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『LOVE LOVE あいしてる』、最終回でも「音楽番組」であり続けたブレない方向性とその根底

田辺ユウキ芸能ライター
(提供:アフロ)

KinKi Kidsと吉田拓郎が共演し、1996年10月から4年半にわたって放送されていた番組『LOVE LOVE あいしてる』(フジテレビ系)。

7月21日、『LOVE LOVE あいしてる 最終回・吉田拓郎卒業SP』と題して5年ぶりの特番を放送。今回が最終回であり、また2022年をもって芸能界を引退するミュージシャン・吉田拓郎の最後のテレビ出演にもなった。

過去の映像を振り返って懐かしむだけではない内容

同番組の良さは、音楽が大好きな出演者たちが、もっと音楽を愛するようになっていく様子だった。

放送内容は毎回、KinKi Kidsの堂本剛、堂本光一、そして吉田拓郎がホスト役となり、さまざまなゲストを迎えてトークとライブを繰り広げるものだった。なかでも、篠原ともえや坂崎幸之助(THE ALFEE)ら、そして豪華ミュージシャンで結成されたLOVE LOVE ALL STARSがバックバンドをつとめるライブコーナーは見ごたえがあり、あらためて音楽の楽しさを感じさせてくれるものだった。

そんな『LOVE LOVE あいしてる』とあって、最終回でも「音楽番組」としてまったくブレていなかったところが印象的だった。

人気番組の最終回のスタイルの多くは、レギュラー出演者が過去の映像を振り返りながらエピソードトークをするのが定番だ。たしかに『LOVE LOVE あいしてる』の最終回でも、篠原ともえが放送前に楽屋へ突撃するコーナー「プリプリプリティ」の映像や、KinKi Kids、吉田拓郎、篠原ともえが思い出深かったライブコーナーをセレクトして懐かしむところがあった。

だが今回の特番の軸となったのは「思い出話」ではなく、かなり鋭い「音楽話」だった。

KinKi Kidsに対し、木村拓哉が敬意を表したパフォーマンス

最初のゲスト・木村拓哉が登場したときも、トークコーナーでは吉田拓郎が「ギターを格好良く弾かないやつは嫌いなんだ。そういう意味では木村拓哉という人は(ギター演奏時の)形が良い」と持論を展開し、さらに「いっぱいギターを持っているからといって、すごいミュージシャンってわけでもないでしょ。用もないのにギターを持っている人もいるけど、あれは困った男だ」とおなじみの拓郎節で笑わせた。

さらにライブコーナーでは、木村拓哉が生田斗真、風間俊介を率いてKinKi Kidsのバックダンサーをつとめるフォーメーションで『硝子の少年』(1997年)を歌い、踊った。これは番組をつとめあげたKinKi Kidsに対する、木村拓哉の最大限の敬意であった。最終回で音楽を披露するうえで、もっとも良いパフォーマンスの形を模索した結果なのだ。

最終回でも演奏撮り直し、「音楽番組」としての矜持

当初、この最終回ではKinKi Kidsが「LOVE LOVEなうた」として、吉田拓郎の『人生を語らず』(1974年)のカバー演奏を披露するはずだったという。

これは堂本剛が演奏を希望したのだが、事前リハーサルまでおこないながらもお蔵入りに。その理由として吉田拓郎は「ふたつ答えがある」と言い、「番組用(の答え)は、そのときの演奏の出来が悪かった。バンドも含めて。これを剛風にやっていくには時間がかかるから『止めない?』と言った」と説明。それを聞いた篠原ともえは「格好良い。拓郎さんのクオリティに届かなかったということですよね。これぞ拓郎さん」と拍手をおくった。吉田拓郎は続けて「本音は、もうこの曲に飽きているから」とオチをつけたが、どちらも吉田拓郎の音楽観のもとで「やるか、やらないか」の選択があったことに気づく。

そこで演奏されたのが『落陽』(1973年)だ。そしてライブ後、明石家さんまがサプライズで登場。ただここでも、この番組がとことんまで音楽にこだわり抜いたことがあったと明かされた。

「待機時間が長かった」と愚痴りながら登壇した明石家さんまが、「テレビの前のみなさん、『落陽』は2回撮り直しています」とバラしたのだ。その理由について、堂本剛は「朝、このスタジオに入ってメイクをしていたとき、拓郎さんが急に『半音上げよう』と。それで、てんやわんやになったんです」と舞台裏を語った。フィナーレであっても祝祭感にのまれず、むしろ最終回だからこそピリッと引き締めて音楽に向かい合った。これこそ『LOVE LOVE あいしてる』の「音楽番組」としての矜持だったのではないか。

明石家さんまが受けた、吉田拓郎の歌詞の影響

写真:築田純/アフロスポーツ

また、明石家さんまが「(吉田拓郎の)歌詞で人生を教えてもらったんや。その歌詞がお父さんなんや。あと、ライブでタバコをポケットから出して歌う姿。それをみんなが『格好良い』と言って、それで俺もタバコを始めたんや」と喫煙家になった理由が吉田拓郎であったことを語った。こういったエピソードを聞くと、若者たちも「吉田拓郎の歌詞はどんな内容なんだろう」と興味を持つはず。笑いをまじえた明石家さんまのトークもまた、とても音楽的な内容だったのではないか。

あいみょんをゲストに迎えた際は、さらに歌詞をめぐる興味深いトークが展開した。

あいみょんが書く歌詞について、吉田拓郎は「男の心情をかなりリアルに書いている。どうして分かるんだって言いたくなるくらい。こんな男にならないなって思うけど、これ(歌詞のなかの男性)が正しいとなるほど、うまいんです」と指摘。あいみょんは「経験と憧れで書いています。普通の恋愛しかしてこなかったから、もっとトラブルにあいたかった。だから歌詞のなかでめちゃくちゃ殴られていたりする。男の人の気持ちは分からない。分かりたくないです。私が分かっちゃったら、拓郎さんみたいに『痛いところ突いてくるな』って言ってくれる人がいなくなっちゃうんじゃないか」など、歌詞作りについて踏み込んだところまで語り合っていた。

「音楽番組」としてのブレなさの根底、音楽に打ち込む若者たちの姿

あいみょんらのとトークで気づかされること。それは、『LOVE LOVE あいしてる』の「音楽番組」としてのブレなさの根底には、音楽に打ち込む若者たちの姿と、それに対する吉田拓郎の尊敬があるのではないか。

たとえば吉田拓郎は、「(あいみょんの歌の)言葉遣いがすごく自由。音楽って音符に言葉を乗せるだけで、字余り、字足らず、食う、食わない、いろんなことがあるけど、そこの自由さが僕らの時代よりもっと自由。こういう自由さがあるって、あいみょんから教わった」と、自身の創作にも刺激を受けたという。

さらにゲストの奈緒を被写体で起用し、篠原ともえがデザイン、堂本光一が題字を手がけた、吉田拓郎の最後のアルバム『ah-面白かった』(2022年)についても、「若い人たちが活躍しているのを見て、刺激を受けているのは間違いない。恥ずかしいものを作っちゃいけない、という気持ちが芽生えた。君たちに喜んでもらえるものを作らなきゃいけない。君らの力が大きい」と感謝を口にした。

過去の映像を振り返るコーナーでは、KinKi Kidsが初めてテレビでギターの弾き語りをしている場面が放送された。ここでの、吉田拓郎と当時のゲスト・泉谷しげるがふたりの演奏を後ろで見守る様子も素晴らしかった。まるで「自分たちにもこういう時代があったんだ」と、音楽にのめりこんでいくふたりの姿に、自分を投影するようなまなざしを向けていた。だからこそそのあと流れた、ハワイロケに旅立つ前に空港の待合室にまでギターを持ち込んで練習に打ち込むKinKi Kidsの過去の秘蔵映像が感動的だったのだ。

日本の音楽史にのこるミュージシャン・吉田拓郎は、『LOVE LOVE あいしてる』を通して出会う、音楽に取り組む若者たちのことを心から愛していたのだ。

吉田拓郎の最後の言葉に涙「俺にとって君たちは本当に大きい存在」

吉田拓郎の若者たちへの気持ちを感じさせたのが、今回のために作ったという曲『Sayonara あいしてる』だ。これは吉田拓郎が作詞し、KinKi Kidsが作曲した共作。

吉田拓郎は「『LOVE LOVE あいしてる』を始めた頃を思い出して、剛と光一がどんな時間を過ごしてきたかを考えて書いた」と話し、そして最後に「光一と剛が、俺に詞を書かせている。そういう意識はないと思うけど、KinKi Kidsは間違いなく俺に詞を書かせている。俺にとって君たちは本当に大きい存在」と口にした。この言葉に涙した視聴者は多かったのではないか。

「自分のいる場所を、もっと広げてがんばってもらいたい」。吉田拓郎によるKinKi Kidsへのこの願いは、番組を観ていた私たち全員に向けての最後のメッセージであるようにも聞こえた。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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