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なぜ、沖縄県では全国に先駆けて夏に流行するのか?

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
国際通りの夏祭り・2022年夏(筆者撮影)

6月以降、沖縄県で急速に拡大してきた新型コロナの流行は、ようやくピークアウトしてきた印象です。定点当たりの受診者数だけでなく、全数報告の新規入院患者数や入院患者数も減少してきました。

しばらく減少基調と信じたいですが、これまで夏休みに入って増えなかったことはありません。今年は、全島エイサー、FIBAワールドカップ・・・ 様々なイベントが予定されており、夏の沖縄を盛り上げるはず。今月末から再流行があるものとして、備えた方がいいと思います。インフルエンザの方が大変になるかもしれませんが・・・。

筆者作図
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夏のイベントを自粛すべきとは考えません。ただ、軽微であっても発熱などの症状がある方は、参加を控えていただければと思います。これに尽きます。高齢者などハイリスク者の方々は、地域の流行状況をみてイベント参加の是非を自分で判断してください。定点当たり10を超えたら、屋内で不特定多数が密集する場所は避けた方が良いかと思います。

なぜ、沖縄県では全国に先駆けて夏に新型コロナが流行するのでしょうか?

何度も聞かれましたが、複合的な理由であって、これというひとつの要因で説明することはできません。ただ、5月の連休明けには暑い夏が訪れて、学校や職場は次々にエアコンが入り始めます。こうして締め切った環境になることで、エアロゾルによる集団感染が発生しやすいことは、沖縄ならではの大きな課題かと思います。

県外からの渡航者が多いことも、やはり沖縄の特徴であろうと考えられます。5月の連休以降、急速に渡航者が増加します。さらに、沖縄の県民性として、高齢者や親戚との付き合いを大切にし、一緒に飲食を楽しむような機会が多いところがあります。平時であれば、とても良いことなのですが、コロナ対策における弱点になっています。

筆者作図
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オミクロン株以降、子どもたちが流行のドライビングフォースになっていることもあります。次の図は、都道府県別にみる15歳未満人口と2022年のコロナ感染者報告数の相関をみたものです。きれいな相関をみますが、沖縄県の15歳未満人口割合は全国でも突出して高く、全国のなかでも特異な人口構成を示しています。臨床現場でも、やはり子供がらみの感染が多く、子どもが多いことは沖縄のポテンシャルですが、コロナに関しては明らかな拡大リスクになっています。

もはや、子どもや若者たちは感染しても受診しなくなっています。ほとんどの場合、軽症で推移していますから当然のことです。また、検査の自己負担が生じていることから、受診しても検査を希望しない若者も増えてきました。こうして流行が捉えにくくなっていますが、実際には、子どもや若者の感染はかなり多いだろうと思います。

筆者作図
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沖縄県におけるワクチン接種率の低さは、そもそも感染防御効果が限定的であることから、もはや流行の主たる要因とは考えません。とくに、現在、日本で流行しているのはXBB系統の変異株が主流と言われていますが、これはワクチンによる免疫を逃避する能力が高いとされています。

ワクチンの最終接種から時間が経ってきていることが影響している可能性はありますが、下図のように沖縄だけに認められる傾向ではありません。なお、沖縄県は全国最低とよく指摘されますが、そもそも若者人口が多いことから、単純に全国と比較することはできません。

ただし、入院予防効果については2ヶ月程度、重症化や死亡を予防する効果は6ヶ月程度、50%以上の効果を維持しているとの報告があります。重症化リスクのある高齢者や基礎疾患を有する方々で、従来型のワクチンしか接種していない方は、オミクロン株対応ワクチン(現行では2価)の接種をお勧めします。

筆者作図
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もうひとつ、2021年以降、沖縄は夏に大きく流行して、冬の流行は小さいという特徴があります。

次の図は、人口動態統計における死亡数を都道府県別に人口10万人当たりで推移をみたものです。都道府県が日毎に発表していた感染症発生動向調査(5月8日終了)では、感染者数は検査アクセスの違いがありますし、死亡数では報告漏れが少なくないことが明らかになっています。もっとも信頼がおける悉皆調査が、死亡診断書に医師が死因としてコロナを挙げている数を集計する人口動態統計です。死亡診断書は確実に出されていますから・・・。

都道府県別の人口動態統計月報は、今年の1月分まで公表されています。これによると、この冬、沖縄県の流行が全国で最も小さかったことが推定されます。このため、現在、自然感染から時間が経っている県民が多く、獲得免疫が低下している人が多いことが、全国と比して流行しやすい理由になっていると考えられます。

筆者作図
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これが本土との気候の違いによるものか・・・ というと、そうでもないように思われます。なぜなら、今年1月の人口当たり死亡数のトップは宮崎県であり、2番目は高知県でした。どちらも早くに暑い夏を経験する地域です。そして、これらの地域は、現在までのところ、夏と冬の二峰性という本土と共通する特徴を示しています。

インフルエンザなどの感染症が季節性を獲得するプロセスとは、集団免疫効果が持続する小康期が生じて、おおむね1年に1回の流行期を認めるようになることです。その意味で、沖縄は季節性を獲得しつつあり、夏の流行が強調されるようになっているのかもしれません。

なお、「季節性=ただの風邪」と漠然と理解している人がいるかもしれませんが、流行に周期性を認めるようになっただけで、ウイルス自体が変化したわけではありません。高齢者や基礎疾患を有する方にとっては、変わらず重症化する恐れのある感染症です。

また、感染した場合の後遺症など長期的な影響については、まだ十分に明らかになっていません。血栓形成など循環器系への影響のほか、糖尿病になりやすくなるなど内分泌系への影響も報告されています。

若い人であっても、この病気について『ただの風邪』と軽視するのは早すぎます。新たな感染症については、謙虚かつ慎重に見極めていく必要があります。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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