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「お笑い」「タイガース」だけじゃない、大阪のラジオ局プロデューサーがアイドル番組で日の当たる場所へ

田辺ユウキ芸能ライター
特番でパーソナリティを担当するカラフルスクリーム/写真提供:ABCラジオ

「長い間、日の当たらんところで仕事をしていたんです。『お前の仕事は自己満足や』と怒られ続けてきましたし。でも『自己満足の気持ちがなかったらアカン』と思っています」

大阪のABCラジオでプロデューサー、ディレクターをつとめている亀井信男さんは照れくさそうな表情を浮かべながら、語気を強めてそう話す。

ABCラジオは「お笑い」「阪神タイガース」「高校野球」の3本柱

ABCラジオでプロデューサー、ディレクターをつとめている亀井信男さん/写真撮影:筆者
ABCラジオでプロデューサー、ディレクターをつとめている亀井信男さん/写真撮影:筆者

ABCラジオといえば「お笑い」「阪神タイガース」「高校野球」で、大阪で確固たる地位を築いている大手ラジオ局だ。

たとえばお笑い番組なら、同局でプロデューサーを担当する上ノ薗公秀さんがよく知られる存在。上ノ薗公秀さんは劇場へ通い詰めて若手らをチェックし、おもしろい芸人がいれば「なんとか番組を作れないか」と奮闘。そうやって、『M-1』優勝前の2017年に霜降り明星をメインに抜擢して『霜降り明星のだましうち!』を立ち上げ、同じく『M-1』王者に輝く前からミルクボーイの漫才に惚れ込んで2019年に特番『ミルクボーイのプロテインラジオ』を制作し、その後のレギュラー番組『ミルクボーイの煩悩の塊』などにもつなげた。

上ノ薗公秀さんは「ラジオ番組なのでもちろんマネタイズが大事だけど、まずはその目でホンモノを探し出してくる。そういう姿勢がラジオの主流にならなアカン」と話す。続けて「だから亀井くんはもっと外へ出て行って、『良い』と思った人たちの番組をがんばって作ってほしいんです」と期待を寄せる。

大阪出身のタレント、妹尾和夫との仕事で得た「日の当たる場所で仕事をする楽しさ」

亀井信男さんは1993年に朝日放送の系列会社へ入社。「ABCエキスタ」と呼ばれるサテライトスタジオへ配属され、いくつかのテレビ番組の現場などに参加。ただ本人曰く「まったく戦力になっていなかった」とのことで、そんな若手時代について率直に「仕事が楽しいと感じたことはほとんどありませんでした」と振り返る。

「プロデューサーから言われたことをやる毎日で、基本的には雑用ばかりでした。若手なんてそういうものといえば、そうなのかもしれません。でも番組を作っている感覚からは程遠く、日陰の人生でした」

転機となったのは、2003年にスタートしたラジオ番組『全力投球!!!妹尾和夫です』だ。メインパーソナリティは妹尾和夫。大阪出身の俳優、タレントである彼は関西で人気をあつめていた。

同番組でディレクターを担当した亀井信男さんは「これまで見たことがないほど高い数字が取れました。そして、日の当たる場所で仕事をする楽しさを初めて知ったんです。自分で番組の原稿を書き、いろんな企画を作りましたから。妹尾さんには『ラジオにはこういう楽しさがある』ということを教えてもらいました。なにより妹尾さん自身がエンタテインメントの塊みたいな人。しんどかったけど、おもしろかったです」と情熱を傾ける日々を送った。

ラジオの作り手として大事なこと「知られていない人たちを見つけ出す」

日の当たる場所に立つこと。その喜びを知った亀井信男さんは、こう考えるようになった。「自分と同じように日の当たらない場所にいる人たちを、いつか引き上げたい」と。

亀井信男さんは、ベテランのプロデューサーからアドバイスされた「俺らができる仕事は、アーティストをみんなに知ってもらうこと。ラジオを聴く人らに紹介することなんや」という言葉が心に残っていると話す。

「まだあまり知られていない人たちを見つけ出すことがラジオの作り手として大事なんだ、と。本当にその通りだと思います。なんなら『紹介するだけではなく、行く末まで見守りたい』と考えるようになりました。レギュラーのラジオ番組を持たせたいし、できることならその先まで一緒に走り続けたいんです」

大阪のアイドルグループ、カラフルスクリームの特番を制作

大阪のアイドルグループ、カラフルスクリーム/写真提供:ABCラジオ
大阪のアイドルグループ、カラフルスクリーム/写真提供:ABCラジオ

テレビ、ラジオでさまざまな番組を経験してきた亀井信男さんがプロデューサーとして新たに取り組む企画が、アイドルを軸としたラジオ番組である。メジャーのアイドルは大阪の各ラジオ局でも取り上げられている。しかし、いわゆる「地下」と呼ばれるインディーズのアイドルが大手メディアに登場する機会はきわめて少ない。

亀井信男さんは「ABCラジオという大きなメディアが関わることで、『誰だってがんばっている限りはチャンスがあるんだ』と活動の支えになってほしいんです。局としても、『お笑いのABC』『タイガースのABC』だけじゃなく、『アイドルのABC』と呼ばれるような柱になる番組を作りたい」と意気込む。

その第一弾となるのが、6月18日、25日の2週にわたって放送される『#カラフルスクリームの全国彩りラジオ』である。良質な楽曲の数々で関西屈指の人気を誇る同グループがパーソナリティをつとめる特番だ。

「2019年に大阪の長居公園でひらかれていたイベントで観て『この子ら、ええな』とずっと気になっていて、今回、お声がけしました。『カラフルスクリームは日本武道館まで行ける』と本気で思っているし、その足がかりになってほしいという気持ちで特番を組みました。これからもいろんなライブ現場へ行って、気に入ったアイドルの番組を作りたい。以前『お前の仕事は自己満足や』と言われたけど、『自己満足じゃなければ伝わらないものもありますよ』と。もちろん、ABCラジオという大きな局に属していますから、良い意味で大衆に向けたものを作らなければいけない。『自己満足』とは言っても小さくまとまってはダメなんです。そうじゃないと、アイドルのためにもならないから。会社の看板も背負いながら仕事を成立させていくつもりです」

「自分が楽しむ=相手を楽しませる、という番組作り」

亀井信男さんは今後、一緒にラジオ番組を作りたい大阪拠点のアイドルグループとして「まず、ミソラドエジソン。初めてライブを観たときの衝撃は忘れられません。そして、くぴぽ。リーダーのまきちゃんはラジオで喋るのに向いていると思うので、いずれ番組に出てほしいです。あと、元NMB48の城恵理子さんが在籍する籠鳥恋雲(ろうちょうれんうん)。今、もっとも気になっているグループです。ほかにも、KRD8、すたんぴっ!、W.ダブルヴィー、脳内パステルなどは一緒にお仕事がしたい」と名前を挙げた。

「僕はもともと、人の目を見て喋ることが苦手なくらい不器用な人間。だから日の当たる場所へ来るまで時間がかかりました。そんななか、最近やっと気づいたんです。自分が楽しむ=相手を楽しませる、ということを。自分が作るのは、そういうラジオ番組でありたい。そしていつかABCラジオが中心となって、大阪で大きなアイドルフェスを開催したいです」

人の目を見て話せなかった亀井信男さん。だが「自分はどんなラジオ番組が作りたいのか」というビジョンはいま、はっきりと見えている。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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