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『最高の教師』『君が死ぬまであと100日』など期限をあらわす「カウントダウン系」のタイトルが流行気配

田辺ユウキ芸能ライター
2023年7月期ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』で主演の松岡茉優(写真:アフロ)

ドラマ『君が死ぬまであと100日』が10月23日深夜(一部地域を除く)より日本テレビ系で放送がスタートした。同作は、特殊能力で恋人・神崎うみ(豊嶋花)の余命が100日であることを知った高校生・津田林太郎(高橋優斗)が、彼女の余命をのばす方法「うみをときめかせる」に挑む物語だ。

※高橋優斗の「高」の正式表記は「はしごだか」

年に1本あるかないかだった「カウントダウン系」のタイトル

『君が死ぬまであと100日』のように、物事が起きる「日にち」「期限」をタイトルとしてあらわし、「この日まで(こうなるまで)にこういうことをやる」というテーマを明確にする「カウントダウン系」の映像作品は、これまでもいくつかあった。ただ、ドラマに限ればそういったタイトルは近年、年に1本あるかないか。ところが2023年夏頃から、そんな「カウントダウン系」が流行の気配を見せている。

2023年7月期ドラマでは、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系)が放送。卒業式の日、教え子の誰かに殺される教師(松岡茉優)が、何度か1年前へタイムリープを繰り返しながら、卒業式の日までに犯人や原因を突き止めていく物語だ。

同年10月期ドラマの『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』(フジテレビ系)も「カウントダウン系」に分類しても良いだろう。クリスマスイブというたった1日に焦点を絞り、まったく関わり合いのない3人(二宮和也、中谷美紀、大沢たかお)の運命や事件を交錯させていく。

ちなみに同年8月には、Netflixで映画『ゾン100 ゾンビになるまでにしたい100のこと』の配信がスタート。突然世界がゾンビだらけになったなか、なんとか生き延びた会社員(赤楚衛二)が、「ゾンビになるその日までに成し遂げたいこと」を叶えようとする内容だ。ちなみに同作は7月からテレビアニメでも放送されている。

『100日後に死ぬワニ』の絶妙なタイトルセンス

こういった「カウントダウン系」のタイトルに興味を抱く理由はなんなのか。

そもそもドラマ、映画など「物語」と呼ばれるものの多くは、「この日まで(こうなるまで)にこういうことをやる」という構成でできている。たとえば2023年10月期ドラマ『下剋上球児』(TBS系)は、廃部寸前の高校野球部へやってきた監督(鈴木亮平)が、夏の大会までの3か月限定で顧問をつとめる設定となっている。つまりその3か月の間に、自分たちが掲げる目標へ達しなければならない。ほかにも分かりやすい例を挙げるなら、2005年放送『ドラゴン桜』(TBS系)も、東大受験の時期までに生徒たちは学力を上げ、さらに自分たちが抱える問題も解消させていかなければならなかった。いずれも、作品を実際に観ればなんらかの「期限」が主人公らに課せられていることに気付く。

タイトルとして「日にち」「期限」を明確にすることで、鑑賞者に対して過剰に意識付けをおこなうことで、「その日が近づいてきたけど、果たして大丈夫か」と常に焦る状況を作ったり、「こんなに幸せそうなのに、本当にタイトル通りの悲劇的な結末がやってくるのか」などいろんな疑問を持たせたりすることができる。つまり視聴者は物語にスムーズに入り込むことができ、期限に迫られる登場人物にも感情移入がしやすくなる。ドラマとなれば、基本的に1週間ごとの放送なので「その日が近づいてくる」というカウントダウン感やハラハラ感も増す。

これらの要素を持っていたのが、漫画『100日後に死ぬワニ』(2021年には『100日間生きたワニ』のタイトルで映画化)だろう。私たちとなんら変わらないありふれた日常を送り、ちょっとした幸せや悲しみを噛み締めるワニの模様を追った同作。誰にでも当てはまる平凡な様子だからこそ、「100日後に死ぬ」という前提をあらわしたタイトルが効果を放っていた。掲載日を重ねるごとに、「100日後に死ぬ」という“現実”を読者にも突きつけていった。

タイトルで「答え」を示すことのメリット、現在の風潮にピッタリ

「カウントダウン系」のタイトルが大きくクローズアップされたのは、2003年公開のスペイン・カナダの合作映画『死ぬまでにしたい10のこと』だ。原題は「My Life Without Me」とまったく違う。つまり『死ぬまでにしたい10のこと』は日本の映画会社が邦題として付けたものである。タイトル通り、がんを宣告された23歳の女性(サラ・ポーリー)が、死ぬまでにしたいことを10項目リストアップ。それを実行していくストーリーだった。

同作のヒットにより、類似のタイトルやキャッチコピーが当時よく見られた。2003年には映画『10日間で男を上手にフル方法』(原題は「How to Lose a Guy in 10 Days」)、2008年には映画『10日間で彼女の心をうばう方法』(原題は「Management」)などが公開された。『10日間で男を上手にフル方法』は原題通りのニュアンスであるが、ただこの時期、「この日までにこういうことをする」という期限を設定したタイトルが目立つようになり、それがある意味、作品のタイトルを考える際の一つのフォーマットと化した。

日本ではかつて、アニメや実写映画にもなった『ぼくらの七日間戦争』があった。2000年代以降も、テレビドラマでは舘ひろしと新垣結衣主演『パパとムスメの7日間』(2007年/TBS系)、小日向文世主演『あしたの、喜多善男〜世界一不運な男の、奇跡の11日間〜』(2008年/関西テレビ・フジテレビ系)、西島秀俊主演『僕とスターの99日』(2011年/フジテレビ系)、仲間由紀恵主演『ゴーストママ捜査線〜僕とママの不思議な100日〜』(2012年/日本テレビ系)などが発表された。どれも「日にち」「期日」を意識させる物語内容だった。

ここで気付くのが、「カウントダウン系」のタイトルには「死」を連想させるなど悲劇的な言葉が並びやすいこと。もしくは「奇跡」「不思議」といった非日常的な言葉が使われがちだ。極端な言葉を持ってきて、それに「日にち」「期日」をくっ付けてタイトルにすると、物語の振り幅がより大きく感じられる。

これはあくまで推測であるが、現在のファスト文化も多少影響しているのかもしれない。答えに早く辿り着きたいという欲求と、それであっても中身の濃いものが観たいという願望が、「日にち」「期日」を明確にした「カウントダウン系」のタイトルに引かれる要因になっているのではないか。あと「答え」が見えていることで作品のイメージも湧きやすく、たとえば「配信でなにか観ようかな」となんとなく作品を選ぶときも真っ先に目に付く。そう考えると、現在の風潮に合ったタイトルと言える。

そういったことから、これからも「カウントダウン系」のタイトルがいろいろと発表されるのではないだろうか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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