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ものまね芸はデフォルメから再現性へ、現在の代役ブームと1990年代ものまねブームの印象が異なる理由

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:Splash/アフロ)

1月30日放送の情報番組『ワイドナショー』(フジテレビ系)で新型コロナウイルスの濃厚接触者となったMC・松本人志(ダウンタウン)の代役として、松本のものまねを得意とするお笑い芸人・JPが出演して話題を集めた。同回では原口あきまさもMC・東野幸治に扮した。

このコロナ渦、「ものまね芸人が代役をつとめる」というありそうでなかったピンチの乗り越え方がそこで提示された。

それにしても、現在の「ものまね芸人による代役ブーム」と、1980年代後半から1990年代にかけて過熱した「ものまね番組ブーム」では、同じものまねであっても芸として違った印象を与える。約30年前と今、何が異なるのだろうか。

ものまねバトルで勝つために必要だった「デフォルメ能力」

約30年前のものまね番組ブームで中心となっていたのは、コロッケ、清水アキラ、栗田貫一、ビジーフォー(グッチ裕三、モト冬樹)の「ものまね四天王」、松居直美、松本明子、篠塚満由美、しのざき美和の「ものまね女四天王」らだ。この面々が、ものまねバトル特番『ものまね王座決定戦』(フジテレビ系)で優勝を争った。

清水アキラのものまねを認めてこなかった審査員・淡谷のり子が、初めてその芸を褒めた瞬間。おふざけ重視で負けてばかりだった桑野信義が奇跡の快進撃で決勝へ駒を進め、初の大舞台で緊張のあまりに声を震わせながら歌った姿。熱いバトルのなかで、数々の名場面が生まれた。

『M-1グランプリ』ほどではないかもしれないが、それでも『ものまね王座決定戦』は、当時のお笑いシーンにおいて一夜で運命が変わる可能性を持っていた。たとえばコージー冨田は、『ものまね王座決定戦』と並行して特番で放送されていた素人たちがあつまる『発表!日本ものまね大賞』(フジテレビ系)で優勝を飾り、一気にものまね芸人としてスターとなった。

約30年前のものまね番組ブームの大きな特徴は、バトル形式で勝ち負けを強く意識させるものだった。だからこそ、どれだけインパクトを残せるか、笑わせることができるか、そして一聴して分かる歌のうまさが求められた。そういった点を踏まえると、ものまね対象のタレントをおもしろくデフォルメする能力と、音楽的なスキルが必要だった。

デフォルメ型のものまねは、キャラクター作りに近い

2月25日放送『人志松本の酒のツマミになる話』(フジテレビ系)に出演したコロッケは、ものまね芸の極意として「間をとること」を挙げた。

コロッケは、田中邦衛、ちあきなおみのものまねを例に出し、「すぐにその芸を始めるのではなく、間をためてから動いたり、話したりすることが大切である」と話した。そうすることで「観ている人の目を自分に引きつけられる」という。

視線を自分に一気に集中させるやり方は、バトル形式のものまね番組を多々経験してきたコロッケならではの「勝利の方程式」ではないだろうか。間をとって、視線をグッとあつめてから、デフォルメ型のものまねで爆発的な笑いを起こす。

ものまね対象のタレントが現実ではそういう仕草をほとんどやっていないとしても、「こういうことをやりそう、言いそう」という印象論込みでものまねができあがっていた。その目のつけどころとデフォルメの仕方がおもしろかった。キャラクター作りに近いものがあったのだ。極端な例になるが、清水アキラ扮する研ナオコや、コロッケのネタ「ロボットの五木ひろし」などを思い浮かべると分かりやすい。

デフォルメによる「ウケ」から、再現性による「感心」の時代に

一方で現在のものまね芸は、ものまね対象のタレントを細部まで再現する力が問われている。かつてのようにハデにデフォルメしない。視聴者をうならせるリアリティを追求している。

ものまね芸は、デフォルメによる「ウケ」以上に、再現性による「感心」の時代になった。

JPの松本人志のものまねは、お笑い的にも確かにウケる。でもそれ以上に、目のこすり方、椅子の座り方、「んがっ」と鼻を鳴らす笑い方など、忠実な再現性が見どころである。それを観て、誰もが「(松本はそういう仕草を)やるやる!」と納得させられる。かつての時代のように「こういうことをやりそう、言いそう」ではなく、「間違いなくこういうことをやる、言う」である。

ちなみにデフォルメによる「ウケ」と、再現性の高さによる「感心」の両面を成立させているのが、『博士と助手〜細かすぎて伝わらないモノマネ選手権〜』(フジテレビ系)ではないか。

その番組タイトルが示すように、演者たちは非常に細かいところを突いたものまね芸を披露する。そして誰もがちょっとしたデフォルメもおこない、ものまねにひと癖を加える。デフォルメと再現性のバランス感覚と、「細かすぎて伝わらないモノマネ」というジャンル開発は、バラエティ番組史に残るものである。

バズるものまね芸は瞬間的に「似ているかどうか」を判断させる

『ものまね王座決定戦』などものまねバトル番組では、コロッケが話す「間」がやはり有効だ。「間」と「デフォルメ」の緩急がウケるための鍵である。劇場などライブで披露されるものまね芸も然り。

しかしJPらの現在の「代役ブーム」のものまねは、瞬間的に「似ているかどうか」を判断させる芸となっている。パッと見て誰なのか分かるリアリティあるものまね芸は、SNSのスピード感に合ったものでもある。

「間」でじっくり見せるものまね芸と、「瞬発力」で勝負するものまね芸。デフォルメ型とリアリティ型。そして、バトル向けか否か。

ものまね芸が分枝化した背景には、テレビからSNSまで、ものまねを披露するプラットホームの多様化が影響している。ものまね芸人たちが目指す方向性もさまざまになった。だから視聴者的にも、ものまね芸から受ける印象が約30年前と現在では異なるようになったのではないか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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