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とにかく明るい安村が示した日本のピン芸の発想力、松本人志らの海外挑戦からひも解く「パッと見」の重要性

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:REX/アフロ)

お笑い芸人、とにかく明るい安村がイギリスのオーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』に出演し、現地で大爆笑を巻き起こした。

過去には歌手のスーザン・ボイルらスターを輩出してきた同番組。安村は2023年4月22 日の自身のTwitterで「ネタやってきたよ!」と、番組の公式YouTubeによる1分51秒の映像と一緒に投稿。4月24日(日本時間)には番組の公式YouTubeから新たに5分28秒のフル動画が投稿され、大きな反響を呼んだ。

とにかく明るい安村が披露したのはパンツ一丁の“パンイチ芸”。足を上げるなどし、パンツをはいていないように見せながら、「安心してください、はいてますよ」とパンツを指差すもの。日本では2015年頃にブレークし、同年のユーキャン新語・流行語大賞トップテンに入った。日本で一世を風靡したネタが海外でもウケたのは、日本のお笑いファンとしてはシンプルに嬉しい気持ちになる。またそのチャレンジする姿勢に感動や格好良さを覚えた人も多かったのではないか。

松本人志のアメリカ挑戦時に感じられた「パッと見」のおもしろさ

日本で活躍する芸人が海外で「笑い」に挑戦した例はこれまでも少なくない。大物では、ダウンタウンの松本人志がバラエティ番組『進ぬ!電波少年』の企画「電波少年的 松本人志のアメリカ人を笑わしに行こう」に挑んだ。

すでに日本ではカリスマ化していた松本人志の笑いは海外でも通用するのか? そんな興味のなか松本は、1999年12月に1度目の渡米を果たす。そこでラスベガスのコメディショーを視察し「日本人はおもしろくてもなじみがないとなかなかね。そういう意味ではおもしろいものさえちゃんとやりゃ、すぐに反応があるってのが良いところ」「まあ容易いですよ、勝つのは」と自信をみせた。だが2000年7月に再渡米して、ダラスの飲食店でコント作品集『HITOSI MATUMOTO VISUALBUM』の英語字幕入りを客に見せたところ、まったくウケなかった。それでも道行く人に“アポなし”で同作を鑑賞してもらったときには爆笑を勝ち取り、「アメリカ人には天丼(繰り返し)がウケる」というヒントも掴んだ。

一方で頭を悩ませたのが日米の笑いの違い。アメリカではシンプルな表現がウケる傾向もあり、松本人志は「100パーセントで65点の笑いをとりにいかなければならない」とし、それらを踏まえた上でコント映像作品『サスケ』の制作に取り掛かるが、携わった放送作家らは「画面の情報量の理解力って日本人は早いよね」「向こう(アメリカ)の方が早いような気がする」など「笑いの間」について意見が分かれるなど試行錯誤。

ここで重要視されたのが「おもしろいものさえちゃんとやりゃ、すぐに反応がある」という松本人志の発言ではないか。つまり「パッと見」の情報のおもしろさである。完成した映像作品『サスケ』には、松本人志が考える間合いや空気感を生かした日本的な笑いを軸に、アクション性や文字情報など「パッと見」のおもしろさもまじえられた。それでもアメリカで披露された際は、大ウケもあればスベる箇所もあった。同企画はあらためて、日本生まれの笑いを海外へ輸出することの難しさを感じさせた。

ほかの海外進出例は、2019年にゆりやんレトリィバァが『アメリカズ・ゴット・タレント』で、角刈りのかつら、米国旗の水着の姿でダンス芸を披露して好評をあつめた。ジャルジャルは2022年11月20日放送『情熱大陸』(TBS系)のなかでも紹介されたが、イギリスで約1ヶ月間、全23公演を実施。現地のお客から募ったお題をもとに即興コントをみせるなどした。なかやまきんに君はお笑いの場ではないが、アメリカのボディビル大会でお馴染みのボン・ジョヴィ「It’s My Life」にのってポージングを決め、笑いも巻き起こしながら優勝をかっさらった。ほかにも、ぜんじろう、渡辺直美、村本大輔(ウーマンラッシュアワー)、COWCOWらが日本を飛び出して笑いに挑戦している。ゆりやんレトリィバァ、なかやまきんに君、渡辺直美あたりは特に「パッと見」のおもしろさがある芸と言えるだろう。

海外でもウケるピン芸、その背景にある『R-1』の進化とサバイバル

松本人志のアメリカ挑戦の際に語られていた「天丼がウケる」「情報量の理解力」は、日本の笑いが海外でもウケるポイントのひとつになるのかもしれない。

とにかく明るい安村の“パンイチ芸”は、前述したような「パッと見」のおもしろさの最たるもの、しかも「Don’t worry,I’m wearing!(安心してください、はいてますよ)」とシンプルな言葉の繰り返しである。たとえば日本の漫才を英語に替えて海外で披露しても、なかなか難しいものがあるだろう。それは文化の違いだけではなく、ボケ、ツッコミの言葉の語感なども含めて笑えることが多いからだ。もちろんワードチョイス、掛け合いの間も笑いに大きく影響する。だからこそ、とにかく明るい安村の「安心してください、はいてますよ」のようなド直球なキラーフレーズは、どんな場所でも強みに働くのではないだろうか。

またとにかく明るい安村は、アイデアも評価されたように思える。彼の“パンイチ芸”はお笑い芸人ではなくてもできること。しかし「はいていないように見せる」までのプロセス、ポージング、BGM、そして「安心してください、はいてますよ」の一言などいくつか発想を加えることで、誰も真似ができないお笑いの芸になる。その点も『ブリテンズ・ゴット・タレント』の審査員、観客を総立ちにさせた理由だろう。

ここでふと考えたのが、『R-1』などに出演するピン芸人たちこそ、海外でのウケが良いのではないかということ。

海外での活躍が目立って伝えられているのが、とにかく明るい安村、ゆりやんレトリィバァら『R-1』でも印象を残したピン芸人たちということもある。ただ、それよりなにより『R-1』は、「ピン芸であればなんでもあり」だからこそ常に発想や手法を進化させなければ勝ち残ることは難しい。『R-1』におけるフリップ芸は顕著な例で、年々、カテゴリを発展させたり、時にははみ出させたりする必要がある。アイデア、発想力を磨き続けている『R-1』芸人は、海外でも驚きを持っておもしろがられる存在になるのではないか。

さらに『R-1』には数年前まで、とにかく明るい安村然り、ハリウッドザコシショウ、スギちゃん、小島よしお、サンシャイン池崎らキャラの濃さと特徴的な動きのあるピン芸人たちが大会を賑わせていた。キャラクター性の強さもピン芸の味のひとつ。「パッと見」の視覚的インパクトはもちろんのこと、それぞれいくつかのキラーワードを持ち合わせていることから、とにかく明るい安村同様に国を問わず「おもしろい」となる予感がする。

くまだまさしは『水ダウ』企画で「世界で通用する芸人No.1」に

2014年には『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の企画「世界で通用する芸人No.1」のなかで、サングラスを上下させるネタなどでおなじみのピン芸人、くまだまさしが1位に輝いた。ちなみにくまだまさしはWEBメディアのインタビュー記事のなかで「カナダ、フランス、ドイツ、韓国、オーストラリアとかいろんな国へ行って、ウケたこともあります。自分の中で自慢なんですけれども。あのトム・クルーズさんが見てくれて、エクセレントと言ってくれたのがあるんですけれども」と“海外ウケ”について語っていたほどだ。

2017年には同番組で再び『世界で通用する芸人No.1』の企画が実施され、日本語が分からない米兵とその家族を前に、くまだまさし、ゆりやんレトリィバァ、あかつ、レイザーラモンRGがネタを披露。相撲とエクササイズを組み合わせた動きの笑いを見せたあかつが1位、くまだまさしは2位にランクインした。この企画の傾向を見ても、やはり動きのあるピン芸が有利に映った。

一時は「『R-1』には夢がない」と言われていた。しかしとにかく明るい安村らの活躍もあって、本格的にピン芸にスポットライトがあたることになるかもしれない。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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