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大谷翔平のホームランに解説者・西岡剛が「うせやろ」連発、スポーツ中継で「エンタメ解説」がウケる理由

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

3月6日、侍ジャパンことWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)日本代表が阪神タイガースと強化試合(京セラドーム大阪)をおこない、8対1で勝利した。

注目をあつめたのは、メジャーリーグでも打者と投手の二刀流で実績をのこし、スーパースターとなった大谷翔平選手。1974日ぶりとなる今回の日本での試合には3番DHで出場。2本塁打6打点を記録し、期待以上の活躍をみせた。

そんな同試合を中継したのがABEMAである。解説担当は、千葉ロッテマリーンズや阪神タイガースでプレーした西岡剛、そして福岡ソフトバンクホークスの元選手で現在は栃木ゴールデンブレーブスに在籍する川崎宗則の2名。ともにメジャー経験があり、2009年のWBCでは侍ジャパンのメンバーとして優勝に貢献した。また、試合中に派手なパフォーマンスを披露するなど盛り上げ役としても有名。そんなふたりとあって、強化試合の開始前から気さくなトークが繰り広げられた。

たとえば試合開始前、西岡剛が突然小声で「やめてくれよ」とつぶやき、寺川俊平アナウンサーが「どうしたんですか」と尋ねると、川崎宗則が「あのねぇ、西岡さんねぇ、チョコ食べようとしたの」とチクる様子が流れて笑いが起きた。さらに、ABEMAと同一映像で中継するテレビ朝日の解説陣(古田敦也、松坂大輔、中居正広ら)の名前のテロップが画面に映し出されたとき、3人は「地上は違いますね…」「こっち(ABEMA)は地下でやらせてもらってます」と自虐トークを展開していた。

西岡剛「うせやん」「『ファミスタ』やん」、川崎宗則「タツジ集、売れる」

西岡剛、川崎宗則のさまざまなユニーク解説のなかでも特に目立ったのが、大谷翔平選手の第2打席。

阪神タイガースの才木浩人選手が投じた低めへと沈む球を、大谷翔平選手は左膝をつきながらスイングしてホームラン。その瞬間、西岡剛は「うせやろ(嘘だろ)」と関西弁丸出しの言葉を4連発(ちなみに4回目は「うせや」)。さらに「今のはないわ」「これはマジでヤバい」と異次元のホームランへの驚きを口にした。

大谷翔平選手の第3打席時には、川崎宗則が「今日のスポーツニュースは全部これ(2打席目のホームランの場面)じゃないかな」と言えば、西岡剛は「いや、明日のお昼(のニュース)も。夕方までくるね。明日も試合あるか。なら明日の試合前までこのニュースです」と興奮冷めやらぬ様子で“予想”。しかもこの打席でも大谷翔平選手がホームランを放ち、西岡剛は「あかんて、ムネさん(川崎宗則)。言葉失ったらあかんて。なに今の。詰まりよる。『ファミスタ』やん」と野球ゲームのタイトルと絡めて大谷翔平選手の実力を評した。

さらに大谷翔平選手の2本目のホームラン時、ベンチのなかで両手をあげて驚くラーズ・ヌートバー選手のVTRが流れたとき、川崎宗則は「タツジ(ヌートバー選手のミドルネーム)の表情だけでDVDできる。タツジ集、売れる」と同選手のリアクションに好感をしめすコメントを発した。

ワールドカップの本田圭佑による「エンタメ解説」、伝説の「ななふぅぅん!?」

本田圭佑
本田圭佑写真:ロイター/アフロ

ふたりのように感情を素直にあらわした解説で記憶に新しいのが、2022年にABEMAで中継されたワールドカップの日本代表戦における本田圭佑だ。

アディショナルタイムが7分あると知ったときの「ななふぅぅん!?」の叫び声はもはや伝説。ほかにも「オフサイ、オフサイ(オフサイドの略)。遅いねん、オフサイ(の判定)。出せや。俺がラインズマンやろか」「テクノロジー発動でしょ」などインパクト大の喋りで視聴者をひきつけた。

ちなみに今回の侍ジャパンの強化試合もワールドカップ同様にABEMAが無料中継し、さらに実況には本田圭佑の“相棒”をつとめた寺川俊平アナウンサーが抜てきされたことから、西岡剛、川崎宗則のキャスティングには「本田効果」の再来を狙ったと推測できる。

本田圭佑、西岡剛、川崎宗則の解説はいずれも、技術的なポイントをしっかり押さえつつ、ファンの目線に立って感情を素直に出す「エンタメ解説」と言える。

「エンタメ解説」で有名なのは、プロ野球・元阪神タイガース選手で「浪速の春団治」と呼ばれる川藤幸三だろう。ただ川藤幸三は、テクニカルなことではなく根性論で話を進める「居酒屋解説」。エンタメ色は強いが、本田圭佑、西岡剛、川崎宗則とは大きく異なるスタイルだ。ほかにもサッカーの松木安太郎や、2013年WBCでの古田敦也や工藤公康などは「エンタメ解説」としてあげて良いだろう。

「エンタメ解説」はトレンドワードが生まれやすく、ショート動画に向いている

西岡剛
西岡剛写真:YUTAKA/アフロスポーツ

なぜ今「エンタメ解説」がウケているのか。その理由は、トレンドワードが生まれやすいことではないか。

本田圭佑の「ななふぅぅん!?」はまさに象徴的。侍ジャパンの強化試合での西岡剛の「うせやろ」も発言直後、SNSがその言葉で沸いていた。「エンタメ解説」は、視聴者が思わずSNSに投稿したくなるようなキャッチーかつ独特のワードが飛び出す可能性が非常に高いのだ。

また「エンタメ解説」は、TikTokやYouTubeなどのショート動画にも向いている。現在のスポーツ中継は、ハイライトシーンなど一部分を編集して試合後にネット配信するショート動画の展開も必要不可欠。そのため解説の盛り上がりが動画の拡散や再生回数増加の鍵を握る(もちろん選手のすばらしいプレーありきだが)。たった数秒のインパクト勝負でもあるので、その点でも派手な「エンタメ解説」が好まれるのではないか。

ただ現在の「エンタメ解説」で大事なのは、前述したように「技術的な話をしっかり押さえている」ということ。視聴者に気づきを与えながら一緒に盛り上がるのが、おもしろい「エンタメ解説」である。これからさらにスポーツ中継の解説はエンタメ化していきそうな気配だが、トークのうまさ、ワードセンス、キャラクターのすべてが噛み合わないと、視聴者から反感を買うかもしれない。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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