Yahoo!ニュース

遺言書はメンテナンスが肝心~作成後の「3つの変化」に要注意!

竹内豊行政書士
遺言作成後の「3つの変化」に要注意です。(写真:アフロ)

約40年振りの相続法改正によって、自筆証書遺言の作成が、旧法と比べて作成しやすくなりました(詳しくは、この遺言書は無効です!~改正相続法の落とし穴をご覧ください)。

また、来年の令和2年(2020年)7月10日から、遺言書保管法が施行されます。これにより、遺言者(遺言を作成した人)は、自筆証書遺言を公的機関である法務局(遺言書保管所)に預けることができるようになり、旧法下で、自筆証書遺言の弱点といわれていた、紛失、破棄、汚損等による遺言の内容が実現されない事態を回避することができるようになります(詳しくは、ガラッと変わった相続法 ここに注意!vol.2~自筆証書遺言の保管制度をご覧ください)。

このように、改正相続法によって遺言が作成しやすくなり、作成した後の保管も法の下で厳格に行われることで、遺言の普及が拡大することが予想されます。ただし、それによって、遺言をめぐるトラブルも増える可能性があります。そのおもな原因は遺言を作成した後の状況の変化です。では、どのような変化があり得るのか、具体的にみてみることにしましょう。

遺言の効力発生時期

まず、変化の事例をみる前に、遺言はいつからその効力が発生するのか確認しておきましょう。

遺言は遺言者が死亡したその時から効力が発生します(民法985条)。したがいまして、遺言を作成しても、遺言者が生きている間(死亡するまで)は、その内容は法的効力を有しません。

民法985条(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

遺言作成後の「3つの変化」に要注意!

一般的に、遺言を作成してから遺言の効力が発生するまで、つまり、遺言者が死亡するまでには、一定期間がかかります(その点が、死を覚悟して残す「遺書」とは違います)。

そのため、遺言作成時から死亡までの間に、状況が変わることもままあります。そして、その変化を遺言に反映させずに、そのままにしておくと、遺言書をめぐるトラブルを引き起こす危険性が高くなるのです。その変化は、次の3つが挙げられます。

その1.「人」の変化

財産を遺そうと思っていた者に次のような、変化が起きて、遺言作成時と状況が変わってしまった。

相続人の死亡

~遺言の作成後に、相続人の死亡により、相続関係が変わってしまった。

受遺者の死亡

~遺言作成後に、遺言書に、財産を承継させる旨を記載した人が、遺言者より先に死亡してしまった。なお、たとえば、長男に承継させるとした財産は、長男が遺言者より先に死亡した場合、原則として、代襲相続人(この場合、長男の子)に、自動的に承継されることはなく、当該財産の承継者は、遺産分割の対象、つまり、代襲相続人を含む相続人全員の協議で決めることになります。

孫の誕生

~遺言作成後に、孫が生まれて、「孫にも財産を遺してやりたい」と思うようになる。

人間関係の悪化

~遺言作成後に、遺言書に「財産を承継させる」とした者と、関係が悪化してしまい、「財産を遺してやりたくない」と思うようになった。

その2.「財産」の変化

遺言作成後に、次のような状況が生じて、財産の内容が変わってしまった。

売却した

~老後の終の棲家として、施設に入居するための資金として、遺言書に「長男に相続させる」と記した不動産を売却した。

予期せぬ財産を得た

~宝くじに当せんしたなど、遺言作成時には予期しなった財産が転がり込んできた。

財産が大幅に減ってしまった

~株で損失したなど、遺言作成時には予期しなかったことが原因で財産を減らしてしまった。

その3.「遺言執行者」の変化

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有している者です(民法1012条1項)。遺言執行者を遺言書に記すことは、遺言の成立要件ではありませんが、遺言執行者が記されていないと、遺言の執行手続きに何かと不便を来します。その遺言執行者に次のような変化があると、遺言の執行が滞ってしまうなど不都合が生じてしまいます。

遺言執行者の死亡

~遺言者が死亡してしまって、遺言執行者が事実上、不在になってしまった。

遺言執行者が職務遂行不能状態に陥る

~遺言執行者が病気等になってしまうなどで、執行の職務遂行が困難な状態になってしまった。

廃業してしまった

~遺言執行者に、行政書士等の法律専門職を指定したが、その者が廃業してしまった。

遺言は作成し直すことができる

遺言者の最終意思を尊重するために、遺言者は、自らの死亡によって残した遺言書の効力が生じるまで遺言を自由に撤回することができます(民法1022条)。つまり、遺言は何度でも作成し直すことができます

ただし、遺言者が認知症等に罹ってしまって意思能力がない状況下で作成しても、たとえ、形式的に法的に有効な遺言書を残しても、無効になってしまいます(詳しくは、恐怖の遺言書~遺言トラブル・ワースト5とその防止策をご覧ください)。

民法1022条(遺言の撤回)

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

遺言作成後に、今回ご紹介した「人」「財産」「遺言執行者」の3つに変化があったときは、自分の死後に、残した遺言書が原因で、相続でもめる危険が高くなります。その場合は、遺言を作成し直すなどのメンテナンスを講じましょう。

遺言の目的は、「残すこと」ではありません。遺言書に記した「内容を実現すること」です。今回ご紹介した「変化」が起きてしまうと、内容を実現することが不可能もしくは困難な状況になります。このことをぜひ覚えておいてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事