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新型コロナウイルス感染症に配慮した避難所の考え方

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

台風第9号は、8月31日から9月2日にかけて非常に強い勢力で沖縄から九州地方へと接近する見込みです。その一方で、いまだ市中での新型コロナウイルスの流行が続いています。

台風による避難所が設置される地域もあると考えられます。こうした場所では、避難した住民が密集しがちとなり、強風を防ぐため密閉しがちであり、新型コロナウイルスの感染リスクが高くなると考えられます。できるだけスペースを確保して密集を避けるとともに、少しでも換気をしながら衛生対策を徹底するようにしてください。

一番の感染対策は分散して避難することです。とくに高齢の避難者については、ホテル等の宿泊施設を提供するように市町村では検討してください。あるいは、親類の家などへの早期避難を勧めておき、避難所内で高齢者が密集して過ごすことがないようにすることも考えましょう。

なお、濃厚接触者や体調不良者、新型コロナウイルスに感染して自宅療養している方については、それぞれ避難場所が別に設置されている市町村もあります。該当する方は、事前に市町村役場へ確認してから避難するようにしてください。

避難所を訪れる住民の皆さんへ

1) 避難所に行くときはマスクを持参し、避難所内ではマスクを着用して過ごしてください。また、食事前、トイレ後、オムツ交換後、咳やくしゃみを手で覆ってしまった後、ゴミの処理後など、こまめに手指衛生(手洗い、アルコール消毒)を行い、咳エチケットを心掛けるなど、基本的な感染対策を行いましょう。なお、各世帯のゴミは世帯ごとに保管し持ち帰るようにしてください。

2) 避難所に行くときは体温計を持参し、避難所内では1日2回(朝と夕)は体温測定をしてください。37.5℃以上の発熱を認めたときは速やかに運営スタッフに申し出てください。

3) 避難所内では、できるだけ世帯ごとに遮蔽したエリアを確保してください。遮蔽できる資材がない場合には、他の世帯とは十分な距離(少なくとも2メートル以上)をとって過ごせるようにしてください。食事をとるときも、世帯単位として、他の世帯と一緒に食事をとることがないようにしてください。

4) 発熱や咳などの症状がある方は、避難所に到着したときに運営スタッフに申し出てください。また、避難所で過ごしているあいだに体調の変化に気づかれたときも、速やかに申し出るようにしてください。

5) 2週間以内に新型コロナウイルスの感染者と接触したことがある方、または保健所から濃厚接触者として健康観察を受けている方は、運営スタッフに申し出てください。

避難所を運営するスタッフの皆さんへ

1) 避難して来られる住民のなかで、マスクを持参されなかった方のため、あらかじめマスクを準備しておきましょう。そして、避難所内ではマスクを着用するように呼び掛けてください。もしマスクを着用することが困難な方がいらっしゃる世帯には、可能であれば、避難所内の個室を提供してください。

2) 避難所内の入り口、トイレ、その他の共用スペースに、手指消毒用のアルコールを設置してください。食事後、トイレ後、オムツ交換後、咳やくしゃみを手で覆ってしまった後、ゴミの処理後など、こまめな手指衛生を避難者の方々に呼びかけてください。

3) 避難所内で住民が共用して触る場所(手すり、ドアノブ、手洗い場など)を定期的に清掃してください。アルコールや抗ウイルス作用のある消毒剤含有のクロスを用いて、1日3回以上の清掃・消毒を行います。清掃の際にはマスク、手袋、ゴーグル(またはフェイスシールド)、エプロンを装着し、作業後は確実に手指消毒を行ってください。

4) 各世帯のゴミは、原則として世帯ごとに保管して持ち帰るように指導してください。廃棄するボックスを準備する場合には、取り扱うスタッフは、マスク、手袋、ゴーグル(またはフェイスシールド)、エプロンを装着し、作業後は確実に手指消毒を行ってください。

5) 避難所内の換気を定期的に行い、少しだけでも良いので避難スペースに外からの風が流れ込むようにしましょう。少なくとも、完全に密閉することがないようにすることが大切です。風の流れが作れなかったときのため、換気用の扇風機も準備しておくことを検討してください。

6) 避難所内では、世帯ごとに十分な距離(少なくとも2メートル以上)がとれるように場所を確保してください。養生テープなどを用意して、世帯ごとの占有スペースを明示することも検討してください。高齢者のいる世帯は、できるだけ風上(風が流れ込む場所)にて過ごしていただきます。食事をとるときも、世帯単位として、他の世帯と一緒に食事をとることがないように呼び掛けてください。

7) 発熱や咳などの症状がある方がいたときは、できるだけ個室にて過ごしていただくようにしてください。マスクを常に着用いただくことも必要です。トイレも専用とすることが望ましいですが、困難な場合には手洗いを徹底いただき、使用後の消毒をスタッフが行ってください。個室が確保できない場合には、避難所内の換気の状態を確認し、できるだけ風下(風が流れ出る場所)にて過ごしていただきます。また、あらかじめ透明シート等を準備しておき、周囲との間仕切りとして設置することも検討してください。

8) 2週間以内に新型コロナウイルスの感染者と接触したことがある方、または保健所から濃厚接触者として健康観察を受けている方が避難してきた場合についても、症状を有する方と同様の対応をとります。

9) 症状を有する方や濃厚接触者への対応が生じる可能性があるため、運営スタッフのため手袋、サージカルマスク、ガウン、フェイスシールドを準備しておきましょう。また、自分自身の体温測定と持参しなかった避難者のため、体温計(あれば非接触型が望ましい)を複数準備しておくことも必要です。

10) 住民の方々に対して、漠然と不要な感染対策を求めることのないようにしてください。避難している住民の皆さんは、すでに台風災害への緊張と不安を募らせています。見えない感染症についての不安は回避する手段が明確でないだけに、大きな負担となりかねません。ここに示した対策を目安として、住民の皆さんの支援を宜しくお願いします。

※ 7)8)に示した問題が発生したときは、現場だけで判断せず、市町村の保健師など専門職に相談することをお勧めします。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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