や、今回の正月特番を観ると「多くの人に納得してもらえる番組を作ろう」という制作側の試行錯誤の跡がはっきり分かり、その結果、非常に良質な番組内容へと変貌を遂げた。それにしてもなぜ数々の炎上騒動から巻き返すことができたのか。

一つは、商品の悪いところではなく、良い部分に着目して審査されるようになったところ。

炎上が目立った時期は、商品に対する審査員の酷評が中心だった。マイナスポイントがどれだけあるかがジャッジの軸に見えた。番組的にも辛口意見が優先的に放送されている感じで、「おいしい」か「まずい」かの二択だけで話が進んでいるようだった。だからなのかピリピリしたムードが漂うことが多く、審査員の高圧的な印象ばかりが残った。

ところがここ最近は少しずつ雰囲気が変わってきた。「褒め」が中心になっているのだ。ただ、PR臭くないバランスの良い「褒め」である。マイナスポイントではなくプラスポイントを大切に考えてジャッジしているのが分かる。

たとえば今回の正月特番の「ローソン満場一致合格スイーツNo.1決定戦!」。過去の放送回ですでに高く評価されたローソンのスイーツばかり登場したこともあって、いずれの商品も「おいしい」が前提で番組が進行された。審査員からも自然と好評が並び、負けたスイーツも「まずいからダメ」ではなく、「おいしいけど、上には上がある」と欠点が目立たない判定となった。

「もち食感ロール」と「濃密カヌレ」の一戦は前者に軍配があがったが、審査員からは「(濃厚カヌレを食べて)あらためてコンビニスイーツのクオリティがすごい(と感じた)。これが当たり前になっている怖さ。とんでもない商品」と評された。また、Xでもトレンド入りを果たした「濃厚生チーズケーキ」と「もち食感ロール」の一戦では審査員の料理人・土屋公二さんが「比べるのが嫌になってきた」と嘆いたほど。

正月特番に限らず飲食企画全体として、貶すのではなく褒めることを優先したジャッジへと変わったことで、視聴者も「だったら食べてみたい」と興味が湧くものになった。番組出演者の設楽統(バナナマン)も「この企画、良いな。また食べたいと思える」と楽しみながらVTRを見守っていた。

「ダメ出し」ではなく「伸び代」でジャッジ、不合格でも食べたいと思わせる内容に

二つめは、「不合格」だったとしても商品を後押しする講評がなされるようになった点だ。

炎上した放送回などは、前述したように商品の悪いところが審査軸になっていた。その結果「ダメ出し」ばかりの番組という印象が強かった。

しかし今回の正月特番の「くら寿司×超一流寿司職人」では、くら寿司の自慢のブランド貝の一品「閖上赤貝」に対して不合格6、合格1という厳しいジャッジが下ったが、審査員は「良い品」を前提とし、「どうすればその閖上赤貝がよりおいしく伝えられるか」など「伸び代」について話し合っていた。「(提供する)店舗数を少なくしてでも(冷凍ではなく)生で出せないか」「塩揉みの仕方を変える」「昆布の出汁で漬ける」など分かりやすい改善点が出された。購買担当者とも熱いやり取りがかわされ、審査員たちから「もっとおいしくなるようにがんばってほしい」というエールも贈られるなど、とても感動的な場面となった。不合格にはなったものの、「これなら試しに食べてみたい」と思える内容だった。

過去の放送回のように「ダメ出し」ばかりだとさすがに「食べたい」とは感じられない。つまり、視聴者としてもそこですべてが終わってしまう。しかし現在の『ジョブチューン』の飲食企画は、視聴者に実際に店へ足を運ばせることでその放送回が完結する構成になっている。

審査員の人間味、「食べなきゃ良かった…」と頭を抱える姿が可笑しかった

最後に評価したいのが、審査する料理人の人間性のおもしろさが伝わってくる点だ。

「ローソン満場一致合格スイーツNo.1決定戦!」の「どらもっち」と「贅沢チョコレートバー 濃密プラリネ」の一戦で、審査員の柴田武さんが前の試合で一度食べた「どらもっち」を再食。アナウンサーが「味をもう一度、確認したかった場合に食べていただければ」と説明すると、柴田さんは「したい(食べたい)」と即答。さらに「やっぱりこれは(もう一度)食べないと分かんないっすよ」と土屋公二さんに話しかけ、その土屋公二さんもつられて再食し「食べなきゃ良かった…。余計、悩む」と頭を抱える状況に。

『ジョブチューン』では厳しいジャッジがお決まりだったが、このところの放送回ではこういった審査員の人間味いっぱいのやりとりが可笑しく、さらに登場する商品も魅力的に映るようになった。

かつては視聴者からの苦言が多く寄せられていた『ジョブチューン』。しかし前述したように「これだったら食べてみたい」と店へ足を運ばせるような番組内容へ変貌を遂げることができた。それはひとえに番組の制作関係者のがんばりにほかならないだろう。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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