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元地下芸人が「大阪で一番売れてないアイドル」活動9年、楽曲イメージは「松本人志よりもロザン菅ちゃん」

田辺ユウキ芸能ライター
ライブ中にビンタされるまきちゃん(画像提供:くぴぽ)

「大阪で一番売れてないアイドル」を自称し、大阪を拠点に全国規模でライブ活動をしているインディーズのアイドルグループ、くぴぽ。そのメンバーでありプロデューサーも兼任しているのが、まきちゃん。「かわいい女の子への憧れ」から、2014年より女性の格好をしてステージにあがっている「アイドル」だ。

グループ結成当初は、ライブ中に熱々のおでんやたこ焼きを口に含んで吹き出したり、ゴムパッチンを食らって顔を歪ませたりするなど体を張ったパフォーマンスをおこなっていた。しかし活動年数を重ねるうちにそういったリアクション芸は陰を潜め、「アイドル」らしく楽曲やダンスが評価されるようになった。

2023年1月にSTU48と共演を果たしたほか、2022年4月にひらいたくぴぽ主催のライブイベントには、呂布カルマ、DOTAMAら人気アーティストを招くなどしており、その多彩なスタイルからインディーズのアイドルシーンではちょっとした知名度を誇るようになった。

学生時代、大阪のお笑いコンテストで山里亮太らと対決

楽曲やダンスなどアイドルとして真っ当な部分がクローズアップされるようになっても、やはりくぴぽのライブには笑いの要素は欠かせない。たとえば結成当初から現在まで、ワンマンライブでは時おり、曲間に自作のコントを挿みこむなどしている。そういったパフォーマンスのルーツとなっているのが、まきちゃんの「元地下芸人」という経歴だ。

「小学生のときから同級生とコンビを組んで修学旅行で漫才を見せたりしていました。中学生のときも、ラジオ番組『Bフライデースペシャル 陣内・ケンコバ45ラジオ』(MBS/関西ローカル)にも出させてもらい、番組内で漫才をしたこともあります。高校1年生だった2002年には大阪のお笑いコンテスト『今宮戎子供えびすマンザイ新人コンクール』に出場しました。オーディションは100組以上が参加していましたが、学生コンビという珍しさもあってか本戦の数組に残ることができたんです。そのときに優勝したのが、たなか・こうさかさん。のちのジェットコースターさんです。あと山里亮太さん(南海キャンディーズ)が当時組んでいた足軽エンペラーさんや、だいたひかるさんたちも出場していました」

ちなみに憧れていた芸人は、「NSC11期生のケンドーコバヤシさん、陣内智則さん、たむらけんじさん、中川家さん、ハリガネロックさん、ハリウッドザコシショウさん、野々村友紀子さんが好きでした。あとNSC8期生のバッファロー吾郎さんの存在も自分には大きかったです。2003年の大喜利イベント『ダイナマイト関西』で竹若元博さんが、ケンコバさん、板尾創路さん、木村祐一さん、千原ジュニアさんらに勝って優勝を決めたときは、涙が出ました。私が本気で泣いたのって、あのときが最後かもしれません」

かまいたちですら知られていない状況「ライブハウスでお笑いをやった方が良い」

ライブ中にメンバーに踏まれるまきちゃん(画像提供:くぴぽ)
ライブ中にメンバーに踏まれるまきちゃん(画像提供:くぴぽ)

高校3年生のときは進路の選択肢として「お笑い芸人」が頭にあり、NSCへの入学も考えたという。ただ進学校に通っていて、「勉強しなきゃいけないムードがあった」と大学へ。それでも在学中はお笑いコンビを組んでインディーズライブほか、若手芸人たちが多数登壇していた劇場、baseよしもと(2007年閉館)のオーディションも受けるなどしていた。一方、そんな芸人生活は「苦しかった」と振り返る。

「インディーズライブに出ても全然、ウケないんです。逆に、同じイベントに出演していた、大自然さん、赤い自転車さんはすごくウケていて。笑いの量が圧倒的に違ったので、嫉妬をこえて尊敬でした。ライブ終わりには、録音していた自分らの漫才を聴き直して『今日は1回ウケた、今日は4回ウケた』と一喜一憂していました。私が考えるネタはよく『ネタの台本はおもしろいけど、喋るとダメ』と言われていました。中高生のときラジオのハガキ職人もやっていたので、文章的に興味をひきつけることはできたのかもしれません。でも漫才って演技力など技術や演出も必要だし、なにより人間性をどれだけ乗せられるかが大事。私の場合はそれができなくて、ワードでしかとらえられない笑いだったんです」

27歳の頃にくぴぽを結成。そのあと数年、アイドルとお笑い芸人を“兼業”する日々が続いた。そんなとき、ふと考えることがあったという。

「当時の大阪の若手お笑い芸人は、かまいたちさん、天竺鼠さん、藤崎マーケットさんらが人気で、その下に何百、何千の芸人がいました。しかも一般的にはかまいたちさんですら知られていない状況。それなのに、自分みたいな人間が純粋にお笑い芸人としてやっていくなんて相当厳しいぞと思って。一方、くぴぽは人気はなかったけどライブを観てくれるお客さんからは誉められたり、楽しんでもらえたりしていた。『アイドルとして、ライブハウスでお笑いをやった方が良いんじゃないか。その方がテレビとかに出られるんじゃないか』と。そこで『ライブハウスでお笑いをやる』という決心がついたんです」

まきちゃんはサンパチマイクに見切りをつけ、ハンドマイク1本で勝負をかけることに。そして実際、2022年には関西ローカルのバラエティ番組『ミキBASE』(MBS)ほか、いくつかのテレビ番組などに出演するようにもなった。

「コントをやめたら自分の根っこがなくなる気がする」

画像提供:くぴぽ
画像提供:くぴぽ

無所属の芸人らは、芸人同士の挨拶の際、NSC出身者でたとえるなら自分は何期生に当たるか口にする慣習がある。

まきちゃんは「インディーズライブに出ていたとき、先輩芸人から『先輩か後輩かとか、敬語を使うかどうかの問題もあるから、何期扱いかははっきりさせておいた方が良い』とアドバイスをいただいて、『33期扱い』と自己紹介していました。当時、結成したお笑いコンビがNSC33期生のみなさんと同時期くらいだったので。霜降り明星さんはNSC出身ではないので、まさに『33期扱い』とされています。NSC出身では、コロコロチキチキペッパーズさん、ZAZYさん、ビスケットブラザーズさん、男性ブランコさんらが33期生ですね」と話す。

そんなまきちゃんは現在、36歳。2023年でアイドル活動9年目に突入した。「アイドルの子たちは、1、2年で売れなかったら悩んで辞めたりする。仕方がないことだけど、辞める子たちを見ると『私は20年以上も売れてへんねんで』と思っちゃいます。お笑い芸人のときはお客がゼロだったし、くぴぽ結成当初もお客はほとんどいなかったので」と苦笑いを浮かべる。そのとき経験した不人気さが、「大阪で一番売れてないアイドル」の自虐的キャッチコピーへとつながっている。

ライブでは、かつてのように熱々おでん、ゴムパッチンなどはやらなくなった。「コロナ禍になったからそういう接触の多いパフォーマンスはやらなくなったと言われるけど、ちょっと違うんです。単純にウケないからやめただけ。今のくぴぽがそれをやってもスベるだけだから。結成当初とは、まきちゃんのキャラクターも違ってきたし、メンバーも変わったので」

それでも「せめてワンマンライブだけでもコントは続けたいなって。もしコントまでやめてしまったら、自分の根っこの部分がなくなる気がするんです。小さいプライドなんですけどね」と話す。

「このままでは楽曲派アイドルみたいに思われる、という危機感」

3月8日には、4枚目のアルバム『WATER』が全国発売。サブスクリプションではその前に曲が解禁されており、ファンらからは、良質な楽曲が揃うアイドルグループに向けて使われる「楽曲派アイドル」という賛辞の感想が寄せられた。しかしまきちゃんは「『このままでは楽曲派みたいなグループや作品に思われる』という危機感を持ちながらアルバムを作っていました」と、そのワードにやや違和感を覚えるそうだ。

「危機感を持っていたところに、バカっぽい曲があがってきて。良い曲をたくさんの方から提供していただいて『本当にありがたい』という前提で、そういうバカっぽい要素はグループとしてずっと残していきたい。アイドルの曲を聴いて笑顔になれるのって、良い意味でのバカっぽさも含まれているからだと私は思うので。あと、とにかくポップでキャッチーなものにこだわりたい。お笑いでたとえると、ロザンの菅広文さんみたいな曲。ダウンタウンの松本人志さんやケンドーコバヤシさんのような独自の世界観を持ったものも素晴らしいのですが、私が目指す境地はそうではなく、菅ちゃん的な『広さ』がほしい。だからこれからも『菅ちゃんみたいな曲』をどこかに入れ続けていきたいです」

また3月18日、19日には服部緑地野外音楽堂(大阪)で主催イベント『服部フェス』を実施。イベントタイトルは、会場名だけではなくまきちゃんの名字も引っかけている。開催に際してクラウドファンディングもおこなわれ、リターンメニューには、まきちゃんによる「ジャイアントスイング」などユニークな内容も盛りこまれている。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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