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避難所における感染対策 留意したい7つのポイント

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

本日、午後4時すぎ石川県能登地方を震源とする地震があり、日本海側に広範に津波警報が発表されました。

被害が最小であることを祈っていますが、林官房長官は記者会見で「建物倒壊などによる生き埋めが(少なくとも)6件発生している」と述べています。多数の110番通報、119番通報が入っており、停電や携帯電話の通信障害などライフラインへの被害も生じているようです。被災状況の全貌が明らかになってくるのは、夜が明けるのを待たなければならないかもしれません。

北陸地方における新型コロナウイルスの流行規模は大きくありません。12月11日から17日までの定点当たり報告数は、富山県 5.42、石川県 4.52、福井県 3.69 であり、インフルエンザで使用される注意報の目安とされる「10」を下回っていました。ただし、年末年始の帰省シーズンでもあり、人と人との交流が活発になることから、過去、年明けの1月には大きな流行が発生してきたという経緯があります。

一方、インフルエンザについては、12月11日から17日までの定点当たり報告数が、富山県 34.3、石川県 32.5、福井県 23.4 と警報の目安とされる「30」を上回っており、現在も大きな流行が続いている可能性があります。このため、被災地の方々は、まずは命を守る避難を最優先としていただきながらも、避難所等における感染対策を早めに心がけていただければと思います。

そこで、以下、避難所を管理する市町村や支援者の方々にお願いしたい留意点について、できるだけ端的に、7つのポイントに分けてご紹介します。

1)できるだけ分散避難を検討

高齢者や妊婦、あるいは乳幼児などハイリスクの方々については、できるだけ親類の家などへの避難を検討してください。しかし、現実にはその選択が難しい、または選べない方々がおられます。

そこで、市町村では、こうしたハイリスク者のために、ホテル等の宿泊施設を提供いただければと思います。要介護者であれば、市町村外まで範囲を広げて、緊急にショートステイを利用する方法も考えられます。

こうした対応には、県や政府のサポートが不可欠です。安全な避難先が準備できるよう、連携して調整いただければと思います。

2)症状のある方がいないか確認

発熱や咽頭痛、咳などの症状を認めるときは、速やかに避難所の管理者に申し出ていただきます。管理者は、本人の状態(重症度、基礎疾患、介護度)によって、医療機関への入院避難を検討します。

ただし、病床の確保状況などを踏まえる必要があります。緊急性が高いと考えられる状態を除いて、事前に医療機関に相談してから救急搬送の可否を確認してください。自治体によっては、相談先が指定されている可能性があります。すでに医療チームが入っている場合には、対応を依頼してください。

避難所内での療養継続となる場合には、できるだけ別室での隔離療養を原則とします。どうしても別室が確保できない場合には、衝立などで他の避難者から遮蔽するとともに、避難所内の換気の状態を確認し、風下(風が流れ出る場所)にて過ごしていただくようにします。

2011年東日本大震災における避難所の掲示(筆者撮影)
2011年東日本大震災における避難所の掲示(筆者撮影)

3)世帯ごとの遮蔽と適度な換気

避難所内では、できるだけ世帯ごとに遮蔽したエリアを確保してください。遮蔽できる資材がない場合には、他の世帯とは十分な距離(できるだけ2メートル以上)をとって過ごせるようにしてください。

そのうえで避難所内の換気をお願いします。ただし、北陸では寒冷の厳しい時期であり、窓開け換気は現実的ではなく、換気扇を常時回し続けることが限界ではないかと思います。少なくとも、公共エリアを完全に密閉しないことが大切です。

こうした感染対策には限界があります。大変だと思いますが、市町村は、避難所内の密集が生じているときは避難場所の分散を検討してください。

2023年台風6号被災時に沖縄市が設置した避難所(宮里大八さん提供)
2023年台風6号被災時に沖縄市が設置した避難所(宮里大八さん提供)

4)公共エリアではマスク着用

避難者の方々には、避難所内の公共エリアでのマスク着用をお願いします。マスクを持参されなかった方のため、管理者はマスクを準備しておきましょう。お子さんなどマスクを適切に着用することが難しい方もおられます。周囲の理解と柔軟な対応をお願いします。

なお、周囲から遮蔽された世帯ごとのエリアでは、マスクを着用して過ごす必要はありません。ただし、咳などの症状が続いている方については、個室でない限りはマスクを常に着用いただくようお願いしてください。

5)手指衛生と定期的な入浴

食事の前、トイレの後、オムツ交換後、症状のある人のケア後、ゴミの処理後など、避難者や管理者がこまめに手洗いできる環境を整えてください。また、避難所に出入りするすべての人に対して、アルコールによる手指衛生を呼びかけましょう。また、避難者が衣服や寝具を洗濯できるよう、避難所周辺に洗濯場所を設置します。

そして、少なくとも週2回は避難者が入浴できるようにしてください。とくに、オムツを使用している乳幼児や高齢者の清潔を保つことは重要です。安全で、プライバシーと尊厳を保つ形の男女別の入浴施設を提供します。入浴場所から避難所までの距離は短く。暗がりを作らないことも大切です。

2011年東日本大震災における避難所の掲示(筆者撮影)
2011年東日本大震災における避難所の掲示(筆者撮影)

6)十分な数のトイレを設置する

被災地における適切な数のトイレの設置は、し尿により媒介される感染症予防の基本です。石鹸、ペーパータオル、トイレットペーパー、消毒薬などの基本資材を確保する必要もあります。

避難所のトイレが不足して待ち時間が長くなると、高齢者や女性は水分摂取を控えるようになってしまいます。これは尿路感染症の原因となります。避難者の特性にも配慮しながら、20人あたり1つの目安でトイレを設置してください。ポータブルトイレ、オストメイト対応トイレの追加が必要であるかも確認します。

オムツや尿パッドを必要としていても、自分から求めることができない高齢者は多いです。必要かどうかを問いかけるよりも、誰もが自由に持ってゆけるよう、トイレなど人目につかない場所に、オムツや尿パッドを置きましょう。これは女性の生理用品も同様です。

2016年熊本地震で設置された避難所のトイレ(筆者撮影)
2016年熊本地震で設置された避難所のトイレ(筆者撮影)

7)過剰な感染対策とならないように

避難されている方々に対して、漠然と不要な感染対策を求めることのないようにしてください。住民の皆さんは、すでに地震災害への緊張と不安を募らせています。

見えない感染症についての不安は、回避する手段が明確でないだけに大きな負担となりかねません。ここに示した対策の考え方を目安として、あれもこれもとならないよう、適切な支援を宜しくお願いします。

筆者作図
筆者作図

最後に・・・ ボランティアに入る方々へのお願い

各地から集結するボランティアが、被災地に感染症を持ち込んでいる可能性は看過できません。たとえば、避難所のなかでインフルエンザは自然発生しません。必ず誰かが持ち込んでいます。それを極力遮断しなければなりません。

ボランティアの方々は、発熱や咳、下痢などの症状があるときは活動を控え、被災地から速やかに離れてください。困難に耐える被災者を前にして、多少の体調不良であっても支援活動を継続しようとするのは、倫理観の誤った表出です。自らが感染症の媒介者にならないことを最優先として心がけてください。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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