ガラッと変わった相続法 ここに注意!vol.6~「遺留分制度の見直し」で遺言が実現しやすくなる
平成30年7月6日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(改正相続法)が成立して相続の姿がガラッと変わりました。
そこで、相続法が変わったことによる注意点をシリーズでご紹介しています。
自筆証書遺言の残し方、 自筆証書遺言の保管制度、相続人以外の者による貢献の考慮、 遺産分割前の払戻し制度、そして残された妻が多くの遺産を取得できる「持戻し免除の推定規定」に続いて、今回は遺留分制度に関する見直しです。
遺留分制度とは
遺留分制度とは、一定範囲の相続人(=兄弟姉妹を除く相続人、つまり、配偶者と、子または直系尊属)に対して、被相続人の財産の一定割合について相続権を保障する制度です。
被相続人(=死亡した人)がこの割合を超えて生前贈与や遺贈(=遺言によって無償で財産的利益を他人に与える行為)をした場合には、これらの相続人は、侵害された部分を取り戻すことができます。この権利を遺留分減殺請求権といいます。
遺留分制度は、遺族の生活保障という観点から、被相続人によって住居や生計を維持してきた家族共同体の構成員に対して、被相続人が死亡した後も一定の範囲で住居や生計を維持できることを保障するために設けられたものです。
今まで~遺留分減殺請求権は現物返還が原則
今までは、遺留分減殺請求権を行使すると、減殺の対象となった財産の現物返還が原則とされ、例外的に減殺相手方からの価額弁償の抗弁を認められるという仕組みが採用されてきました。
この結果、遺留分権者と遺贈等を受けた者との間で複雑な「共有」(注)の状態が発生してしまいました。そして、不動産・株式ほかの財産の譲渡をしたときに、事業承継等の障害が発生するなど問題がありました。
(注)共有とは、数人がそれぞれ共同所有の割合としての持分を有して一つの物を所有すること。共有状態になると単独で共有物の変更(処分を含む)・管理(賃貸借契約の設定や解除等)ができなくなる。
こう変わる~遺留分減殺請求は金銭債権化される
そこで、遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化し、遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に発生することを回避できるようにしました(民法1046条1項)。
1046条(遺留分侵害額の請求)
1.遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
ここに注意!遺留分制度の見直し
もっとも、その請求を受けた者が金銭を直ちには準備できないということもあります。
そこで、受遺者等は、裁判所に対し、金銭債務の全部または一部の支払につき、期限の許可を求めることができるようにしました(民法1047条5項)。
民法1047条(受遺者または受贈者の負担額)
5.裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払(筆者注:遺留分減殺請求額)につき相当の期限を許与することができる。
開始時期
遺留分制度の見直しの規定は、2019年7月1日からスタートします。
遺留分制度の見直しは、「遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたい」という遺言者の意思をより確実に実現することができます。その結果、わずらわしい共有状態を回避することで相続の紛糾を抑止することが期待できます。
遺留分制度の見直しは、遺言の普及を後押しすることにつながるかもしれません。
ガラッと変わった相続法 ここに注意!バックナンバー
Vol.1 自筆証書遺言の残し方
Vol.2 自筆証書遺言の保管制度
Vol.3 相続人以外の者による貢献の考慮
vol.4 遺産分割前の払戻し制度