Yahoo!ニュース

沖縄県はなぜ、学校や事業所における濃厚接触者の特定をやめたのか?

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
沖縄県の公表をもとに筆者作図

3月24日、沖縄県は、オミクロン株に対応した濃厚接触者の特定と行動制限について、新たな考え方を発表しました。

地元紙では、あっさりと「県が濃厚接触者を特定するのをやめた」と報じられており、不安を感じられた方もおられたのではないかと思います。

もう少し丁寧に説明しますと、沖縄県は、濃厚接触者の特定をやめたのではなく、同居家族、医療機関、社会福祉施設に限定したのですね。一方で、一般の事業所、学校、イベントなどでは濃厚接触者を特定することをやめました。

なぜか・・・ 

それは、濃厚接触者の範囲について、「手で触れることの出来る距離で、必要な感染予防策なしで患者と15分以上の接触があった者」(国立感染症研究所:新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領)とする妥当性が、もはや失われているからです。

沖縄県では、今年1月と2月の2か月間に5万人の感染者を診断しましたが、感染者1人あたり5人としても単純計算で25万人もの濃厚接触者に行動制限を課したことになります。しかし、実際に感染者だったケースは、同居家族を除けば、その1割にも満たないのです。

たとえば、1月と2月の2か月間に沖縄県の保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校において、陽性者 470人について濃厚接触者 10,414人を特定して出席停止としましたが、のちに陽性者となったのは340人(3.3%)に過ぎませんでした。あとの10,074人は(偽陰性の可能性はありますが)出席停止の必要のなかった子どもたちだったと考えられます。一方で、濃厚接触者以外から130人の陽性を確認しています。

筆者作図
筆者作図

たしかに、濃厚接触者からの方が陽性者は多いのですが、9割以上が空振りで、それ以外からも陽性者を多数認めるような基準を振りかざし、出席停止を求め続けることが妥当と言えるでしょうか? そして、こうした過剰な人権制限は、社会全体において起きていると考えられます。

だから・・・ 

沖縄県は、事業所や学校における濃厚接触者の特定をやめたのです。なお、同居家族については感染している可能性が極めて高いため、引き続き濃厚接触者として行動制限を求めます。また、医療機関や高齢者施設には、ハイリスクの方々が多数おられるため、引き続き濃厚接触者の特定を行います。

ただし、子どもたちにおいて感染拡大している状況を踏まえて、沖縄県では対策を強化することにしています。このあたり、まったく報道されないのですが・・・

昨年5月から、沖縄県では、学校と学童クラブにおいて1人でも陽性者が発生した場合、クラス全員に対してPCR検査を実施してきました(民間に事業委託)。昨年9月からは、これを保育園・幼稚園に拡大しました。さらに、今年4月からは、学習塾やスポーツクラブなど、子どもたちが集まる場へと実施対象を拡げることにしたのです。

実のところ、頑張って濃厚接触者を特定するよりも、空間を共有していた子どもたち全体に検査を行って、陽性者を特定する方が確実なのです。たしかに偽陽性(既感染者の長期陽性例の紛れ込みなど)の問題はありますが、空振りばかりの濃厚接触者よりはPCR陽性者に行動制限をかける方が妥当です。圧倒的に・・・

沖縄県では、高齢者施設など社会福祉施設において、第2波のときから、このように対応してきました。そして、一定の成果をあげてきました。一般事業所においても、濃厚接触者が特定されなくなったと不安を感じる必要はありません。保健所の判定に頼るよりは、ご自身で検査を受けていただければと思います。

どなたでも不安のある方は、沖縄県が設置している接触者PCR検査センターや民間PCR検査所にて無料でPCR検査を受けることが可能です。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミック対策や地域医療構想の策定支援に従事してきたほか、現在は規制改革推進会議(内閣府)の専門委員として制度改革に取り組んでいる。臨床では、沖縄県立中部病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や終末期の在宅医療に取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

高山義浩の最近の記事