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カジノ面積規制を巡る混乱は誰の責任なのか?

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

朝日新聞が以下のような見出しで、現在、国会で審議の真っ只中であるIR整備法案を批判しています。

カジノ法案、論点山積 面積規制、相対値のみ

https://www.asahi.com/articles/DA3S13539141.html

今国会の重要法案の一つ、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案をめぐって、野党6党・会派が13日、内閣官房に対する合同ヒアリングを国会内で実施した。与野党の国会攻防が山場を迎えているが、論点は多岐にわたり、議論が尽くされたとは言いがたい状況が浮かんだ。 カジノをテーマにした野党合同ヒアリングの実施は初めて。まず議論になったのが、カジノ面積の規制だった。

ゲームのテーブル台やスロットマシンを置ける「ゲーミング区域」の面積制限について、政府は法案に「政令で定める」と記しつつ、具体的な基準を「IR施設の延べ床面積の3%まで」とする方針を示している。

野党はその基準の「緩さ」を問題視した。昨年夏に政府の有識者会議がまとめたIR制度の提言は「カジノ施設が無制限に広がることは容認すべきではない」として、面積制限を「絶対値」でも定めるべきだと指摘した。IR施設全体に占める割合という相対値だけだと、IR施設を大きくすれば、それだけ巨大なカジノが設置できるからだ。

野党の「攻め手」として、法案上程前にその内容が二転三転したカジノの面積規制に関する論議がクローズアップされています。統合型リゾートの一部を構成するカジノ施設の「規模」を如何に統制すべきかという論点ですが、実は現在のIR整備法案が上程されるまでの間、この点に関しては相当の紆余曲折があり、「間違いに間違いを重ねた」結果出てきたのが今の制度案の形であるのが実態。本稿では、現在論点になっているこの面積規制に関するこれまでの論議経緯をまとめてゆきたいと思います。

1. モデルとなったのはシンガポールのカジノ面積規制

我が国がカジノの面積規制に関して当初のころから参照をしてきたのは、シンガポールの統合型リゾート法制です。シンガポールでは2005年のカジノ合法化にあたり、統合型リゾートがカジノのみならず、その他の様々な観光施設と共に十分に複合開発される為に当初2つの規制を検討していました。一つがカジノのフロア面積を総開発面積の5%以内に制限する規定、もう一つがカジノの売上を施設全体売上の50%以内に制限する規制(制限を越えた場合は追徴課税)です。シンガポールはこの規制案をもってIR開発を専門とする関係各社にヒアリングをかけたわけですが「収益力の高いカジノの売上をもって施設全体の事業採算性を合わせる」という統合型リゾートのビジネスモデル上、カジノ売上に制限を設けることは難しいとの意見が業界側から出され、結果としてカジノフロアの面積上限だけが規制として残ることになりました。

但し、都市国家であり自治体という概念のないシンガポールでは、国は直接、統合型リゾートの開発エリアを指定する主体でもあります。シンガポール政府は都心部に隣接する埋立地域(マリーナベイ)と、シンガポール最大のリゾート島(セントーサ)の2地域をIRの開発エリアとして指定をしたわけですが、開発エリアが事前に判るのであればその敷地面積と法定容積率から凡その全体開発規模は出せます。シンガポール政府はマリーナベイとセントーサの両開発エリアのうち、想定される開発の総床面積が小さくなるセントーサの開発予定区域を基準に15000平米という「絶対値」でカジノフロアの上限を法律上定めました。結果的に、各開発に占めるカジノフロアの全体施設規模に占める比率はセントーサの開発が4.4%、マリーナベイの開発が2.5%程度になった、というのがシンガポールにおける当時のカジノ面積制限論の議経緯であります。

2.間違って広がったシンガポールの面積規制

ところが、このシンガポールのカジノ面積規制が主にカジノ推進派のグループの間で大きく間違った形で広がることとなります。その発端となったのが、シンガポールのマリーナベイ地区でIR開発を行ったラスベガスサンズ社(以下LVS社)によるロビー活動にありました。LVS社は、我が国のカジノ合法化検討の当初のころから最も活発に日本に対してロビーを行ってきたIR開発事業者であるわけですが、彼らは自社の開発実績をアピールするにあたって「シンガポールで開発を行なった我々の施設ではカジノ面積が全体の3%以下であり、その殆どはカジノ以外の観光施設である」と統合型リゾートの魅力を方々でプレゼンして廻ったわけです。

実際、LVS社がマリーナベイ地区で行ったIR開発はカジノフロアが全体開発面積の2.5%ですから、彼らが行なったプレゼン自体は事実を在りのまま語ったものであり、問題があるわけではありません。問題はこのような彼等のアピールを「受け止めた」側の者達にあったわけですが、日本のカジノに関連するグループの方々はこれを「シンガポール政府はカジノフロア面積を全体の3%に規制している」と勘違いし、それが日本で一気に広まってしまったのです。

その象徴となるのが、2016年12月にIR推進法が審議されたときの以下のような質疑および答弁です。

○佐藤(茂)委員 ちょっと通告をしていないので、今まさに岩屋先生の答弁の中にありましたが、シンガポールは法律で三%以内、全面積の比でいくと、そういう規定をされているわけですが、これからこの推進法が通った後の第二段階の実施法の議論にもなろうかと思いますけれども、日本もやはりそういう意味でいうと、IRの中におけるカジノの占める広さの制限というんですかね、そういうものについてはどのように考えておられるか、提案者として答弁いただければありがたいと思います。

○岩屋議員 具体的な規定は、これから政府がつくる実施法の中で規定をしていくということになるわけでございますが、先ほど紹介をさせていただいたシンガポールの事例などは大いに参考になるというふうに思っておりまして、やはり複合型、統合型観光施設というからには、ゲーミング場の比率というのは一定程度以内に制限されてしかるべきだというふうに考えております。

(出所:衆院内閣委員会 平成28年11月30日)

繰り返しになりますが、シンガポールのカジノ面積規制は全体開発面積の「5%」を基準としてそもそも論議が始まり、最終的には想定される総開発面積を下に15000平米を上限とする絶対値で規制が作られ、結果的に2つのIRにおけるカジノ面積比は全体の4.4%(セントーサ)、および2.5%(マリーナベイ)となったわけです。ところがそれが日本では、何故か3%以下(2.5%)という片方のIRにおける実際のカジノ面積比だけが取り上げられ、国会の委員会の公式の答弁の場で「シンガポールでは法律で(カジノ面積を)3%以内に規定されている」などと間違った形で伝えられ、そのシンガポールの事例を参考にしながら我が国もカジノフロアの面積比率制限をすべきだという論が主張されてしまったわけです。

3.まだまだ続く日本の不幸

ここまでで十分「ナンジャソリャ」の世界なわけですが、日本のカジノ規制の不幸はまだまだ続きます。今度は役所サイドの暴走です。2016年12月に成立したIR推進法審議の中では、上記のように「比率による」カジノ面積規制が提案されていたわけですが、この論議を受けた役所側は比率ではなく、具体的な平米数による「絶対値」規制の制定を画策し始めます。

IR推進法の成立を受けて内閣官房内に設置されたIR推進本部は、我が国のIR整備に関する諮問機関としてIR推進会議を設置。2017年から4月から7月まで行われた会議の取りまとめとして、以下のような主張を発表します。以下、IR推進会議とりまとめ資料より。

附帯決議第3項では、「特定複合観光施設全体に占めるカジノ施設の規模に上限等を設ける」こととされており、カジノ施設が IR 施設の一部であることを前提としている。

また、依存症予防等の観点から、区域の数を少数に限る旨の附帯決議が付されていることを踏まえると、IR 施設全体の大きさに比例してカジノ施設が無制限に広がることも容認すべきではないことから、相対的な位置付けのみではなく、上限値(絶対値)でもカジノ施設の面積の規制を設けるべきである。

(出所:特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ)

上記取りまとめの文面では、あたかも「IR推進法の付帯決議を受けて絶対値が必要とされた」かのように表現していますが、IR推進法の付帯決議の該当部分の実際の記載は以下のようなもの。

三. 特定複合観光施設については、国際的・全国的な視点から、真に観光及び地域経済の振興の効果を十分に発揮できる規模のものとし、その際、特定複合観光施設全体に占めるカジノ施設の規模に上限等を設けるとともに、あくまで一体としての特定複合観光施設区域の整備が主眼であることを明確にすること。

四. 特定複合観光施設区域の数については、我が国の特定複合観光施設としての国際的競争力の観点及びギャンブル等依存症予防等の観点から、厳格に少数に限ることとし、区域認定数の上限を法定すること。

(出所:IR推進法付帯決議)

「カジノ施設の規模の上限」に対して直接言及している第三項の記述は、「あくまで一体としての特定複合観光施設区域の整備が主眼であることを明確にする」と併記されたものであり、これは全体面積に対する比率による制限に言及したものです。また「IR推進会議取りまとめ」が引用している「依存症予防等の観点から、区域の数を少数に限る」という第四項の記述も、あくまで「施設区域の数」に言及したものであって、そこには絶対値による面積規制なんて主張は一切含まれていません。

ところが、IR推進本部はこの国会による付帯決議の意味する所を大きく捻じ曲げ「依存症予防等の観点から、区域の数を少数に限る旨の附帯決議が付されていることを踏まえると、IR 施設全体の大きさに比例してカジノ施設が無制限に広がることも容認すべきではない」などという謎解釈を展開し、IR推進会議に絶対値規制の必要性を主張「させた」のです。

4. ナンセンスすぎる絶対値規制に異論噴出

元々の国会の議決にはないカジノ面積の絶対値規制を画策したIR推進本部は、その後、日本のカジノ面積規制はシンガポールに倣って15000平米の上限規定を設けるべきとの主張を展開しはじめるワケですが、この規制案にはあまりにもナンセンスすぎるとして関係各所から異論が噴出します。第一に先述したシンガポールにおけるカジノ面積規制は結果として15000平米という具体的な数値となりましたが、そもそもそれは「全体施設面積の5%以内にカジノ面積を抑えるべし」という比率での規制論を元に、算出されたものであって15000平米という具体的な数字に特別な意味があったワケではないこと。

第二に、都市国家であり、自治体という概念がない故に国が直接開発区域の指定を行ったシンガポールと異なり、日本のIR法制においては自治体が施設開発区域を定める仕組みであり、現時点で国は日本のIRがどのような規模になるのかについて一切の情報を持ち合わせていない。すなわち15000平米という面積が、全体施設面積に対して相対的に大きいのか、小さいのか何も材料がないまま、絶対値として面積上限を決することに意味が見いだせないこと。

第三に、そもそも人口560万人の都市国家のシンガポールと、1億2千万人の人口を有する日本では統合型リゾートの設置環境が全く異なる中で、ただ単純に「シンガポールに倣って」という根拠で15000平米という数字だけを右から左に模倣することに何の意味があるのか全く根拠が不明であること。

第四に、投資回収の必要のない公共投資ならいざ知らず、投資回収を前提とする民間施設開発では自ずと開発規模の上限が出て来るもの。役所側の主張する「IR 施設全体の大きさに比例してカジノ施設が無制限に広がる」などという状況自体が現実的には起こり得ないナンセンスな主張であるということ。

以上の様に正直、役所側の主張した15000平米の絶対値制限などというもの自体がナンセンス中のナンセンスであったわけで、これが実際の法制案として与党側の政策検討チームに持ち込まれた際にメタメタに否定された挙句、役所側が画策しIR推進会議に「必要だ」と作文させた絶対値規制案は差し戻され、当初予定していた面積比率規制のみを付加することに結論付けられたのでありました。

5. 多くの間違いが積み上げられたことが現在の混乱を生む

この様にして我が国のカジノ面積規制は間違いに間違いを積み上げられた挙句、今まさにIR整備法案を巡る大きな混乱の一要因となっているのが実態です。冒頭にご紹介した朝日新聞の報道の通り、現在本法案に反対する野党はこのカジノ面積規制を巡る変遷を反対論の「切り口」の筆頭として挙げているところ。彼らの主張に基づけば「IR推進会議が『必要だ』と結論付けた絶対値によるカジノ面積規制が、与党内での法案論議の中で骨抜きにされた」との主張であるわけです。しかし、ここまでまとめて来た通り:

1. IR推進法の成立時に国会で議決された付帯事項には「比率制限を検討すべき」との規定はあったが、絶対値による規定などは存在しないこと。

2. そもそも上記論議で参考とされたシンガポールでのカジノ面積規制は比率上限として論議が行われてきたものであり、最終的に15000平米という絶対値での規制となったのは自治体という概念が存在しない都市国家であるシンガポールの特有の事情から生まれたものであること。

3. 役所側がIR推進会議に作文させた「絶対値規制が必要」とする主張自体が、IR推進法付帯決議を曲解してムリクリだされてきたものであり、またその後役所側が主張した「シンガポールに倣って15000平米上限とすべき」とする主張自体がナンセンスすぎる主張であったこと。

4. 紆余曲折の結果、改めて定められた「全体施設面積の3%」とする日本のカジノ面積の上限規制は、シンガポールにおける5%上限よりも更に厳しい規制であり、結果的に実は十分「世界最高水準に厳格な規制」であるということ。

…とあらゆる面で「拗れに拗れまくっている」ワケです。そして、あろうことがこの混乱を生み出した張本人であるIR推進本部とその下に設置されたIR推進会議の面々は、野党の追及に対して今頃になってこんなことを言い始めているワケです。例えば、6月13日に国会で開催されたIR整備法案に対する野党ヒアリングに際して、しんぶん赤旗は以下の様なIR推進本部のコメントを報じています。

カジノ法案問題点次々 野党合同ヒアリング

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-14/2018061402_03_1.html

日本共産党の塩川鉄也衆院議員が、政府のIR推進会議が依存症対策として示していたカジノ面積の絶対値(上限値)での規制が法案から削除された経緯をただしたのに対し、中川真同本部事務局次長は「与党プロジェクトチームの議論を経たもの」と答え、与党の検討の過程で消えたことが明確になりました。

(出所:しんぶん赤旗2018.06.14

IR推進本部側が起案した15000平米の絶対値規制が差し戻しとなったのは、与党プロジェクトチーム内での論議の結果であったのは事実でありますが、そもそもその規制案自体が2016年12月に成立したIR整備法の付帯決議を役所側が曲解した結果出て来たものであって、それが差し戻されるのは当たり前。それを政治の「せい」にするのは、上記の全体経緯から考えるとムチャクチャな主張であります。一方、IR推進本部の下で「絶対値規制が必要だ」という作文を行ったIR推進会議はというと、そのメンバーの一人である大阪商業大学の美原教授が先月末に行われた国会への参考人招致において以下のような発言を行い始めています。

衆議院内閣委員会

阿部知子議員(立憲):

今回全体の広大なIR施設の3%という風にして、あえて言えば絶対値で、例えば1.5万平米とか、例えばヘクタールで1.5ヘクタールとかこういう面積規制をこの法案では設けておりません。それは今先生が仰った通り、広大なものを作ってカジノ施設も大きくして、ちなみに先生は良くご存じでしょう、シンガポールでは相対的なパーセンテージだけではなくて、絶対的な面積規定も伴っております。それをあえて取らないのか?壮大にするために。そこは如何お考えでしょう?

美原融(大阪商業大学教授):

カジノ面積の規制に関しては様々な意見があるのはご指摘の通りだと思います。ただ、パーセンテージ規制のみに規制するというのは政治的なご判断という風に聞いておりますので、果たしてどういう背景でこういう形になったのか審議の過程では2つの考え方があるとともに、各々にメリットデメリットがあるというように、こういう議論をしたのは間違いございません。

但し、パーセント規制のみであっても、そんなに単純ではございません。大きな施設を作ろうと思えば思うほど、巨額な資金投資が必要になってきますし、その投資コストの回収ということもすべての前提になることで御座いますから、無制限にカジノ面積が大きくなる事はまず有り得ず、経済性の観点からどこかで自然に上限という数字が決まってきて、その枠内においてバランスよく整備を考えるというのが期待されている考えではないか、こういう風に考えます。

ここで、昨年この美原融氏らが取りまとめたIR推進会議の報告書の記述を改めて見てみましょう。

附帯決議第3項では、「特定複合観光施設全体に占めるカジノ施設の規模に上限等を設ける」こととされており、カジノ施設が IR 施設の一部であることを前提としている。

また、依存症予防等の観点から、区域の数を少数に限る旨の附帯決議が付されていることを踏まえると、IR 施設全体の大きさに比例してカジノ施設が無制限に広がることも容認すべきではないことから、相対的な位置付けのみではなく、上限値(絶対値)でもカジノ施設の面積の規制を設けるべきである。

(出所:特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ)

ということで、正直、どの口で「無制限にカジノ規模が大きくなることはあり得ない」なんてご高説を今更のように垂れてんのかとしか思わんワケですが、一連のカジノ面積規制を巡る混乱を生じさせた一番の当事者達が「すべては政治のせい」としてケツをまくり始めている中で、この状況を誰がどう収集付け、責任をとるのでしょうか。私の立場からは、少なくとも本件に関して糾弾されるべきは政治サイドではない、ということだけは明確にしておきたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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