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「エロスを直接的に描いて喜ばれるのは男性社会の構造ゆえのもの」吉田浩太監督が食を通じて表現した性衝動

田辺ユウキ芸能ライター
吉田浩太監督(写真提供:SHAIKER)

食を通じて、人間の秘められた欲望を暴露していく連作短編映画『Sexual Drive』。性的な衝動を自分のなかに押さえ込んでいたり、知らないふりをしたりして日常を送る人々。そんな登場人物たちの欲望を、ある謎の男が呼び起こしていく。

『女の穴』(2014年)、『愛の病』(2018年)などエロティックさを題材とした映画を作り続ける吉田浩太監督が、「食」を通じて性に対する衝動を描いた同作。「想像が広がるエロス表現をやりたかった」という吉田監督に話を詳しく訊いた。

「映画で自由に表現できる性描写を自分なりに探り続けた」

(C)SHAIKER
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――直接的な性表現をせず、人がなにかを食べている様子で性的関係や衝動を連想させていくという、鑑賞者の想像力を信じた描き方がとてもチャレンジングだと感じました。

直接的なひとつの捉え方のみだけでなく、想像が広がるエロス表現をずっとやりたいと思っていました。今回の映画はその表現方法に特化しました。分かりやすく視覚的に刺激するエロス表現自体に違和感を持っていることはないのですが、日本において直接的な性表現は様々な制約が重なることがあり、また性表現が映画表現という枠組みでなく消費されていく傾向にありますので、映画で自由に表現できる性描写を自分なりに探り続けた結果、この直接的でない性描写が生まれたと思います。

――それが聴覚、嗅覚、味覚に訴えかける性衝動の表現につながったのですね。

確かにこの表現は視聴者を信頼していないと伝わらない方法論だと思います。また鑑賞者に、性についてより想像性を広げて観てもらいたいという気持ちもありました。海外の映画祭などでは、この直接的でない性描写が観客にはとても新鮮に映ったようでした。

「女性の性の肯定世界を描きたかった」

(C)SHAIKER
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――すべて「食事」を軸に性衝動が描かれていますが、そこから鑑賞者にどんなものを汲み取ってもらおうと思われましたか。

女性の性を肯定するということです。三篇を通じてそこは通底しています。女性の性を肯定すると、性において男性優位になる状態がなくなり、平等もしくは女性の性が優位になると考えます。そちらの方が、世界が健全であると感じているので「この映画をやりたい」となりました。先ほどの話にも通じますが、エロスを直接的な描写で描いて喜ばれるのは、男性社会の構造ゆえのもの。今作は、直接的でない性描写を描くことで、性を想像して楽しむ傾向がある女性の性の肯定世界を描いたとも言えます。

――性衝動と食の関連についてどんな風に感じていらっしゃいますか。

食欲と性欲はともにつながっているのではないでしょうか。何かを食べたいという欲望や衝動は、性衝動にも通じていると考えます。食べるという行為そのものが既にエロティックなものであると自分は感じておりまして、そう考えるとほぼすべての食べものがエロスに通じてしまうのではないかとさえ思います。自分は直接的なものよりも想像できるエロスに、より体が反応します。だから、食を通じてエロスを描くという想像性を含んだ表現を好むような気がします。

――なるほど。

あと、後先考えず根本欲求に対して衝動的に動いてしまう人間の愚かさというのが好きなんです、性衝動同様、衝動に任せてなにかを食べてしまうような人間の露悪的で剥き出しな本来の姿を描きたくなるんです。

さとうほなみの快演「麻婆豆腐を作る場面がパンク表現に」

(C)SHAIKER
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――たとえば2話目『麻婆豆腐』では主人公・茜が車を運転しなから、自分のなかで抑え込んでいた衝動を目覚めさせていきます。タイトルロール的な物語ですが、茜役のさとうほなみさんの弾け方がすばらしかったですね。

さとうほなみさんはかなり前に一度、ワークショップで知り合い、当時から面白そうな方だなと思っていました。1話目『納豆』制作後にさとうさんに出演オファーをしたのですが、物語がいかんせん車で轢過する話ですので…(笑)。ただ、『Drive』というタイトル通り、さとうさんならば自身の「衝動」を強く動かしていただける予感があり、オファーをいたしました。脚本は結構、パンクな内容だったのですが、それを楽しんでもらえたということは、さとうさんにはやはり強い衝動が根付いているのだと確信をしました。

――さとうさんは近年、役者として『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年)、『愛なのに』(2022年)などでも抜群の存在感を放っていらっしゃいますね

ゲスの極み乙女。でドラムを担当しているということもあり、非常に自由で、広い表現幅を持って演じることが出来る方だと感じました。表現欲求が非常に強く、その欲求をそのまま演技に載せることが出来る。実際、麻婆豆腐を作るシーンでは、「麻婆豆腐をアートのように表現して作って欲しい」とオーダーをしたところ、見事なパンク表現で作ってくださいましたから。

「地を知るものでしか物事の本質は見ることが出来ない」

――三編ともに、女性の気持ちや行動について、男性が全然気づいていないという図式が興味深かったです。

この映画は秘めた衝動を暴露していくものでもあります。人は他人の本質が見えていない、という図式で物語は進んでいます。劇中、その本質を見抜くことが出来るのは、芹沢興人さん演じる「栗田」という人物のみ。その栗田の視点から世界を描いていきました。

――栗田は、1話目『納豆』では江夏(池田良)の妻の浮気相手、2話目『麻婆豆腐』では茜(さとうほなみ)が運転する車に轢かれる被害者、3話目『背油大蒜増々』は池山(尚玄)の電話相手という風に素性を変えて出てきます。

栗田はいわば”地”の人間なんです。地を知るものでしか物事の本質は見ることが出来ない、という考えが自分に根付いており、それを表現したかったんです。それを栗田の視点にたくしました。男女の性という枠組みを超えて、他人の本質を見抜いている”地の人・栗田”と、その本質が見えていない人間たちということになりますね。そういう栗田と、各登場人物の距離感や関係性も楽しんでご覧になってもらいたいです。

映画『Sexual Drive』は全国公開中

配給:シャイカー

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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