Yahoo!ニュース

ワクチン未接種者へのキャッチアップ 市町村にお願いしたい「あとひと手間」

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:當舎慎悟/アフロ)

新型コロナウイルスのワクチンを接種すると、ウイルスに感染しにくくなります。また、重症化の予防も期待できるためため、とくに高齢者では接種を完了していただければと思います。

ワクチンを接種していたとしても、感染しなくなるわけではありません。このため地域で流行しているときには、マスクを着用したり、手指衛生を心がけたりと、日ごろの感染対策を続けていただくことが必要です。ただし、ワクチンを接種していることにより、こうした対策との相乗効果が得られ、より感染から守られるようになります。

下の図は、沖縄県の29市町村(人口3千人以上)における対象年齢(12歳以上)のワクチン接種率と人口10万人あたり陽性者数(4週間)の散布図です。なお、家庭内感染が集団連鎖した今帰仁村(67.2%, 215)は外れ値となっていて図中には含まれません。

筆者作図
筆者作図

きれいな逆相関を認めており、ワクチン接種率を上げていくことの集団での効果が推定されます。やはり、70%以上の接種率は目指したいところです。ただし、接種率が80%近くになったとしても、石垣市や竹富町のように流行することはあります。ワクチンは流行しにくくするものであって、接種すれば感染しないわけでも、市中で流行しなくなるわけでもないということです。

ところで、沖縄県のワクチン接種率について「全国最低」と指弾する人もいますが、人口構成を考えると他県と単純比較することはできません。沖縄県は高齢化率が全国で最も低く、接種率の低い若者や接種できない小児の人口割合が極端に高いからです。

もちろん、アクティブな若者層が多いということは、それだけコロナが流行しやすいということを意味しています。沖縄県は、いまの接種率に甘んじることなく、他県以上に接種を推進しなければならないでしょう。

さて、ワクチン接種を推進する会議に出ると、しばしば、ワクチンデマへの対応について話題が行きがちです。まあ、たしかに、沖縄県内でも荒唐無稽なデマが飛び交ってますし、それにより不安にさらされている方もいらっしゃると思います。正しい情報を発信していくことは、行政や専門家の責務だと私も思います。

ただ、いろいろと現場の方々の話を聞いたり、私自身の定期外来に通っておられる患者さんのお話を伺っていると、そんなにデマに翻弄されているというより、単にワクチン接種方法についての情報が届いてない方が多いと感じます。

沖縄県の中高年には、「予約が混み合ってるんだったら、打ちたい人にお譲りしましょう」と遠慮される方が少なくありません。で、そのまま時が止まっていたりします。「私の順番はいつ来るのかねぇ?」と、じっと待っているオバアとか・・・。

接種券を大事にしまって、場所が分からなくなっている高齢者・・・ 多いですね。軽度認知症の独居の方とか、そもそも届いた封筒すら開いてません。あと、ふつうに紛失している若者・・・ けっこういます。再発行の方法など、知る由もありません。

このあたりの方々への丁寧なサポートの方が、デマと戦うよりも、よっぽど接種率を上げるのに有効だと私は思います。たとえば、各市町村では、集団接種会場を閉じる前に、最後のひと手間で以下のハガキを送ってみてはどうでしょうか?

〇〇〇〇 様

あなたは新型コロナウイルスワクチンの接種が完了していません。来月は、市町村が実施する集団接種が受けられる最後の機会ですので、希望される方は、以下の日時と場所で接種に来てください。

接種日時: 〇月〇日 午後〇時

接種会場: 〇〇公民館

もし、指定の日時に会場に来ることができない場合には、予約を変更しますので役場にお電話ください。  担当課:098-XXXX-XXXX

持ってくるもの:

   1)接種券(クーポン券)と予診票

   2)保険証、運転免許証など本人確認できるもの

接種券や予診票を紛失している場合には、代わりに、このハガキを持参してください。会場で再発行をいたします。

高齢者は、自ら予約をとっていただくのではなく、役場で日時を指定してあげる方が親切だったりします。「さあ、あなたの順番ですよ」と伝えてあげましょう。都合が合わない方には、個別接種をしている医療機関を紹介いただければと思います。

これだけで、ワクチン接種率がかなり上昇すると思います。そして、流行が抑止され、医療のひっ迫が回避され、少なからず住民の命が救われるはずです。

来年早々にも3回目接種のオペレーションが始まる見通しです。そうなると、市町村では、未接種者へのキャッチアップなど余裕がなくなることでしょう。ですから、これ、いまやるしかありません。

ほんとに大変だと思いますが、この冬に想定される第6波において医療ひっ迫を回避し、緊急事態宣言を出さずに済むように、キャッチアップのための「あとひと手間」、どうぞよろしくお願いします。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

高山義浩の最近の記事