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『24時間テレビ』マラソン企画、動画配信者による乱入騒動で浮き彫りになった「限界点」

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:アフロ)

「なに言われてもフィナーレの時間にしか着きませんから」

8月26日、27日に放送された『24時間テレビ 愛は地球を救う46』(日本テレビ系)のチャリティマラソンのランナーに抜てきされたタレント、ヒロミはスタート前「例年のようにフィナーレにあわせてゴールすること」を宣言。このコメントはつまり、たとえ早くゴールしそうになっても番組の方針に合わせて「自己演出すること」を指していた。

そしてこれは、7月22日、23日放送『FNS 27時間テレビ』(フジテレビ系)のなかでおこなわれた100キロマラソン企画で、必要以上に休憩時間をとらずに走った著名人ランナーたち数名が17時間前後で完走したことへのアンサーにもなった。

ヒロミの『27時間テレビ』へのアンサー、ランナーの「当日発表」

マラソン企画の内容自体に違いはあるものの、先の『27時間テレビ』は「『24時間テレビ』のパロディをやった」と話題になった。そしてフィナーレ付近でランナーが駆け込んでくる『24時間テレビ』の“演出”への風当たりは、過去最大級となった。もちろん『24時間テレビ』としてはそのことに触れづらい。そんななか、パロディをパロディで返したヒロミはさすが百戦錬磨のベテランタレントである。このコメントは好感を持って視聴者に迎え入れられた。

また、ランナーであることを大々的に事前発表することへの恥ずかしさから当日発表という形を選んだこと、「おじさんの代表選手として、とりあえず俺、やってみます」と少し照れくさそうに説明する姿なども、とてもイメージが良かった。

ちなみに『24時間テレビ』の真裏では、フジテレビが『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP ドッキリも地球を救う4時間テレビ』という番組タイトルでまたもやパロディを仕掛け、さらに出演者・やす子が高層ビルの階段を必死に登る場面では、『24時間テレビ』のマラソン時の定番曲である『サライ』(加山雄三・谷村新司/1992年)、『Runner』(爆風スランプ/1988年)、『負けないで』(ZARD/1993年)をBGMで流すなど“やりたい放題”だった。それでも、ヒロミの冒頭のコメントがあったことで“やられっぱなし感”は薄らいだ。

2017年のブルゾンちえみ(当時の芸名)以来となる、ランナーの「当日発表」も上手くいった。番組開始から1時間を過ぎたところでヒロミが登場したが、それまでは「まもなくランナー発表」とアナウンスを繰り返す、引っ張り演出がなされた。たとえ『24時間テレビ』に否定的だったとしても、ランナーが誰なのか気になるのが視聴者の性(さが)。ヒロミの登場シーンまでついつい観てしまった、という“アンチ”も少なくないのではないか。そう考えると、ヒロミが登場するまでの尺も絶妙に感じた。

なによりその間に放送された、車いすの少年となにわ男子が挑戦したウォーターショー、女芸人たちと耳の不自由な子どもたちが奮闘したインドナートゥダンスメドレー、骨肉腫で選手としての道を諦めた若者のエピソードは、番組序盤から涙、涙の内容だった。『24時間テレビ』に対する個々の考え方はどうであれ、その人たちの現状を知ることはとても重要であり、それが同番組の目的にもなっている。「まもなくランナー発表」でできるだけ引っ張り、その間にさまざまな視聴者にこれらの話を観させることができたのは大きな意味がある。

厳しい意見に対してこれ以上にないコメントで返したヒロミをランナーに選んだこと、そして「当日発表」のスタイルが意外にもハマったことは、マラソン企画が続行されるなら今後につながる成果ではないだろうか。

酷暑のなかを走るランナーを観て「自分も頑張ろう」とは考えづらい

しかし、そうであっても『24時間テレビ』の現在のマラソン企画は「限界点」を迎えているように感じられた。

ひとつは以前から指摘されている、酷暑のなかでランナーを走らせること。日本テレビ系列を含む各ニュース番組では連日、猛烈な暑さへの注意や対策を報じている。そんななか、24時間かけて100キロを走っているところを観るのは、リスペクトと同時に痛々しさも覚える。それだけに「著名人のランナーが頑張って走る姿を観て、自分自身の糧にしよう」とは考えづらい(もちろんそれはランナーの頑張りを否定するものではない)。

マラソン企画が始まった1992年から、体感的な暑さは年々上がっている。その環境下、陸上選手でもなんでもないタレントらが“超長距離”を走るのは、いくらこまめに休憩時間をとったとしても前時代的な根性論に映る。むしろ「無理はするものではない」と思ってしまうなど、逆効果になっているのではないか。

動画配信者の乱入、「なにもなくて良かった」では済まされない問題

そしてもうひとつは今回も起きてしまった、動画配信者の乱入騒動である。この配信者は「迷惑系YouTuber」とされており、撮影機器を手にしてヒロミらと並走。ヒロミに声をかけるなどしたが、伴走する関係者に“突撃”を阻まれたという。さらにその様子を自身のYouTubeチャンネルやX(旧Twitter)に投稿した。同配信者は2022年のマラソン企画でもランナーである兼近大樹(EXIT)と並走し、会話をかわしていた。

2年連続で起きた同一人物による乱入。これを単なる「迷惑行為」で片付けてはならない。もしその手にあったのが凶器だったら、と考えるのは当然のこと。当時のマラソン中の警戒体制がどれくらいのものなのだったかは分からないが、同配信者が、ヒロミ、兼近大樹に接近できたことは事実である。『24時間テレビ』放送後の恒例であるマラソン企画の裏側特番を観ると、ランナーと比較的近い距離に応援者らがいることも確認できる。スタッフももちろん警戒しているだろう。それでもチャリティマラソンという企画の趣旨的にも過度な厳戒態勢はとりづらいのではないか。

ただ、2022年の安倍晋三元首相、人気YouTuberのHIKAKIN、2023年の岸田文雄首相ら著名人を狙った襲撃や接触トラブルが続いていることから、『24時間テレビ』のマラソン企画でも危険な出来事が起きてもなんらおかしくはない。

ちなみに1992年の第1回目のマラソン企画では、お笑い芸人・間寛平が200キロ走破を目指したが、走行ルートに視聴者らが殺到するなど混乱が生じ、途中棄権を余儀なくされた。2003年12月にはバラエティ番組『さまぁ〜ずげりらっパ』の生放送で、さまぁ〜ずの三村マサカズが深夜の名古屋・栄で自転車を走らせる企画をおこなったところ、野次馬と揉み合いになるなどの乱闘騒ぎが起きた。

今も昔も、著名人が街中でなにかをやるときは危険が隣合わせにある。ましてや『24時間テレビ』という注目度が高い番組の目玉であるマラソン企画となれば、その危険性は増す。前述したように近年、著名人を目がけた襲撃やトラブルが目立つなか、今回のように配信者に接近を許したのは大きな問題である(もっとも、一番悪いのは乱入者だが)。誰かの善意やモラルに頼るのも、今の世の中の風潮的にこの辺りが潮時ではないか。

ランナーの「当日発表」などおもしろい点もあり、もしマラソン企画が続行されるのであればそれは今後の“手”かもしれない。ただ、酷暑や乱入騒動を見ると、少なくとも今のスタイルでのマラソン企画は現代の感覚と噛み合わなくなっている。「限界点」を迎えていることは確かだ。なにせマラソン企画発足から30年。どんな物事でもそうだが、それだけ時間が経てば根本からの見直しが必要とされる。

なにかが起きてからではなく、なにかが起きる前に決断するべきかもしれない。それも『24時間テレビ』が訴え続ける「誰かを救うこと」につながる。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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