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「学校統廃合」のあり方は? 愛知県愛西市の紆余曲折から考える

関口威人ジャーナリスト
愛知県愛西市で統廃合が計画されている4つの中学校(筆者撮影)

 急激な少子化や過疎化に伴い、学校統廃合が全国各地で進んでいる。文部科学省によれば2019年から21年までの3年間に学校統廃合は全国で437件あり、1055の学校が半分以下の454校になった。また、生徒数が極めて少ないなどの学校の「適正規模」に課題があると感じている市区町村は77%に及び、84%が対策の検討に着手しているという。

 しかし、学校がなくなることは地域の崩壊を招くとして反対運動が盛り上がることや、統廃合が決まっても「校名」で揉めることがある。地域づくりや教育の本質を捉えながら学校統廃合を進めていくにはどうすればいいのか。小中一貫校計画が頓挫し、その後の見直し案を巡っても保護者の反発が強まるなど、紆余曲折をたどる愛知県愛西市の現状から考えたい。

平成の大合併で生まれた市に少子化の荒波

愛西市は名前の通り、愛知県の西端に位置する。木曽川に接する八開村と立田村、津島市を間に挟む佐織町と佐屋町が2005年に合併した(筆者作成)
愛西市は名前の通り、愛知県の西端に位置する。木曽川に接する八開村と立田村、津島市を間に挟む佐織町と佐屋町が2005年に合併した(筆者作成)

 愛西市は愛知県の西端にある人口約6万人の市。木曽川に接する自然豊かな八開(はちかい)村と立田(たつた)村、より名古屋に近く交通も発達している佐織(さおり)町、佐屋(さや)町の2町2村が2005(平成17)年に合併して生まれた。

 ただ、地図を見ると分かるように、愛西市は東に隣接する津島市の一部を挟むように北(旧八開村、旧佐織町)と南(旧立田村、旧佐屋町)で分かれている。そのため合併から18年が経つが、旧町村の「壁」を超えた地域づくりが今でも課題とされている。

 そんな愛西市で学校統廃合の議論が正式にスタートしたのは2014年。「愛西市立小中学校適正規模等検討委員会」として保護者代表や自治会代表を含めた委員8人が議論を始め、市立小中学校の学校規模や配置の基本的なあり方についての提案をまとめ、市教育委員会に提出した。

 市教委は提案を受けて「愛西市立小中学校適正規模等基本方針」を策定。市議会に報告し、小中学校のPTA役員にアンケートを取った上で、15年からは「検討協議会」を立ち上げ、公募の委員ら18人が8回にわたって協議を重ねた。そこで学校統合の3つの案を盛り込んだ「基本計画」が出され、その中から市教委は「立田・八開地区の学校すべてを統合し、小中一貫校1校にする」案を今後の方向性として17年9月に正式決定した。

2017年に市教委は「八開・立田地区の学校すべてを統合し、小中一貫校1校にする」方針を決定した。実際には立田中を小中一貫校とする計画で、学校のなくなる八開地区の保護者が猛反対した(筆者作成)
2017年に市教委は「八開・立田地区の学校すべてを統合し、小中一貫校1校にする」方針を決定した。実際には立田中を小中一貫校とする計画で、学校のなくなる八開地区の保護者が猛反対した(筆者作成)

「学校がなくなる」八開地区の保護者が猛反対

 だが、これを「市が勝手に決めてしまったこと」と受け止めるのが八開地区の保護者の一人だ。自身も含めて周りの保護者も協議会や市教委の議論はまったく知らず、気付いたのは小中一貫校の方針が決まって新聞に載ってから。その中身をよく知ると、八開地区の小学校2校と中学校1校をすべてなくし、立田中学校に小中一貫校として統合する案だった。八開から立田までの通学距離は最大で10kmにも及ぶ。市教委はスクールバスを出すと説明したが、他に近い学校がある中でなぜ子どもたちが遠くまで通わなければならないのかーー。

 市教委は各地区で説明会を数回開いたが、「計画を知って怒る住民が増え、ほとんど抗議集会になった」と保護者は振り返る。

 八開地区の保護者らは有志の会を作って反対運動を展開し、18年には地区住民の8割に当たる約3000人分の反対署名を提出した。統合案に賛成する議員がほとんどだった市議会に提出した陳情書は不採択となったが、市は地域との合意形成が難しいと判断、小中一貫校計画は事実上、立ち消えとなった。

学校規模“赤信号”で21年から再び議論

 だが、少子化が止まらないのは事実。市教委によれば、愛西市の児童生徒数は2010年度には6370人だったが、22年度には4394人に減少。28(令和10)年度は3652人にまで減ると予測されている。このままでは小学校が佐屋小1校を残してすべて各学年2クラスを維持できない「小規模校」となり、中学校では立田中も各学年2クラス以下の「過小規模校」となる。八開中は22年度も生徒数104人で既に過小規模校だが、28年度には89人、34年度には59人にまで減る見込みだ。また、半数以上が築50年以上を経過した学校施設の老朽化も激しい。

今後の学校規模の見通しを示す図。八開中に続き立田中も2027年度には過小規模校化が見込まれている(愛西市教委の資料から)
今後の学校規模の見通しを示す図。八開中に続き立田中も2027年度には過小規模校化が見込まれている(愛西市教委の資料から)

 このため、市教委は21年に「愛西市立小中学校施設老朽化対策検討委員会」を立ち上げ、続いて「愛西市立小中学校適正規模適正配置等検証委員会」を設けて主に学識経験者らが議論。当初の「基本方針」を「改訂版」としてあらため、再び学校統廃合議論を前進させ始めた。

 22年7月からは「愛西市立小中学校適正規模等並びに老朽化対策検討協議会」で有識者や保護者代表ら20人が議論し、9月に「協議会案」と呼ばれるものがまとまった。それは将来的に中学校を南北の2校に集約することを基本に、東西の学校を統合する案。具体的には以下の4つの計画となる。

①佐屋中と立田中を統合し、佐屋中に配置

②八開中と佐織西中を統合し、佐織西中に配置

③永和中は生徒数の推移を注視し、過小規模校となるまでに佐屋・立田統合中へ追統合

④佐織中は生徒数の推移を注視し、佐織中あるいは八開・佐織西統合中のどちらかが過小規模校となるまでに統合

 実施時期は①について、立田中が過小規模校となる前の2026(令和8)年度末が望ましいとするが、市教委は現実的には①と②の統合が決定してから5年後がめどだと説明。③の永和中の追統合はさらに5年後を見込む。

市教委が見直し案として検討している中学校統廃合の形。将来的に南北に2校とすることが基本だ(筆者作成)
市教委が見直し案として検討している中学校統廃合の形。将来的に南北に2校とすることが基本だ(筆者作成)

 小学校に関しては実質、議論が先送りされ、中学校の統廃合を中心に4地区ごとに「地区検討協議会」という協議の場が22年10月から設けられた。

 各地区で元学校長や自治会長、保護者代表ら11〜14人が参加し、「協議会案」について議論。しかし、保護者にとっては「そもそも」が理解や納得のできないことばかりだったようだ。

見直し案にも反発「保護者の意見重視を」

 八開地区の協議会では「通学路の安全性などを具体的にしっかり決めてからでないと判断できない」という保護者に対し、年配の委員が「まず統合するかどうかを決めないと。細かいことはその後でいい」と諭すような場面が見られた。

 立田地区では「この会議で方向性を決めてしまっていいんですか? もっと保護者の意見を重視してほしい」と立田北部小PTA会長の高橋和希さんが訴えた。

 高橋さんたちは昨年11月から12月にかけて、独自に立田北部小・南部小の保護者にアンケートを取り、結果を地区協議会にも報告した。立田中が佐屋中に統合される現在の協議会案には「反対」「やや反対」が立田北部小で約7割、立田南小で約6割と多数だった。その理由は「通学距離が遠くなり安全上問題だから」が北部小で9割以上、南部小で約6割を占めた。

立田地区で保護者が独自に取ったアンケート調査結果の一部。青とオレンジの反対意見が過半数を占めている(愛西市教委の資料から)
立田地区で保護者が独自に取ったアンケート調査結果の一部。青とオレンジの反対意見が過半数を占めている(愛西市教委の資料から)

 一方、賛成派は両校とも9割以上が「クラス数が多くなる(小規模校が解消される)から」と回答。小規模校に対して何らかの対策が必要だと考える保護者は半数を超えていた。そのために愛西市全体での学校区の見直しを求める声もあり、高橋さんは佐屋地区を含めて小学校区を再編し、佐屋地区内の永和中も残した上で、立田中と佐屋中の中間地点に中学校を新設する案などもあり得るとする。

 立田地区の協議会は高橋さんらの訴えで意見の一本化はせずに終了したが、その後に市教委が開いた保護者向け説明会では高橋さんたちの代替案には触れられなかった。高橋さんは「他に選択肢がなく、『これで行きます』という説明会だった。もっと議論が必要なのに、時間がもったいない」と焦りをにじませる。

2月19日に立田地区の保護者向けに開かれた説明会であいさつする平尾教育長。紛糾まではしなかったが、保護者からは「学校がなくなれば過疎化が一層進む」との声も上がった(筆者撮影)
2月19日に立田地区の保護者向けに開かれた説明会であいさつする平尾教育長。紛糾まではしなかったが、保護者からは「学校がなくなれば過疎化が一層進む」との声も上がった(筆者撮影)

専門家は「統廃合以外の選択肢もあり得る」

 市教委の平尾理教育長は取材に対し、「保護者の反対意見は無視できないが、我々としては現在の案で理解をしてもらわないといけない。引き続き順番に丁寧に情報提供して理解を求めていく」と話す。

 これまでの流れをたどると、行政としては住民参加や意見聴取の機会を十分に設けているという認識のようだ。

 学校統廃合問題に詳しく、愛西市の反対運動もよく知る和光大学の山本由美教授(教育行政学)は「愛西市の当初案は合併後の旧自治体から学校を完全になくすという、非常に無理のある計画だった。それに対する住民の不信感が今でも大きく、そのぶん全国的にも保護者がしっかりと考えて意見をまとめている」と見る。

 その上で「八開地区は少ないと言っても100人規模の中学校が維持されてきており、各地区で小中一貫校を造るなどの選択肢もあり得るのではないか。小規模校や複式学級にはメリットもあり、逆に統廃合には地域が崩壊したり荒れたりするなどのデメリットもある。行政はスケジュールや人数合わせだけでなく、学校と地域の関係もよく考えて合意形成を図っていく必要がある」と指摘する。

 今後は3月19日に八開・立田地区で、26日に佐屋・佐織地区でそれぞれ住民向け説明会がある。市教委はこれまでの議論を踏まえて「素案」を示すとする一方、高橋さんら保護者代表も住民に向けて発言する予定。地区協議会では統合案でまとまったとされる佐屋地区でも、永和中学校区の保護者があらためて取ったアンケート結果を示すという動きもある。今後の各地の議論や運動にも参考になることだろう。

愛西市の学校統廃合を巡る議論の流れ。8年余りにわたる紆余曲折が続いている(筆者作成)
愛西市の学校統廃合を巡る議論の流れ。8年余りにわたる紆余曲折が続いている(筆者作成)

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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