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嵐莉菜、抱えていた異物感が変化した瞬間を語る「世の中にはいろんなキャラクターを持った人がいる」

田辺ユウキ芸能ライター
写真:筆者撮影

日本とドイツにルーツを持つ母親、そしてイラン、イラク、ロシアのミックスで日本国籍の父親を持つ嵐莉菜。そんな彼女が初主演映画『マイスモールランド』で扮したのが、日本育ちのクルド人の高校生・サーリャ。自分の生い立ちをごまかしながら学校生活などを送っていたサーリャだが、そんな彼女の家族のもとに「難民申請不認定」の知らせが入り、状況が一変。嵐は、サーリャの境遇をどう感じたのか。自身の経験もまじえながら語ってくれた。

「見た目で『日本人ではない』と線引きされている感覚がした」

(C)2022「マイスモールランド」製作委員会
(C)2022「マイスモールランド」製作委員会

――サーリャがバイトでコンビニのレジ打ちをしているとき、お客のおばあさんから「お国(故郷)はどちら」「いつか帰るんでしょう」と話しかけられるところが印象でした。悪気がない言葉だからこそ、すごく厄介ですよね。

私も以前「どこから来たの」「どこ出身なの」と尋ねられたことがありました。日本で生まれ育ちましたが、そう言って良いのかなと思ってしまって。「日本」と答えたらきっと驚かれるだろうし、そうなると自分が傷つく。そんな想像をしていたんです。もちろん相手の方に悪気がないことは分かるのですが、でも自分のなかでは見た目で「日本人ではない」と線引きされている感覚がして。だからいつも、自分に異物感をいだいていました。

――逆に周りがそこまで考えていなかったとしても、「自分は異物ではないか」と自意識が強まることもあったのではないですか。

おっしゃる通りです。海外にルーツを持ってる方の多くはそうではないでしょうか。些細な言動でも「外国人扱いされたのかな」とか過剰な感覚に陥ってしまって。でも、もしかすると自分も気づかないうちに、ルーツとか関係なく誰かを傷つけていることがあるかもしれない。過去の自分の経験を踏まえて「気を付けよう」と心がけています。あのレジの場面はそういった意味でいろんなメッセージ性が感じられますよね。

――いろいろ気にしすぎることで、消極的になったりもしませんでしたか。

私は中学生のとき学級委員をやりたかったんですけど、「自分なんかがやってはダメだ」と勝手に思い込んでいました。だけど今、私は高校3年生ですが、高校の3年間ずっと学級委員をやっています。中学生のときに後悔したから、もうそんな経験はしたくないって。すごく緊張したんですけど勇気を出して立候補したら、みんなが投票してくれたんです。

「ZOCを見ていると、自信をもらうことができる」

写真:筆者撮影
写真:筆者撮影

――2020年にグランプリに輝かれた講談社主催のオーディション『ミスiD』って、「あなたのそういう部分が実は個性なんですよ」と教えてくれるものですよね。

そうですね。それまで私は「自分はどこへ行っても、何をやっても、望むところには行けないんだろうな」と考えていたんです。「自分はみんなと違うから」って。ですが『ミスiD』に参加したら、そんな自分がむしろ何者でもないと感じたと言うか。オーディションの参加者全員が本当に個性が強くて、自分は異物どころか「みんなのように個性がない」と埋もれちゃう気までしちゃって(笑)。

――自分を異物だと思っていた人が、そこでは逆に埋もれる事態に…(笑)。

「世の中にはこんなにいろんなキャラクターを持った人がいるんだ」と嬉しくなりましたし、「私はずっと自分に異物感を持っていたけど、そんな気にする必要もないし、このままで大丈夫なんだな」と気持ちが軽くなりました。『ミスiD』を受けて本当に良かったです。

――たとえば審査員のひとりであるミュージシャンの大森靖子さんがメンバー兼プロデューサーをつとめるアイドルグループ・ZOCは、「孤独を孤立させない」がコンセプトですし。

ZOCさんのことは好きです。メンバーのみなさんが、周りの目を気にせずに自分の道を進んでいらっしゃるイメージがして。誰だってコンプレックスがあるけど、ZOCさんを見ていると「だから何? これが私だから」と自信をもらえます。自分をすごく大切にしていらっしゃいますし。それぞれが違う境遇だけど、それが良いと思わせてくれるんです。

「女の子らしく」「男の子らしく」ではない世界に

写真:筆者撮影
写真:筆者撮影

――サーリャは、大人たちに対していろんな疑問や不満をぶつけますね。嵐さんもこれまでそういう経験はありましたか。

大人に対して疑問をいだく瞬間はたくさんありました。それこそ反抗期のときは、「何でこんなことを言われなきゃいけないんだろう」と常に不満を持っていました。「パパやママも、小さい頃は同じことをやったでしょ。どうして私ばかり怒られなきゃいけないの」とか。だけど今では、父や母が言ってくれたことはすごく理解できるんです。きっと自分たちの良い経験も、そうじゃない経験もすべて生かしながら子育てをしてくれていたんだと思います。本当に尊敬していますし、いつか父や母のような人間になれたら良いなって。

――逆に「こういう人間にはなりたくない」というものは?

「女の子だからこうしなさい」「男の子らしくしなさい」みたいな考え方はすごく嫌いです。たとえば今って、男性でもメイクをしたり、スカートをはいたりして、思いおもいのファッションを楽しんでいますよね。でも一部ではそういう「自分らしさ」に対して否定的な意見を持つ人もいる。考え方は人それぞれだけど、私はそうなりたくないです。その人らしいスタイルや楽しみ方を否定するのはどうかなって。

――今のお話は『マイスモールランド』にも通じますよね。

本当にそうなんです。たとえば私はスケボーが好きなんですけど、「女の子がスケボーなんて」とたまに言われて。「すごい」でもなく、「ダメ」でもなく、そういうことが当たり前に受け入れられる世の中になってほしい。この作品にはそれが描かれていると思います。

映画『マイスモールランド』は全国公開中

配給:バンダイナムコアーツ

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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