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愛知県愛西市の学校統廃合計画、立田地区の保護者が再検討求める署名提出

関口威人ジャーナリスト
日永貴章市長(右)に署名を手渡す代表の照井緑さん(10月10日、筆者撮影)

 愛知県愛西市で検討の進む小中学校の統廃合計画について、中学校がなくなる案の示されている立田地区の保護者代表が10日、計画の見直しを求める要望書を日永貴章市長に提出した。同市では2014年から学校統廃合の議論が続いているが、いったん提案された小中一貫校の構想は住民の反対運動を受けて白紙になるなど、合意形成の難しさが浮き彫りになっている。

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 愛西市は愛知県の西端に位置し、2005(平成17)年に2町2村が合併して生まれた。人口は約6万人だが、少子高齢化で減少が見込まれ、特に県境寄りの旧八開村、旧立田村の2地区では既に学校の小規模校化が進んでいる。

愛西市の位置関係と旧町村の構成(筆者作成)
愛西市の位置関係と旧町村の構成(筆者作成)

南北の小中一貫校構想から東西の中学校統合へ

 市教委は2017年に「立田・八開地区の学校すべてを統合し、小中一貫校1校にする」方針を決めたが、八開地区からはすべての小中学校がなくなってしまうとして住民が猛反発。仕切り直す形で21年から各種の委員会や協議会が開かれ、今度は八開中を旧佐織町地区の佐織西中へ、立田中を旧佐屋町の佐屋中へと、東西を統合する形が示された。

 ただ、これにも通学路の安全性への不安や、議論の進め方への反発などが出て、今年3月に開かれた地区ごとの説明会では紛糾する場面もあった。特に立田地区では中学校がなくなり、佐屋中へは通学距離で6キロ以上離れた地域も出てくる一方、八開中と統合する佐織西中の方が近い家庭もあるなど保護者の混乱や不満が高まった。

愛西市教委がまとめている最新の計画案(基本計画の素案)。立田中を佐屋中に再編した上で、立田南部小と北部小の再編も進めるとしている
愛西市教委がまとめている最新の計画案(基本計画の素案)。立田中を佐屋中に再編した上で、立田南部小と北部小の再編も進めるとしている

「中学校がなくなる」立田地区で署名運動

 そこで立田地区の保護者らは5月に「立田地区の教育環境を考える会」を結成、「計画をいったん中止し、住民との合意形成を図る」ことを求める署名運動を始めた。署名は6月5日から8月末までに1,267人分が集まった。立田地区の人口は10月現在6,898人となっている。

 この日は会の代表の照井緑さんらが市役所を訪れ、署名簿とともに市長宛ての要望書を手渡した。要望書では立田中と佐屋中の統合案の検討をいったん中止した上で、「特色のある小中一貫、学区の再編成、適正配置内に魅力ある新校舎の建設等の案を住民が参加する委員会を設立し、再検討すること」などを求めている。

 照井さんはこれまでも地区の検討協議会などに参加したが、「統廃合によるメリットとデメリットが十分説明されず、他都市のように複数のプランも検討されていない」と感じたという。保護者の中からは立田中と佐屋中の間に学校を新設する案なども出されているが、本格的な検討や議論はなく、学校統廃合を決める際は「保護者の声を重視しつつ、地域住民の十分な理解を得た上で合意形成を図る」とする文科省の手引きが守られていないと指摘する。

 要望書を受け取った日永市長は「できる限り地域の合意を得てやるべきだと思っている。要望書と署名を受け取ったので、私からも教育委員会にしっかり準備するように伝えたい」と述べた。

 市教育委員会学校教育課は、要望書を含めて検討した上で、今年度中には計画案を固めて基本計画を作成したいとしている。

愛西市の学校統廃合の流れ(筆者作成)
愛西市の学校統廃合の流れ(筆者作成)

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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