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ギャンブルは本当に「怠惰浪費の弊風」を生むのか?

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

我々ギャンブル業界では超有名人の、ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さんが、現代ビジネスのweb版において興味深い論を展開しております。以下、転載。

大麻は本当にダメなのか? 日本人は「思考停止状態」から抜け出せるか

https://news.yahoo.co.jp/articles/8ca58aac9f80015ea29686ddc6a9268db4acf41a

「違法だからダメ」という思考停止状態

大麻はご存知の通り、カナダのように合法化している国、ポルトガルのように非犯罪化をしている国、オーストラリアのように交通違反と同じく罰金制度にしている国など先進諸国では犯罪としてすら扱われていないところも多い。アメリカでは州によって制度が違うが、30州で医療大麻が、11州で嗜好用大麻が解禁されている。日本だけが大麻所持で仕事も、時には住まいさえ追われるような大騒ぎとなり、捜査のために何日も勾留されるという非人道的なことがまかり通っているのである。[…]

これまでの政策そして世界の取り組みをみてきてもお分かりのように、薬物を根絶することなど無理な話なのだ。中国の様に死刑まであるという厳罰化をすすめても、決してなくなりはしないのである。だとしたら違法薬物の「害」を減らすしかない。その最大の「害」が国内外に流れる反社会勢力への資金だ。[…]

今、社会に求められているのは「違法なものに手を出す人は道徳的に許さない」という精神論よりも、「社会的コストが抑えられ、かつ一人一人が安全に幸せに暮らせる」という具体的な政策ではないだろうか。どちらが得なのか? この事件をきっかけに一般社会もメディアも真剣に考えてほしいと思う。

俳優・伊勢谷友介さんの麻薬所持による逮捕をキッカケに、大麻の非違法化論を展開する田中紀子さん。元々、ギャンブル依存問題を専門とする彼女でありますが、最近では薬物・アルコールなど幅広く依存に関連する問題にその活躍の場を広げられております。

私自身は大麻吸引が人体に与える影響に関する科学的知見の真偽が未だ見極められていないので、大麻の非違法化論に対しては今のところ「論議くらいはしても良いんじゃない?」程度の緩やかな支持程度のスタンスなのですが、一方で上記で田中紀子さんが仰っている「論法」というのは私の専門、そして彼女も専門である「ギャンブル」に関しても同じでありまして。。

我が国では刑法185条によって賭博が禁止されておりまして、その保護法益(法が実現しようとしている利益)は;

賭博行為は、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎をなす勤労の美風を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強盗罪その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれすらある

(最大判昭和25年11月22日刑集4巻11号2380頁)

を根拠として「我が国の社会風俗を守ること」とされております。勿論、伝統的な我が国における考え方では「賭博行為は、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ」るものとされて来た事は否定しませんが、じゃあそれが「科学的に見て本当に正しいのか」というと実は誰もそれを論証しているわけではありませんで、世の中には賭博好きの勤労者というのは沢山存在しているわけです。

そもそも、本当に賭博行為が国民の怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、勤労の美風を害するのだとすれば、ギャンブルを寧ろ自国文化の中で発展させ、日本よりも更に広く国民のギャンブルを認めているイギリスは怠惰かつ勤労の美風が害された国であるはずですが、むしろそんなイギリスでギャンブル文化が最も華やかに花開いた18-19世紀において、かの国は産業革命を起こし、世界を席巻していたわけで、イギリスの歴史そのものがギャンブルと怠惰浪費の弊風が必ずしもイコールで結ばれていないことの証左であると言って良いでしょう。

そして、冒頭でご紹介した記事内で田中紀子さんが論ずる通り;

・薬物を根絶することなど無理な話なのだ。中国の様に死刑まであるという厳罰化をすすめても、決してなくなりはしないのである。だとしたら違法薬物の「害」を減らすしかない。その最大の「害」が国内外に流れる反社会勢力への資金だ。

・今、社会に求められているのは「違法なものに手を出す人は道徳的に許さない」という精神論よりも、「社会的コストが抑えられ、かつ一人一人が安全に幸せに暮らせる」という具体的な政策ではないだろうか。

ここに言われるのは薬物のみに留まらず、まさに賭博に関しても全く同様に当てはまる論議であるわけであります。それ故に我が国では、伝統的には公営競技を始めとして、パチンコ、宝くじ、totoくじと様々な「客の射幸心をそそるサービス」というのを合法としてきたワケで、2018年の法の成立によって既に決着が付いたはずの我が国のカジノ合法化と統合型リゾートの導入に対して、未だヒステリックに悲鳴を挙げている人のスタンスが私にはよくわからんワケです。ましてや、彼らはご自身達が政権を持ってた時代には、担当となる行政改革担当大臣(当時は蓮舫氏)の元でカジノ合法化の検討を行い、法案提出の準備までしていたワケですから。

【参考】カジノは政権との対立軸 立憲・枝野氏

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020090901116&g=pol

立憲民主党の枝野幸男代表は9日、横浜市がカジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致している横浜港の山下埠頭(ふとう)を視察した。この後、記者団に「トップダウンの政治と草の根の声に寄り添う政治の明確な対立軸の象徴がカジノ問題だ」と述べ、IR計画の阻止に全力を挙げる考えを示した。

もっと言えば私の立場からすれば、我が国の刑法第185条の定めている単純賭博罪そのものが、「国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎をなす勤労の美風を害する」などという根拠不明のただの「通説」によって定められた罪であって、もはや現代社会に即していない規定であると考えているほど。日本の賭博統制は、そろそろそれを禁ずるのではなく、それを社会全体で適切にコントロールする方向にその在り方を変えて行くべきなのではないかな、と思う所。まさに、田中紀子さんが仰るところの、「今、社会に求められているのは『違法なものに手を出す人は道徳的に許さない』という精神論よりも、『社会的コストが抑えられ、かつ一人一人が安全に幸せに暮らせる』という具体的な政策ではないだろうか」であります。

っていうか田中紀子さん、なんだか最近は大麻解禁の急先鋒かの様なメッセージをアチコチのメディアで発信されているのをお見掛けするのですが、貴殿の本来のご専門であるギャンブルに対しても同様のスタンスと熱量をもって意見の発露を行って頂ければ、我々としては大変心強いのですが? 田中紀子さんの今後のご活躍を心よりお祈りする次第です。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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