家族は、他者の「ギャンブルする権利」を阻害できるか?

(写真:アフロ)

以下、ロイターからの転載。

家族申告でネット馬券の販売停止

https://jp.reuters.com/article/idJP2017122401001589

日本中央競馬会(JRA)がギャンブル依存症対策の一環として、家族からの申告に基づき、インターネットでの競馬の投票券販売を停止する制度を28日に導入することが分かった。依存症の診断を受けたか、疑いがある人が対象となる。カジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)導入に備え対策強化を進める政府方針を踏まえた。来年4月には競輪やオートレース、ボートレースへ対象が広がる予定だ。

このように、ギャンブル依存の診断を受けた、もしくはその疑いのある人を対象として特定のギャンブルサービスへのアクセスを遮断する制度は「排除プログラム(Exclusion Program)」と呼ばれ、世界の多くのカジノを合法とする国や地域で採用されているもの。本制度はギャンブル依存状態になった人に対する実効性のある施策のひとつとして、多くの国や地域での採用が広がっています。

我が国におけるカジノ合法化論議に際しても、当初のころからこの排除プログラムの採用は主張されており、私も長らくこれを推進してきた立場であります。一方で、家族とはいえども今回のような本人の同意を得ずして他人のギャンブル制限を行う制度の採用に関しては「慎重な論議を要する」と主張してきただけに、カジノ合法化論議の煽りを受けて競馬業界がこんなペロッと簡単に制度の採用を決めてしまった事には衝撃を受けざるを得ません。ホントに大丈夫なのでしょうか?

諸外国で採用されている排除プログラムの内容には、実は大きく分類して3つの方式があります。一つ目が依存者自身の申告に基づいて行われる自己排除制度、二つ目が依存者の近親者の申告に基づき本人の同意なく行われる家族排除制度、そして三つ目が生活保護受給者など公的に定められた一定の基準にあてはまる人物を自動的に排除対象とする第三者排除制度です。この3つの制度、実は各国によってその運用はまちまちで、必ずしも全ての国や地域が全ての排除制度を採用しているわけでは有りません。というか実は殆どの国は自己排除が中心で、家族排除までを採用している地域はそれほど多くなく、第三者排除に至ってはごく限られた国や地域のみの採用となっているのが実態です。

なぜ、家族排除や第三者排除が難しいかというと、一方で存在する基本的人権とのからみです。日本のみならず、多くの自由主義圏の国々では国民の基本的人権のひとつとして経済的自由権が保障されています。それが例え他人から見てバカバカしいと思えるような行為であっても、自身が保有する財産をどのように使用するかを決める自由というのは全ての国民に保障されている権利であって、ギャンブルをする行為というのはまさにそのような経済的自由であるわけです。

この万人に認められる経済的自由権を前提に考えた時、ギャンブル施設からの排除制度の難しさが見えてきます。排除制度のうち、自己排除制度に関しては自己の財産上の使用制限を本人が申請するわけですから、その同意に基づいてギャンブル施設の利用制限をかけること自体にはそれほど大きな論議は出てこないでしょう。一方、その申請を本人の同意を得ないまま家族がする場合はどうでしょうか?

例え家族であろうとも、法律上はあくまで別人格を保有する第三者です。申請者と被排除者の関係が法律上の親権者や扶養義務者である場合には、当該人物に対して一定の権利制限を行うこともありうるかもしれませんが、それ以外の場合、果たして家族といえども第三者が他人の経済的自由権を阻害する権利を保有しうるのでしょうか?またそれが法律上の親族者であったとしても、申請者と被排除者の間の家族関係は、既に婚姻が破綻していたり、親族の縁が切れていたりと実態として既に存在していないかもしれません。はたまたギャンブル依存とは関係のないところで、例えば親族がギャンブルを禁ずる特定の宗教にハマリ、本人はおろか自己の家族の行為までもを制限しようとした場合、どのように対処するのでしょうか?

また、これが第三者排除となった場合には更なる論点が発生します。実は我が国では、ここでいうところの第三者排除制度に近い制度採用を試みた自治体が全国で既に何件か存在します。しかし、その際に必ず出てくる論議が「生活保護受給者のギャンブル行為は最低限度の文化的生活に必要か?」という大命題であり、実はこの点に関しては未だ明確な答は出ていません。

【参照】ギャンブルは「最低限度の文化的生活」に必要か?

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9154523.html

「かといって放置の出来ない精神疾病だろ」という論議がそこにあるのも事実です。例えば、精神保健福祉法はその第33条において、当該人物が診察を受けた精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させる必要があると認めたときには、精神科病院の管理者がその者を強制的に入院させる事ができる「医療保護入院」という制度を持っています。これは該当する人物の自傷や他傷を防止するために必要な措置として、全ての国民が持つ身体の自由を阻害することを認める制度でありますが、一方でこの医療保護入院を決定する際には以下のことを求めています。

(医療保護入院)

第三十三条 精神科病院の管理者は、次に掲げる者について、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。

一 指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの

二 第三十四条第一項の規定により移送された者

2 前項の「家族等」とは、当該精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者を除く。

一 行方の知れない者

二 当該精神障害者に対して訴訟をしている者、又はした者並びにその配偶者及び直系血族

三 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人

四 成年被後見人又は被保佐人

五 未成年者

3 精神科病院の管理者は、第一項第一号に掲げる者について、その家族等(前項に規定する家族等をいう。以下同じ。)がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合において、その者の居住地(居住地がないか、又は明らかでないときは、その者の現在地。第四十五条第一項を除き、以下同じ。)を管轄する市町村長(特別区の長を含む。以下同じ。)の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。第三十四条第二項の規定により移送された者について、その者の居住地を管轄する市町村長の同意があるときも、同様とする。

4 第一項又は前項に規定する場合において、精神科病院(厚生労働省令で定める基準に適合すると都道府県知事が認めるものに限る。)の管理者は、緊急その他やむを得ない理由があるときは、指定医に代えて特定医師に診察を行わせることができる。この場合において、診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたときは、第一項又は前項の規定にかかわらず、本人の同意がなくても、十二時間を限り、その者を入院させることができる。

5 第十九条の四の二の規定は、前項の規定により診察を行つた場合について準用する。この場合において、同条中「指定医は、前条第一項」とあるのは「第二十一条第四項に規定する特定医師は、第三十三条第四項」と、「当該指定医」とあるのは「当該特定医師」と読み替えるものとする。

6 精神科病院の管理者は、第四項後段の規定による措置を採つたときは、遅滞なく、厚生労働省令で定めるところにより、当該措置に関する記録を作成し、これを保存しなければならない。

7 精神科病院の管理者は、第一項、第三項又は第四項後段の規定による措置を採つたときは、十日以内に、その者の症状その他厚生労働省令で定める事項を当該入院について同意をした者の同意書を添え、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に届け出なければならない。

例えそれが病気を前提にし自傷他傷から守るためであるとはいえ、他者の基本的人権を制限するというのはここまでしち面倒臭い手続きを経ることが必要である、かつ医師の診断がない場合においては例えそれが如何に家族による申請であっても侵害され得ないのが基本的人権であるわけです。一方で、ギャンブル依存の世界では、その他の精神疾病と異なり精神科病院以外の民間支援組織が無手勝流で当該人物の「ギャンブル依存」を認定してしまったりだとか、実は込み入った問題が様々に存在しているわけで、さて今回、中央競馬が大した国民的な論議を経ずしてペロッと家族排除の採用を決定してしまいましたが「本当に大丈夫なのですか?」と改めて問う必要があるわけです。