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『FNS 27時間テレビ』が伝えた「本気」のおもしろさ、演出として狙ってできるものではない瞬間が多数

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:イメージマート)

4年ぶりの放送となった大型特番『FNS 27時間テレビ』(フジテレビ系)が7月23日21時54分にフィナーレを迎えた。

締めくくりを任されたのは、総合司会をつとめたダイアン・津田篤宏。同じく総合司会の千鳥・大悟から「最初と最後、けん玉で始まって」と、同番組の開幕企画「FNS スゴ技鬼レンチャン」で披露したけん玉の難技を振られたが、津田篤宏が2度失敗したところでタイムアップ。

ただ、けん玉の技が成功しなくても、ちゃんと感動につつまれて番組を観終えることができた。その理由は、同番組が27時間かけて「本気で物事に取り組む姿のおもしろさ」を伝えてくれたからだ。

しかも秀逸だった点は、この「おもしろい」には広い意味が込められていたところである。単純に「笑える」「楽しい」だけではなく、「泣ける」「驚く」「考えさせられる」「議論したくなる」などさまざまな意味が「おもしろい」に含まれていた。

「100キロサバイバルマラソン」池谷直樹の大号泣が印象的だった理由

なかでも印象的だったのが「100キロサバイバルマラソン」だ。賞金1千万円が用意され、「100キロの道のりを、必要以上に休憩時間を取らずに走った場合、いったいいつゴールできるのか?」を検証するために18人の有名人ランナーが集結。7月22日18時30分にスタートし、翌日11時30分にハリー杉山が1着でゴール。続いて、ワタリ119、大倉士門、井上咲楽、団長安田(安田大サーカス)、山本賢太(フジテレビアナウンサー)が完走した。

「100キロマラソン」と言えば『24時間テレビ「愛は地球を救う」』(日本テレビ系)の名物企画。同番組ではチャリティランナーが24時間かけて、「100キロ」など課せられた距離を走破する。そして、番組のエンディングにランナーが駆け込んでくるのがおなじみである。

つまり記録的には『27時間テレビ』のランナーたちが大幅に早い時間でゴールテープを切ったことになる。ただそれは、24時間かけてゴールする『24時間テレビ』へのアンチテーゼでもなければ、比較でもない。『27時間テレビ』のシステムが向いているランナーもいれば、『24時間テレビ』のように休憩をしっかりとることで走り切れるランナーもいる。つまり走者の性質によるものが大きいため、答えとしては「どちらもすごい」のだ。

「100キロサバイバルマラソン」を担当した倉田大誠アナウンサーは「大型生放送のフィナーレに(100キロマラソンのランナーが)ゴールしてしまいますと、マラソンをがんばった人の感動と、(長時間番組を)やりきったMCの方々の感動がごっちゃになってしまうと思います」と口にした。言い回し的に皮肉っぽく聞こえたものの、そうではなく、『27時間テレビ』『24時間テレビ』ともに「すべての人のがんばりをリスペクトしよう」ということを純粋に伝えたかったのではないだろうか。ランナー、MCはもちろんのこと、スタッフたちも含めてそれだけ「本気」で番組に取り組んでいることを知ってほしいという思いがあふれての発言だろう。

よろけながらゴールした井上咲楽の決死の姿は心を打つものがあり、「金が欲しかった」とコメントした団長安田には笑わされた(賞金がかかっているから本気になれるという部分も非常に健全だ)。なにより記憶に刻まれたのが、最初に脱落した元体操選手・池谷直樹が涙した場面。総合司会者陣、そして視聴者的にも戸惑いを覚える大号泣だった。ただこれが同番組の「本気で取り組むことのおもしろさ」の象徴だったように思えた。それだけ真剣だったからこそ、『27時間テレビ』序盤のお祭り騒ぎなテンションとのミスマッチもあって「笑い」が起きたのだ。

金、感動、死にものぐるい、号泣。それらすべてをひっくるめて「本気だからおもしろい」と思える内容だった。

ほいけんたの「エビゾリ」、満身創痍のリレー漫才、いずれも「本気」のおもしろさ

『27時間テレビ』では総合司会の千鳥、かまいたち、ダイアンに注目が集まったが、ふたをあけてみれば「ほいけんた劇場」と言える内容でもあった。明石家さんまなどのモノマネなどを得意とするピン芸人・ほいけんたは、もともと『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系)のカラオケチャレンジ企画でお馴染みだった。今回の『27時間テレビ』でも、カラオケチャレンジ企画でのクセの強い歌い方などが反響を呼んだ。

ただほいけんたも、それだけではここまで注目されなかったはず。その後の「鬼レンチャン歌謡祭」企画では、モーニング娘。、AKB48、ももいろクローバーZといったアイドルグループとのコラボレーションを次々実現させ、独特の歌唱を封印して、メンバーと一緒に自分のできる範囲で振付をやってみせた。ももクロの『行くぜっ!怪盗少女』では落ちサビを歌っただけではなく、メンバーである百田夏菜子のパートでおなじみのハイジャンプ「エビゾリ」にもチャレンジ。ほいけんたが「本気」でがんばっていたからこそ、カラオケチャレンジ企画のときとはまた違う一面が見れたり、ツッコミどころがたくさんあったりしておもしろかったのだ。

番組のエンディング企画となった、千鳥、かまいたち、ダイアンによる60分耐久の「リレー漫才」もすばらしかった。そこまで26時間近く番組を進行した疲れもあって、全員、スムーズに言葉が出てこなかったり、ネタが飛んだりしていた。ここまで満身創痍の漫才師は見たことがない。「リレー漫才」のラストを担った千鳥の大悟の真っ赤に充血した目が過酷さを物語っていた。ただ、それでもしっかり大笑いできたし、感情が揺さぶられた。それもやはり「本気」がみなぎっていたからだ。

普段の漫才であれば、客がウケるかどうかが勝負であるはず。ただ今回の「リレー漫才」は、ウケるかどうか以上に、そこに立ち続けていられるか、ちゃんと喋れるか、つまり「どこまで漫才をやり切れるか」という限界への挑戦に見えた。そして3組は間違いなくベストを尽くした。かまいたちの山内健司は予定通りにネタが終えられず、ステージ裏で千鳥、ダイアンらに真顔で謝っていた。ただ「真剣勝負」だったからこそ、そのネタ本来の結末を迎えることができなくても、観る者は想定外のおもしろさを感じることができた。

27時間も生放送で番組をやっていれば当然、まごついて見えるところもある。ただいずれも「本気」から生まれたもの。だからすべて見応えがあった。演出として狙ってできるものではない、という瞬間が今回の『27時間テレビ』には多々あった。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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