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子供向けの競馬レクチャー、批判されて然るべき

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さんが、先日NHKが番組内で報じた「JRAによる競馬レクチャー」に対して壮大な批判を展開し、それを見た競馬関係者やファンの間で微妙な空気が流れ始めています。

小学生に競馬予想!? NHK「おはよう日本」不見識ぶり--- 田中 紀子

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180514-00010007-agora-soci

昨日2018年5月12日に放映された、NHK「おはよう日本」の放送がおかしい!と、視聴者から当会に意見が寄せられ、慌てて番組を確認したところ、確かに仰天してしまう内容でした。

小学生が、大人たちに混じって、競馬を観戦し、「行け!行け!」と必死に応援する姿を映しだし、NHKは何の違和感も持たないのでしょうか?またそれを全国の家庭に推奨するかの番組を放映する無神経さには、あきれるを通り越して、呆然といたしました。

この記事に対して競馬関係者や競馬ファンは「露骨な競馬たたきだ」だなどと田中紀子さんに向けて逆批判を始めていたりするワケですが、私としてはナンダカナァと思うわけです。

田中さんの主張に対して「オモシロくない」と感じてしまう人達は、一旦競馬から離れてこの構図を別の業界にあてて考えてみたら良いと思うんです。例えば、酒造メーカーが例えそこにアルコールが入っていないとはいえ、子供向けにノンアルコールビールを試飲させたら。例えば、JTが例えそこにニコチンが含有されていないとはいえ、電子蒸気タバコの試喫会を子供向けにアピールしたら、多分、社会から大きな批判を浴びる事となるだろうなぁ、と。

例えそこに「賭け」は介在していないとはいえ、子供向けに競馬レースの着順を予想させることというのは、上に挙げたノンアルコールビールや電子蒸気タバコの例と同種のものとして社会には受け止められるのは自然なワケで、そこで「多分、批判が来るだろうな」と想像が廻らない人というのは、恐らく業界に染まり過ぎて、鈍感になってしまっているのだと思うのですね。特にファミリー路線を取りがちな公営賭博の皆様は少し自戒の気持ちをもって、今回の騒動を受け止めて頂ければ幸いです。

ただし、このことはカジノ業界人たる私としても実は必ずしも対岸の火事ではありませんで、現在我が国で導入が予定されている統合型リゾートに関しても「大人から子供まで楽しめる」などとしたファミリーリゾート路線でイメージ定着を図ろうとする論調がここ数年目立っておりまして、そういう論調が嫌いな私としてはそれを非常に苦々しく見ているのが実態。

ギャンブルもそうですし、飲酒や喫煙も、はたまたエロ・グロなんかもそうなのですが、いわゆるその利用に年齢制限があるような趣味嗜好というのは、一定の分別と自己責任が前提にある大人と、そうではない子供の間の「棲み分け」があるからこそ、消費者個人の「選択の自由」が社会的に担保されているわけです。そのような業界成立の大前提となる大人と子供との間の境界線を、我々側から積極的に乗り越えて「大人から子供まで」路線を採ることが果たして正解なんだろうか?

私は世の中には「大人だけ」を対象として間口が開かれる商業があって然るべきだと思っていますし、カジノを中心とした統合型リゾートというのはまさにそのような存在であるべきだと考えています。その統合型リゾートにおいて「大人から子供まで」的な文脈を採ってゆく事が果たして正しいのか?我々業界自身も、日本の統合型リゾート業界が目指す方向についてもう少し論議を深めてゆく必要がありそうです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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