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高齢者施設でコロナ患者のケアを続けるには

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

国内で報告される新型コロナの感染者数は、1月中旬以降、徐々に減少してきています。

ただし、これまでの経験からも、この減少基調となった頃から高齢者施設における集団感染が増えてきます。当初は若者中心に流行していたものが、二次感染、三次感染と重なるほどに高齢者へと移行していくためだと考えられます。

現時点で大切なことは、高齢者への感染をできる限り阻止しながら、真の意味で流行を落ち着けることです。とくに、高齢者施設における集団感染を予防することは、被害を最小化するうえでも重要です。

入院病床が確保できないことから、感染した入居者について施設で療養継続しなければならない状況も増えています。感染者を搬送できたとしても、数人の濃厚接触者について施設内でケアを継続しなければならないことは、しばしば発生しています。

こうした状況にあっても、職員を感染から守り、入居者における感染拡大を防止することが必要です。そこで、高齢者施設において感染者や濃厚接触者のケアを継続するうえで求められるゾーニングの考え方や個人防護具の使用、ケアの感染対策について解説します。

感染対策の期間

確定診断された感染者について、感染対策を実施する期間は、発症から10日間が経過し、かつ症状消失後72時間が経過するまでとしてください。

一方、濃厚接触者と判定された入居者に対しては、最後に濃厚接触があったと考えられる日から14日間が経過するまでとします。なお、PCR検査の結果が陰性だったとしても、感染が否定されたわけではありません。やはり14日目までは濃厚接触者として感染対策を強化する必要があります。

筆者作図
筆者作図

観察のポイント

1日4回の状態確認を行います。濃厚接触者に発熱や咳などの症状を認めたときは、かかりつけ医もしくは保健所に連絡して受診方法について指示を受けてください。

濃厚接触者や感染者において、呼吸苦を訴えている、意識レベルの低下を認める、水分や食事がとれないなど、重症化の兆候を疑うときは、保健所の調整を待たず、救急搬送の要請をするなど速やかな対応を行ってください。

なお、聴診、血圧測定などは行わなくていいです。こうした消毒しにくい器具を使うことは、感染リスクとなりかねません。体温と脈拍、呼吸数、意識状態、食事量、そして顔色の観察で十分です。可能なら、本人専用のパルスオキシメーターを準備してください。

個人防護具の着用

ケアにあたる職員は、サージカルマスクを必ず着用してください。さらに、本人がマスクを着用できない、または食事介助など飛沫をあびる可能性があるときはフェイスシールド(またはアイゴーグル)を着用します。身体密着するケアが想定されるときは、あらかじめガウンを着用するようにしてください。

実際のところは、突発的事態が生じがちなので、最初から、サージカルマスクと手袋、ガウン、フェイスシールド(またはアイゴーグル)を着用してからケアを行うのが一般的です。あと、吸痰など一時的にエアロゾルの発生が疑われる状況では、換気を徹底した環境で行うか、N95マスクを着用します。

なお、入居者ごとに手袋交換ができないのなら、最初から手袋はしない方がいいです。むしろ、腰にポーチを下げて、アルコールを持ち歩き、こまめに手指消毒する方が衛生的だと思います。手の皮膚から感染する心配はないので、素手による接触をことさら怖れる必要はありません。素手であれ、手袋であれ、共通するのは首から上を触れないことです。

一方、サージカルマスクは入居者ごとに交換する必要はありませんが、マスクの表面を手で触ってしまった場合には速やかに手指衛生を行なって、少なくともレッドゾーンを出るときには廃棄してください(再利用しない!)。

ゾーニングの考え方

施設内において、感染者や濃厚接触者のケアを継続するためには、ウイルスによって汚染されている区域(レッドゾーン)と汚染されていない区域(グリーンゾーン)を明確にする必要があります。これは安全にケアを提供するとともに、感染拡大を防止するための基本的な考え方となります。

通常、レッドゾーンは可能な限り狭く設定してください。ここも、あそこも、汚染されるかもと、どうしても広げたくなるところ。でも、感染者や濃厚接触者の居住する室内のみをレッドゾーンとすることが基本形です。廊下や物品置き場まで広くとってしまうと、職員の曝露機会が増えるだけでなく、清掃や消毒の負担が大きくなって疲弊してしまいます。

職員がレッドゾーンに入るときは、あらかじめグリーンゾーンで個人防護具を着用します。すなわち、サージカルマスクやフェイスシールド(またはアイゴーグル)などを着用し、身体密着するケアが想定されるときはガウンを着用するようにしてください。

そして、職員がレッドゾーンから出るときは、レッドゾーン内で個人防護具を脱衣します。その脱衣スペースには、ゴミ箱とアルコールを設置しておき、個人防護具を持ち出さず、手指衛生を行ってからグリーンゾーンへと戻るようにしましょう。

なお、この脱衣スペースへと入居者が入らないようにエリア設定できるのでしたら、中間的なイエローゾーンとすることもできます。ただ、この位置づけは曖昧となりやすく、感染対策が混乱する原因となりかねません。このため、ゾーニングに慣れていない高齢者施設において、イエローゾーンを設定することは推奨しません。

フロア全体をレッドゾーンとする場合

ひとつのフロアに感染者や濃厚接触者が集中していて、かつ働ける職員が限られていると、訪室ごとに感染防護具を変更することが困難になっていきます。あるいは、認知症の状態などで、入居者が廊下まで出てくることが避けられない場合もあるでしょう。そんなときは、廊下や浴室、トイレを含めて、職員が待機するスペースを除くフロア全体をレッドゾーンとすることも考えられます。

人手が確保できず、食事のときだけは、デイルームで食べていただくしかない状況もあります。そのときは、入居者は互いに2メートル以上の距離をあけて座っていただきます。あるいはパーティションを設置してください。座る場所は必ず固定して、毎回、自由に座らせないようにしましょう。認知症の方などに理解を促すため、大きく名札を張っておくのもひとつの方法です。そして、十分に換気をして、帰室後は速やかに触れた場所を消毒する必要があります。

あと、細かいことですが、デイルームでティッシュボックスが共用とならないように注意してください。これ、しばしば見かけます。こちらも本人専用として名前を書いておいた方がいいです。新聞、雑誌についても回し読みにならないようにしてください。まあ、「余計なものは片付ける」の原則です。

そして、できるだけ帰室を促すことが基本です。廊下にベンチがあったり、デイルームに椅子があったりすると、そこで入居者がくつろいでしまうので撤去しましょう。また、トイレや部屋の入口に"のれん"が掛かっている施設も多いですが、これらも汚染されやすい物品なので外してください。

なお、フロア全体をレッドゾーンとするにしても、職員が記録をしたり、休憩したりするエリアは必ずグリーンゾーンとします。レッドゾーンとは、常に緊張感をもって行動すべきエリアです。そこで休息をとることはできません。メリハリをつけることも感染対策では重要です。

入居者の個室でのケア

濃厚接触者や感染者は、できるだけ個室で療養いただくのが原則です。個室が確保できないときは、ベッド周囲のカーテンを閉める、他の入居者とのあいだに衝立を置くなどの飛沫感染予防を行ってください。やむを得ず室外に出るときは、マスク着用と手指衛生の徹底を求めてください。

部屋のドアは閉めておき、屋外への風の流れがあるときを選んで換気します。部屋に換気扇がある場合には、常時、回しておくようにします。加えて、ケアに入るときは、寒冷に配慮しつつ、できるだけ窓を開けましょう。

食事は個室内でとっていただきますが、介助を要するときは、本人がマスクを着用しておらず、飛沫感染対策を徹底しなければなりません。十分な換気のもとで、できるだけ前面に立たずに、側方からの介助を心がけてください。換気効率を上げるため、扇風機を外に向かって回しておく方法もあります。エアロゾルが拡散するので、扇風機からの風を感染者に直接あてないようにしてください。換気扇のように吸い出すイメージです。

室内における濃厚接触者の食事介助 ~屋外に向けて扇風機を回している(訓練・筆者撮影)
室内における濃厚接触者の食事介助 ~屋外に向けて扇風機を回している(訓練・筆者撮影)

なお、室内の消毒を頻回にする必要はありません。むしろ、消毒のためだけに出入りすることは避けてください。入居者がそこで暮らしている限り、すべてが汚染されています。もちろん、微生物学的な意味で・・・ ですよ。ともかく、本人専用の部屋である限り、そこを消毒する意味はありません。

あと、室内にノートやペン、聴診器など物品を持ち込まないでください。そして、何も持ち出さないでください(紙一枚でも!)。すべてが汚染されています。

トイレや風呂場を共用するとき

廊下をグリーンゾーンと設定していても、ときにトイレや入浴のために感染者や濃厚接触者が通過することはありえます。厳密には、グリーンゾーンを通過してはならないのですが、施設の構造上、仕方のないことはあります。

トイレに関しては、ポータブルトイレを室内に設置して、室外のトイレを使用しないことが一番良いのですが、本人の理解が得られないといった事情があるときは、その都度、ガウンを着用した職員が誘導しながらグリーンゾーンを歩かせてください(または車椅子で誘導)。その場合、床を除いた本人の接触面を直後に消毒することが必要になります。

入浴についても同様です。できるだけ、室内での身体清拭としますが、体を洗って差し上げないといけないときはあると思います。そのようなときは、グリーンゾーンを通過させて入浴させ、その後、速やかに廊下の手すりや浴室内の消毒を行うことでもゾーニングは維持されます。

なお、使用したタオルを放置しては絶対ダメです。そして、他の入居者とは別に洗濯するようにしましょう。洗濯自体でリスクが生じるわけではないのですが、洗濯カゴなどが交差することで、ウイルスが付着するのを防ぐのが目的です。なお、洗剤を用いて洗濯した後であれば、他の入居者が使用することは可能です。

おわりに

以上、高齢者施設における感染対策について、よくアドバイスさせていただく内容をもとに紹介いたしました。それぞれの施設における医療資源や人員配置には違いがありますので、あくまで目安としていただいて、施設ごとの状況に応じて具体的な対応を検討していただければと思います。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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