千葉雄喜「チーム友達」大流行の背景、現代の人間関係や『ラヴィット!』など“友達コンテンツ”との関連性
いま、若者たちに<俺たち何?え?>と問いかけると、手を振り上げて<チーム友達>と賑わう声が返ってくる――。
2月13日にリリースされた、千葉雄喜の楽曲「チーム友達」(作詞:千葉雄喜、SOCKS、¥ellow Bucks、MaRi/作曲:Koshy、Young Coco、DJ RYOW、SPACE DUST CLUB)が爆発的に流行している。
TikTokなどでは著名人を含む多数のユーザーが、前述したセルフコール&レスポンスのショート動画を投稿。ミュージシャンの青山テルマがInstagramのストーリーで、お笑い芸人の渡辺直美と「チーム友達」を歌う動画も反響を呼んだ。さらに4月27日放送のニュース番組『情報7daysニュースキャスター』(TBS系)では、日本のみならず海外でも<俺たち何?え?><チーム友達>と盛り上がるリスナーたちの模様が報じられた。同曲のムーブメントを、より幅広い層が知ることになった。
「チーム友達」の世界観は、ハラスメントになりやすい“タテ”ではなく、“ヨコ”が描かれている
「チーム友達」のブレークの大きな理由は、カリスマ的な支持を集め、人気絶頂のなか2021年末に活動を停止した“元”KOHHが、千葉雄喜の名前で待望の帰還を果たした点である。
KOHHとしてキャリアの早い段階から国内外でその楽曲が高く評価され、キース・エイプ、フランク・オーシャン、マライア・キャリー、宇多田ヒカルらとのコラボレーション曲も話題に。また、2020年3月22日に放送された、ドキュメンタリー番組『シブヤノオト Presents KOHH Document』(NHK)も素晴らしい内容だった。同番組では、9か月にわたる密着映像のなかから、活動停止を決めた理由、これまでの生き方、楽曲作りの背景などが明かされて視聴者の心を掴んだ。
そのすば抜けた“アーティスト力”が「チーム友達」のヒットに繋がったことは間違いない。一方、社会の動きや現代を生きる人たちの感じ方に、同曲がぴったりハマったようにも思える。特に同曲が、“コロナ後”のこの世界でいろんな人たちの心を惹きつけている部分が興味深い。
「チーム友達」というタイトルや、<一人じゃ寂しいし電話きたり かけ直した後すぐ行く会いに><契り>といった歌詞など、仲間との結びつきや絆を全面に押し出した内容は、人と人との身体的な接触や交流が半ば強制的に分断されたコロナ禍のストレスを一気に晴らしてくれるようなカタルシスが生じている。数名でもみくちゃになりながら<チーム友達>と連呼する光景も然りである。
この1年くらい、「この人と会ったのはコロナ前以来だ」と旧友と再会する機会を持った人はたくさんいるはず。逆に、コロナに関する考えやその対応策などを通し、それまで身近に思えていた相手の意外な素顔が表面化して「この人とは相容れない」となり、敬遠したまま現在に至ることも珍しくない。人間関係の綻びも多々あったコロナ禍を経て、同曲は「自分にとっての“チーム友達”は誰なのか」をあらためて認識させるものになっているのではないか。
あと、信頼関係がちゃんと築けていないのに相手の懐に踏み込みすぎて不快感を与え“ハラスメント視”されることもあるなか、“チーム友達”はそうならない存在・意識であるとも言える。つまり「チーム友達」の曲の世界観は、ハラスメントになりやすい“タテ”ではなく、“ヨコ”の関係が描かれているのだ。
強い信頼関係があるからこそ、相手の尊厳を汚すこともなければ、受け入れることもできる。もちろん信頼があるからなにかあれば「ノー」が言える。それが“チーム友達”という存在・意識である。
『THE FIRST TAKE』に大勢で出演、そして「チーム友達」の振付がメンフィス・ジューキンであること
ちなみに千葉雄喜にとって“友達”は、彼を形づくる重要なキーワードでもある。
3月24日放送のバラエティ番組『千葉雄喜の勇気貸します。』(ABEMA)では千葉雄喜が、「一人でなにかを成し遂げたい」と話す男性に対し、「一人は無理。自己満ならできることならできるかもしれないけどね」とアドバイス。さらに男性からの「人といる方が安心しますか?」との質問には、「俺は完全に、一人大嫌いなんで。だから一人が好きな人、すげえと思います。無理なんですよ、俺は。嫌なんですよ、一人。一人旅を一回したことがあって、ヨーロッパへ行ったんですけど。バルセロナは友達がいなくて。行きたい美術館があって、めっちゃ良いものを見たり、食ったりしても、写真撮って誰かに送っても時差あるし、『美味い』と思っても自分のなかに閉じ込めるだけで、意味ねえなって」と持論を口にしていた。
つまり、千葉雄喜を語る上で仲間の存在は必要不可欠。それは、YouTubeの人気チャンネル『THE FIRST TAKE』に、異例となる大人数で参加して「チーム友達」を歌ったことからも分かる。
そもそも「チーム友達」でKING OF SWAGが振り付けたメンフィス発祥のストリートダンス、メンフィス・ジューキンは、仲間との連帯意識を強く感じさせるものでもある。同ダンスを題材とした映画『リル・バック ストリートから世界へ』(2021年)を鑑賞するとそのカルチャー性がよく分かるのだが、子どもの頃から常になにかと闘い続けることが強いられるメンフィスで、苦悩、葛藤、怒りを抱える若者が集ってそれを吐き出すためにジューキンを踊る様子は、その場所に生きる者特有のコミュニケーションが感じられる。つまりメンフィス・ジューキンは、「チーム友達」のメッセージ性にふさわしいダンスと言えるのではないか。
フレンド感が楽しい『ラヴィット!』など“友達コンテンツ”が受け入れられている
「仲間とワイワイと騒ぎながらなにかを楽しむことの大事さ」と書くと非常に短絡的に聞こえるが、コロナ禍の影響もあってかそういった“友達コンテンツ”はこれまで以上にポジティブに受け入れられるようになってきた。
たとえばコロナ禍の2021年3月29日より始まった朝のバラエティ番組『ラヴィット!』は出演者のタレントたちにフレンド感があり、友達同士で賑わっているような朗らかさが好感を持たれている。1月3日放送『さんま・玉緒のお年玉!あんたの夢かなえたろかSP』(TBS系)では、コロナ禍できつい状況に置かれていた看護師がそんな『ラヴィット!』に励まされたこともあり、番組名物「ビリビリ椅子」を体験する模様が放送された。『ラヴィット!』の出演者は、そんな看護師をまさに“チーム友達”という風に温かく迎え入れていた。「仲間とワイワイと騒ぎながらなにかを楽しむことの大事さ」が漂っていた(逆にそんな『ラヴィット!』の強固なフレンド感は、日常のなかで常に孤独を感じる人にとって、うらやましさや嫉妬はもちろんのこと、「このノリは自分の人生との無縁」と思うかもしれない)。
「『ラヴィット!』を観ると元気になれる」という人が続出しているのは、そういう良い意味での“友達ノリ”な雰囲気ではないか。
コロナ禍の繋がり、ハラスメントに対する考え方などから、人間関係のあり方と向き合い直す機会が増えている現代。そんななか「チーム友達」を含む“友達コンテンツ”は、今の社会やカルチャーを紐解く鍵なのかもしれない。