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吉岡里帆主演の映画『ハケンアニメ!』、アーティストは「クリエイティブとビジネスの関係」をどう考える?

田辺ユウキ芸能ライター
(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

吉岡里帆が、新人のアニメ監督を演じた映画『ハケンアニメ!』。

念願のデビューにこぎつけた主人公・斉藤瞳の奮闘を通して、アニメ業界の舞台裏を描く同作。瞳が直面するのは、自分の望むものを自由に作れるわけではなく、プロデューサーやスポンサーなどの意向をくみとり、また視聴者層やテレビの放送時間帯にふさわしい表現も考えなければならない、がんじがらめの現実。そして「ヒットしなければ次の仕事が約束されない」というシビアな問題を突きつけられる。「クリエイティブとビジネスの関係性」について大いに考えさせられる内容だ。

そんな同作に共感を示したのが、アートの世界で活躍するRYHKIさん(アーティスト兼グラフィックデザイナー)、sumiさん(アーティスト)、ERIさん(絵描き)の3名だ。

映画のなかの人物たちと同じように、もの作りを仕事としているとあって、同作鑑賞後に話を訊いてみると全員「自分と重なった」と口にした。

「クリエイションする上で、ビジネスを切り離して考えることはない」

RYHKI/写真:本人提供
RYHKI/写真:本人提供

鑑賞者の想像力を刺激する抽象度の高い作品をつくっているRYHKIさんは、クライアントとの仕事について「自分の要素をどれくらい入れるか、求められているものにどれだけ応えられるか、その落としどころが難しい。また、分かりづらかったりするものは指摘されることもあります。でもそこは仕事として頭を切り替えますね。クリエイションする上で、ビジネスを切り離して考えてはいません。お金がないと絵の具もキャンバスも買えないですから。そればかりを求めるクリエイションはしたくないけど、お金もひとつの評価基準。ビジネス的なやりとりから、自分のなかにはない要素が引き出されることも多いんです」と納得できる部分を見つけ出していくという。

置物やイラストなどを制作しながら、広告映像の仕事もおこなっているというsumiさんも、「自分が作り出すものにいろいろ注文をつけられるのは、クリエイターとしてはしんどいもの。でも、納得できないと思うことがあっても、まず自分なりにうまく折り合いをつけていかないと、前に進めないと思います。私はアーティストとして活動する一方で、代理店から仕事を受けて広告映像をつくっているからこそ、クライアント側の意見もすごく理解できるので」と柔軟な考えを持っていると語る。

「絵描きとしてテーマを持っているから、それをうまく溶け込ませる難しさを毎回感じています」と話すのは、ERIさん。クライアントワークはこの1、2年で増えたというERIさんは「最初の頃は自分を押し殺してやっていくことが多かったのですが、なんでも話を合わせることはお互いのためにはならないと感じました。自分の絵を観て仕事をご依頼してくださっていますし、自分が言えること、言いたいことはできるだけ伝えるように心がけています。ノンストレスで終わる仕事はほとんどありませんが、でも最後にはスッキリした状態になります」と対話重視のスタイル。

「アニメーションは作業時間がすごくかかる」

sumi/写真:本人提供
sumi/写真:本人提供

個人による自由な創作、そしてクライアントワーク。そのどちらをやるにせよ「生みの苦しみ」はついてまわるもの。

RYHKIさんは「作品の終わりどころを決める作業が難しい。作品づくりは孤独な作業。自分と対話しているので、やろうと思えばどこまででも描いてしまうんです」、ERIさんは「描く前の段階が一番疲れます。何を描こうかって、考える時間が多いですね。描いているときは時間を忘れるんですが」とそれぞれの制作過程を振り返る。

sumiさんは「制作する上での苦労は感じませんが…」としながら、「たとえばアニメーションって1秒あたり10コマが必要で、作業時間がすごくかかるんです。仕事がなかった頃はバイトもしなければいけなかったけど、でもアニメーションの制作に時間を割くとバイトもできなくて。お金がなく、悶々としていました」と現在に行き着くまでに苦労が相当あったと話す。

「あなたが良いと思うものは、どんなものでも良い」

ERI/写真:本人提供
ERI/写真:本人提供

3人はクリエイティブを仕事に結びつけているが、今後、そういった世界を目指す人はどんなことを重視すれば良いのか。

RYHKIさんは「鑑賞した人によって良い絵は違うもの。良い絵の可能性は無限にある。たとえば海の絵を描いたとき、青色じゃなくても良いんです。アートって自由だし、なにが正しくて、なにが間違っているのかはない。まずは自分の思ったことを描くことが大切」。

sumiさんは「なにかを完成させたら、SNSなどで発表したり、いろんな人がいそうな場所へ行ったり、行動することが必要ではないでしょうか。自分のやりやすい環境に浸るのではなく、アクションすることで違う道が見つかったりする。どんどん外に出ていくべき」。

ERIさんは「自分が好きなものに対して、周りに気をつかわず『好き』と言える人間になること。私は学生時代、みんなが持っているものや流行に合わせて生活していたけど、それが本当に苦しかった。会社員も1年で辞めたのですが、それから自由な発想を持った人たちと出会い、気持ちが楽になったんです。つまり『あなたが良いと思うものは、どんなものでも良いんだよ』って」。

そして最後に3人は「なにかに迷いながら作品づくりをしている人は、『ハケンアニメ!』をぜひ観て欲しい」とオススメした。

映画『ハケンアニメ!』は5月20日より全国公開

配給:東映

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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