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BE:FIRSTらアーティスト、TV、CMなどへの楽曲提供が続々、eillが注目されている3つの理由

田辺ユウキ芸能ライター
写真提供:ポニーキャニオン

テレビアニメ『東京リベンジャーズ』(2021年)、月9ドラマ『ナイト・ドクター』(2021年/フジテレビ系)、恋愛リアリティ番組『虹とオオカミには騙されない』(2021年/ABEMA)、映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021年)、CM「アクエリアス」シリーズ(2022年)、アニメ映画『夏へのトンネル、さよならの出口。』(2022年)など映像作品への楽曲提供が相次いでいるミュージシャン、eill。

※『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は竹内まりやの楽曲『プラスティック・ラブ』のカバー

2023年も、恋愛リアリティ番組『ラブ トランジット』(Amazonプライム)の主題歌に『happy ending』が抜擢されるなど、その勢いはとどまる気配がない。また彼女の音楽性をリスペクトするミュージシャンも多数おり、m-flo、SKY-HI、さなり、輪入道らとコラボレーションしているほか、BE:FIRST、ジャニーズWEST、NEWSなどにも楽曲提供をしている。

「いけないbaby」「ただのギャル」など独特のワード感覚

それにしてもなぜ、eillの楽曲はここまで注目されているのか。理由のひとつは、歌詞のなかの「言葉遣い」や「ワード感覚」だ。

「踏み出せない」「良くない」など多義を込めた「いけないbaby」(2022年発表『いけないbaby』)、どこにでもいるギャルをあらわした「ただのギャル」(2022年発表『ただのギャル』)、リスクが高い相手と恋愛に落ちてしまったときの心境を表現する「『こんなpsycho 別れてしまえ』」(2023年発表『happy ending』)など、それぞれの曲には一発で覚えてしまうような一文や単語同士の組み合わせが出てくる。ほかにも「どうでもいいTシャツ」(2020年発表『踊らせないで』)、「ピンボケた朝」(2021年発表『花のように』)などが印象深い。

eillはそういった「言葉が生まれるきっかけ」について、友人との会話をきっかけに「ふっと思いついたんですけど」(SPICE:2022年2月4日掲載記事「eillが語るメジャー初アルバム『PALETTE』に込めた想い――ジャンルレスな楽曲が生まれた意外な理由とは」より)と偶然性を強調する。

また『happy ending』の「psycho」についても「ギャルの友だちが実際によく使っているんです。『私の彼氏ってサイコじゃない? ありえなくない?』とか。というか同時期に5人くらいが『彼氏がサイコ』『上司がサイコで』とか言っていて、「え、流行ってんの?」と。すごく印象的な言葉だったので歌詞に取り入れました」(SPICE:2023年7月22日掲載記事「『普通に優しい人と一緒にいるのが一番だけど』eillが明かす意外な恋愛観――恋愛リアリティ番組『ラブ トランジット』と主題歌『happy ending』を語る」より)と明かす。

特徴的な「言葉遣い」「ワード感覚」の着想元になっているのは、まわりの人たちとの会話。そこでの内容を彼女なりに解釈して「自分の言語」へと落とし込む。それが親近感、共感性、そしてオリジナリティへと結びついていくのではないか。

元ギャルならではのテンションの“アゲサゲ”

写真提供:ポニーキャニオン
写真提供:ポニーキャニオン

人柄も魅力的である。筆者はこれまで2度、インタビューをおこなっているが、彼女の「テンション」の強弱がとてもおもしろかった。

eillは自ら公言しているように「元ギャル」。今でも根底にはそのマインドがある。取材の際も、話し始めはクールに進んでいくものの、恋愛話などで話が盛り上がっていくと一気に早口になり、声のトーンも数段階上がり、イントネーションも少し変化する。つまり、ギャル化する瞬間があるのだ。そういった一面が見えたかと思えば、我を取り戻すようにまた「クールなeill」に戻る。そのテンションの“アゲサゲ”が、なんだか妙にクセになる。

人柄という部分では「ヤキモチ焼き」というところも彼女の魅力と言って良い。「一番になりたい」という欲はないが「たとえばなんですけど、マネージャーさんやスタッフさんたちが、自分以外のアーティストの現場に行っていて、私のところにいなかったりすると超寂しい!」「マネージャーさんが別のアーティストの話とかしていたら、なんか、新入りに飼い主をとられたワンちゃんみたいな気持ちになるんです。『なんでそっちばっかり可愛がるの』って」(SPICE:2023年7月22日掲載記事より)と気が気でなくなるそうだ。

それでいて「飽き性」で、「3分前まで「パスタを食べたい」と思っていても、なぜかラーメン屋さんにいるみたいな性格」(SPICE:2022年2月4日掲載記事より)というのだから、実につかみどころがない。ただそういう性格が、「『eillの曲はなぜジャンルレスなのか』と尋ねられたら、自分の本質がそうだからかもしれません」(同)と枠にとらわれない楽曲作りにそのままつながっている。

共感性が高い恋愛観、その秘訣は観察眼の鋭さ

eillの多くの楽曲で描かれているのは「恋愛観」である。これまで『虹とオオカミには騙されない』、『ラブ トランジット』のふたつの恋愛リアリティ番組に楽曲が起用されている理由も、「恋愛」の描き方のうまさが要因にあるのではないだろうか。

おそらくeillは、他人の恋愛を見聞きするのが好きなタイプ。もともと友人らから恋愛相談などをよく受けるらしく、他人の恋愛に対する「観察眼」がすぐれているのではないか。恋愛リアリティ番組に彼女の曲がマッチするのも納得できる。

eillは、元恋人同士が復縁と新たな恋の合間で心が揺れる『ラブ トランジット』について、出演者の表情を見ていたと言い、特に「メンズのみなさんの方が心残りが多いところでした。まなざしとかに気持ちが出ている気がしました。つまり全然、上書き保存できていなくて、別々のフォルダで相手の思い出を保存しちゃっているんだなって」(SPICE:2023年7月22日掲載記事より)と解釈したという。確かに『ラブ トランジット』では、男性陣は元彼女に対して「別れたとき、帰り道で泣いた」など別れ際の気持ちなどをよく話していた。eillはそういった何気ない会話を決して逃さない。それが、彼女が制作する恋愛ソングの共感性の高さの秘訣ではないだろうか。

2023年夏、eillはロンドンへ渡ってライブや映像撮影などをおこなっている。そこで吸収したものが作品としてどのように表現されるのか、楽しみである。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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