Yahoo!ニュース

災害直下における要援護者の支援 台風6号が停滞した沖縄県の経験から

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
台風6号被災時に沖縄市が設置した避難所(宮里大八さん提供)

台風第6号が沖縄本島に直撃し、その影響は甚大でした。我が家でも、停電が計4日間、断水は2日間でした。多くの沖縄県民が台風に慣れているはずですが、このような長期にわたる台風の影響に、明らかに疲弊している様子でした。

長期にわたる停電の影響を深刻に受けた方々もおられました。在宅で人工呼吸器や在宅酸素、吸痰機器を使用している方々、あるいは身体機能の低下した高齢者(とくに独居者)にとって、停電とは、まさに生死に関わる重大な災害となりかねません。

現在、台風7号が日本本土に接近しているようです。以下、沖縄県における要援助者支援の経験と気づかれた課題について紹介します。各市町村での対応策の参考としていただければ幸いです。

市町村ごとに異なっていた要援護者への対応

台風が過ぎ去ったあと、県内の医療・介護関係者と意見を交わしましたが、市町村ごとの要援護者への対応の違いが明らかとなりました。

要援護者の受け入れができるよう、福祉避難所を設置した自治体もありました。沖縄市では、市内の多目的施設である沖縄アリーナを、停電しても非常電源が利用できる避難所として開放。在宅酸素などを必要とする要援護者を誘導していました。

沖縄市の避難所では、在宅酸素を要する要援護者に対してトイレ付個室が準備された(宮里大八さん提供)
沖縄市の避難所では、在宅酸素を要する要援護者に対してトイレ付個室が準備された(宮里大八さん提供)

沖縄市の避難所では、地元企業の協力のもと食事が提供された(宮里大八さん提供)
沖縄市の避難所では、地元企業の協力のもと食事が提供された(宮里大八さん提供)

また、事前に医療機関や介護施設と受け入れ協定を結び、要援護者の避難先を確定させている自治体もありました。たとえば、金武町では、要援護者を個別に登録し、協定を結んでいる福祉施設に避難するよう呼びかけていました。一方、本部町では、在宅酸素を必要とする要援護者への対応について、避難先や発電機の運用などフロー図を作成し、町内の医療機関や消防と共有していました。

速やかに関係機関と共有された要援護者への支援体制(本部町提供)
速やかに関係機関と共有された要援護者への支援体制(本部町提供)

しかし、こうした準備がとれなかった自治体もありました。一部の地域では、各家庭が自ら避難先を探さなければならず、身寄りのない独居高齢者では、ケアマネが避難先の調整に苦労していたそうです。今回の台風では、比較的気温が低かったことが幸いしました。熱中症のリスクがあれば、もっと混乱に拍車がかかったかもしれません。

福祉避難所は早めに開設してほしい

ただ、要援護者を受け入れる福祉避難所を立ち上げた自治体でも、その立ち上げのタイミングが遅かったとの指摘がありました。ケアマネが暴風雨のなか出動し、独居の高齢者を保護して避難所へと連れて行かなければならず、かなり危険な状況だったとの声もありました。

要援護者の避難は、速やかに完了させることが原則です。せっかく立ち上げる福祉避難所ですから、その存在意義を最大限に活かすため、安全に避難ができるよう、より早期の開設を強くお勧めします。

協定施設をしっかり支援してほしい

ある医療機関では、自治体との協定に基づいて、要援護者を外来点滴室で一時的に受け入れたそうです。病院が提供するのは避難場所と非常電源のみとの協定であり、そこに職員を配置する必要はないはずでした。ただ、やっぱり見守りは必要で、おにぎりなど食事の差し入れも必要だったとのこと。

東日本大震災のとき、病院に避難してきた住民に食事を提供せざるをえず、結果として、職員たちが飴玉を舐めながらしのいだという話を思い出しました。食料が限られてきたとき、職員は我慢しなければならなくなります。施設と協定を結ぶ自治体は、単に場所だけで済むとは考えず、食料や水、日用品(オムツ、リネン、石鹸など)、必要に応じて人員も支援できる体制をとっていただければと思います。

さらに、介護施設に支払われる受け入れ費用(市町村負担)に関する設定が、低すぎるとの声もありました。ある自治地では、最も高い要介護5でも1日あたりの費用が9850円とされていたとのこと。食事介助も含めた24時間のケアが必要とされるなか、この金額では看護職員の配置まで手が回らないでしょう。

ある町が設定している使用料単価。これではビジネスホテルと変わらない(提供者は匿名希望)
ある町が設定している使用料単価。これではビジネスホテルと変わらない(提供者は匿名希望)

もちろん、こうした対応をとっていただいていた市町村は、間違いなく先進的でした。ただ、ケアする側も初対面のこともあり、いつも以上に気をつかうことを理解してください。しかも、台風災害のさなかに出勤してくるのです。

こうした要援護者を災害時にサポートする職員に対して、行政からの更なる支援や予算の確保が求められます。これは単に経済的な支援だけでなく、人的資源や研修の充実も含め、総合的なバックアップ体制が必要です。国も市町村をサポートするなどして、相応の予算を割けるようにしていただければと思います。

やむをえず救急受診してくる要援護者たち

事前協定も福祉避難所もない市町村のなかには、要援護者からの問い合わせに対して、「救急車を呼んで、病院に行きなさい」とだけ案内していたところもあったようです。結果として、一時的なケアの提供を求めるレスパイト目的の要援護者が救急外来を次々に訪れるという事態が生じました。

台風の直撃により、土砂災害や交通障害も生じているなか、レスパイトを求める要援護者のために救急車が使われたのは残念なことでした。もちろん、当事者を責めることは絶対にできません。行き場がなければ、救急外来に頼るしか選択肢がなかったでしょう。

やはり、それぞれの市町村は、要援護者の避難に関するプロセスを再確認すべきです。そして、停電や断水といった災害時の状況に応じた避難先を選定し、早期避難を実現させるための方策を計画し、当事者へと周知いただければと思います。

中頭病院では、レスパイト目的の要援護者が集中して受診したため、急遽、院内ホールにベッドを増設した(仲村尚司先生提供)
中頭病院では、レスパイト目的の要援護者が集中して受診したため、急遽、院内ホールにベッドを増設した(仲村尚司先生提供)

なお、今回の台風6号で、沖縄県は、停電により在宅酸素が行えない患者が多発して、災害直下の救急機能が低下することを想定し、沖縄本島南部に「酸素ステーション」を設置しています。こうした市町村による福祉対応をサポートすることも、都道府県には求められていると思います。

求められる、かかりつけ医との連携

災害時、要援護者を受け入れる福祉避難所や介護施設では、利用者の健康状態に対して高度な注意を払わなければなりません。普段のケアを受けている場所とは異なる環境での避難となるため、そのリスクはさらに増大します。日常のケアの詳細や個別の病状を知らない場合、酸素の流量、内服薬の調整になど、医師の指示がなければ、現場に看護師がいたとしても対応できません。

これらの課題に対応するためには、単に避難場所を提供するだけでは不十分です。地区医師会などを通じて、かかりつけ医にも協力いただけるよう申し合わせておいてください。災害直下だからこそ、「何かあれば救急外来へ」という対応にならないよう、地域の受け皿を強化することが大切ですね。

検討してほしいホテルへの避難

災害のたびに、高齢者や妊婦、あるいは乳児を抱えたお母さんが、体育館や公民館の段ボールベッドに寝かされている様子を拝見します。私自身、いくつかの災害支援に入ってきましたが、そのたびに「先進国の災害避難がこれでいいのだろうか?」と疑問を感じてきました。

もちろん、親戚宅への早期避難が一番です。しかし、現実にはその選択が難しい、または選べない方々がおられます。要援護者のなかには、実のところ、ホテルの部屋さえ提供されれば、自立した避難生活を送ることが可能な方も少なくありません。

授乳している母子にとっても、より安心して避難できる環境が求められます。実際、避難所では、乳児がぐずって十分な哺乳ができなかったり、母乳が止まってしまうということも起きています。泣き声が気になってイライラしてしまうといった訴えが聞かれます。

こうした要援護者のためのホテル避難について、もっと真剣に検討されても良いのではないでしょうか? 全額ではなくとも市町村による一部の補助、あるいは観光業界との連携による割引制度などが考えられます。

コロナやインフルエンザの流行下における災害では、とくに考慮いただきたいことです。要援護者の多くが感染症のハイリスク者でもあります。より感染リスクが低くなるよう、安全な避難先を準備いただければと思います。

都道府県は市町村の避難計画の策定支援を

災害時の住民の避難対応は、基本的に市町村の業務となっています。しかし、要援護者への対応については、医療や介護リソースの有効活用を踏まえた、体系的な避難計画が求められるのではないかと思います。

今回、紹介したように、一部の市町村による要援護者支援のグッドプラクティスも増えてきています。これら情報を都道府県としても収集し、共有することで、他の市町村による避難計画がより実効的に運用されるよう支援していただければと思います。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

高山義浩の最近の記事