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女芸人No.1決定戦『THE W 2021』で問われた審査方法と番組演出

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:アフロ)

視聴者も「対戦形式」の審査に違和感

女性芸人の日本一を決める『THE W 2021』(日本テレビ系)の決勝が12月13日に開催され、5代目女王にオダウエダが輝いた。

オダウエダはファーストステージで「ありえないメニューを次々案内する居酒屋」、ファイナルステージでは「蟹に異常な執着心を見せる男性」のネタで優勝をつかんだ。最終決戦で敗れはしたが、Aマッソ、天才ピアニストも完成度が高く、大接戦となった。

一方で改めて問われたのは、『THE W 2021』の審査方法と、いかにもテレビ的だった番組演出についてだ。SNSでも違和感の声が多数挙がっていたことは、事実として触れておかなければならない。

『THE W』のファーストステージの審査方法は、Aブロック、Bブロックに5組ずつ振り分け、ネタが終わるごとに暫定1位を決めていく「対戦形式」。

今大会では、Aブロックはトップバッターのヨネダ2000を2番手・紅しょうがが下して暫定1位となり、そのまま茶々、TEAM BANANAも撃破したが、5番手・オダウエダに敗戦。Bブロックでは1番手・天才ピアニストが、女ガールズ、ヒコロヒー、スパイクを相手に連勝。しかしラストのAマッソが天才ピアニストに勝利し、ファイナルステージ進出。今回から設けられた敗者復活「国民投票枠」で天才ピアニストが拾われた。

「ネタ評価」よりも「比較」になってしまった

ここで、人気賞レースの現行の審査方法を簡単に振り返りたい。『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)のファーストステージは、ネタ順に審査員が点数を付けて順位を決めていく方法。上位3組がファイナルステージに進み、審査員が多数決で優勝者を選ぶ。

『キングオブコント』(TBS系)はファーストステージでネタ順の点数審査をおこなって上位3組がファイナルステージに進出。ファーストステージとの合計点数で優勝を決める。

『R-1グランプリ』(関西テレビ)はファーストステージ、ファイナルステージともに、ネタ順に審査員が点数を付け、そこに視聴者のTwitter投票の点数を加算。合計点で勝者を決める。

どの大会もこれまで何度も審査方法を練り直してきた。2021年現在、賞レースごとに微妙な違いはあるが、いずれもネタ順に審査・点数を付けて、上位が最終決戦へと進めるシンプルな方法をとっている。

例えば『M-1』は、各審査員が誰をおもしろさの軸にしているか、ネタについてどんな評価をしているのか、それをどのように点数として表すのか、そういった「審査員としての芸」も醍醐味になっている。また各審査員は、数点の差をコンビごとに生じさせ、そのなかにいろんな意味合いを込めている。わずかな点数差がドラマを巻き起こし、最終的に結果も左右する。ネタ順に沿って点数評価する審査方法はシンプルではあるが、深みがあるのだ。

『THE W』の審査方法はその点が薄い。軍配の上げ下げによる審査方法からは「ネタについて評価する」という要素があまり感じられず、対戦する両者の比較でしかなかった。

各審査員もこの「対戦形式」では審査コメントを出しづらかったのではないか。そのせいかネタの話よりも、対戦という部分に比重を置いた発言が目立った。特に紅しょうが、天才ピアニストが各ブロックでギリギリまで勝ち残ったため、両コンビのことを交えた類似コメントを何度も聞くことになった。司会・後藤輝基(フットボールアワー)は「これが『THE W』の醍醐味」としたが、視聴者の多くはそこまで乗り切れなかった。

トップバッター不利に考慮した審査方法?

『THE W』としては、『M-1』などとは違った審査方法で独自のカラーを出そうとしたのだろう(実際『キングオブコント』『R-1グランプリ』にも、かつてはそういった風潮が見受けられた)。

また、お笑いの賞レースの多くは「ファーストステージはトップバッターが不利」とされている。『THE W』は出番順の有利、不利を少なくしようと試みたのではないか。確かに今大会のファーストステージは、A、Bブロックで序盤出演の紅しょうが、天才ピアニストが各ブロックの最後まで残った。しかしこの二者択一のやり方は印象鮮度の判断に偏りすぎて、純粋なネタ評価に結びつかない感があった。

ただでさえ『THE W』は、しゃべくり漫才から小道具やBGMを多用したコントまで、披露されるネタの幅が広い。「対戦形式」で白黒付けるのはかなり困難だ(もちろんそれは点数審査であっても言えることだが)。

没入感を浅くした、テレビ的な演出

『THE W 2021』は、番組を盛り上げるための演出も、視聴者にとってフィルターになったのではないだろうか。

優勝者には日本テレビ系の各番組への出演権が与えられるのだが、番宣要素がやや強すぎた上に、明石家さんま、所ジョージら大物が特別感をもって登場することによって、ネタの世界から現実へと引き戻されてしまった。オダウエダの優勝が発表された後、彼女たちの感想にそれほど時間を割くことなく番組告知へ切り替わったところも残念だった。

あと、テレビ画面の右端に「LIVE」と表示しながら、笑い声、拍手の明らかな加工がなされていたところも不自然だった。日本テレビ系のかつての人気番組『エンタの神様』の雰囲気に近かった。

テレビ番組として、盛り上げるための演出が大なり小なりあるのは当然のこと。それでも、何でもないところで笑い声が被さったり、声や拍手に余韻がなく次の瞬間にはピタッとおさまったりする音声演出は、視聴者に大きな違和感を与えた。

応援ブースではゲストのフワちゃんが奮闘。一方でその自由奔放さに対してスタッフが番組中「やりすぎ」と注意したとのこと。その苦言もお笑いの賞レースという点では納得できる。主役はあくまで芸人だからだ(フワちゃんは自分の役割に徹しただけなので、何も悪くはない)。

数々のテレビ的な演出、構成が散漫さにつながってしまい、『THE W 2021』への没入感を浅くしてしまった。

今大会を通して、Aマッソの実力を再確認し、芸歴2年目・茶々を発見でき、人気芸人のヒコロヒーが緊張でネタ中に震える姿を見て大舞台の恐ろしさを知った。見どころがたくさんあっただけに、今後のブラッシュアップに期待したい。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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