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客引き禁止条例:東京にまたショウモナイ条例ができた

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

東京五輪を控えたいわゆる「都市浄化」の一環なのでしょうが、東京にまたショウモナイ条例ができました。以下、FNNからの転載。

東京・文京区 客引きに罰金5万円

https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20171002-00000229-fnn-soci

10月から、最大5万円の罰金が科せられることになる。東京・文京区の繁華街で、2日に行われたパトロールには、警視庁と地元の住民など、およそ100人が参加した。

客引きを禁止する条例では、指導や警告に従わなかった場合、最大5万円の罰金が科せられるほか、客引きをした人の氏名や住所、店舗名などが公表される。この地域では、2016年の1年間で、客引きをめぐるトラブルが多数あったということで、警視庁は、住民と力を合わせて、対応にあたる方針。

客引き禁止条例の功罪に関しては、今年6月に発売された拙著「夜遊びの経済学」の中でもかなり詳細に言及を行っています。まず大前提として、東京を含めて我が国の主要都市には客引きと、その先に生じる可能性のある飲食店等のぼったくりに対処できる法令は以下のように既に沢山あります。

1. 風営法:

風俗営業者に対して、客引きおよび、立ちふさがり、つきまといなどを禁ずる(法第22条)

2. 迷惑防止条例:

性風俗等の客引き、一般商業者の強引な客引きおよび執拗な付きまとい、性風俗等のスカウト行為

3. ぼったくり防止条例

性風俗店等に対する料金明示義務、不当な勧誘および料金の取立て禁止

このように既に客引きおよびぼったくり規制が様々な形で存在するにも関わらず、特定の地域において強引な客引きや、その先に生じるぼったくり被害が絶えないのだとすれば、それは現存する法令が正しく運用されていないからであって、規制が不足しているからではありません。そのような事実をすっ飛ばして、実は現在多くの都市部繁華街において「客引き」そのものを禁止する条例の制定が広がっており、今回東京の文京区において施行されたのもまさにその種の条例であります。

ただ「客引き」というのは、街に広がる繁華街において必要な「機能」でもあります。特に、大通りに面していない裏通りの雑居ビル、もしくは大通りに面しているが地下や高層階に立地するような商業店舗にとって、「客引き」は視認性の悪さを補完し、そういう立地でも商業が成り立つ為に必要不可欠な「営業行為」です。逆に、特定の地域において客引きを認めないということは、そういう視認性の悪い店舗の成立を認めないということであり、街は裏通りから徐々にテナントを失ってゆく。当然ながら、そういう地域の不動産価値も下落してゆくことになります。

では逆に「客引き」を禁止して、街の平穏が獲得されるのかというと実は全くその逆の減少が起こったのが、2013年に「客引き禁止条例」を施行させた新宿区歌舞伎町の事例。歌舞伎町では2013年以降、表面上「客引き」の数は街から減りましたが、実はその裏側でぼったくり被害件数が急増し2015年に通報件数がピークに達しました。

【参照】歌舞伎町でぼったくりトラブル急増、取り締まり態勢強化

http://www.sankei.com/region/news/150524/rgn1505240005-n1.html

新宿区の歌舞伎町地区で客引きが案内したキャバクラなどが高額料金を請求する「ぼったくり」トラブルが多発していることを受けて、警視庁は同地区の取り締まり態勢を強化し、街頭での注意を呼びかける啓発活動やパトロール活動を始めた。

警視庁によると、今年1~4月のぼったくりの相談件数は歌舞伎町地区だけで約1千件と、前年同期の約10倍に急増した。

それは何故か?実は、2013年の客引き禁止条例の施行によって表面上の「客引き」の数が減少したのは、前出のような一般的な飲食店やカラオケ店などが条例の施行以降に客引き行為を引き上げたから。一方、そもそもぼったくりをするような悪質な飲食店や性風俗店等は客引き行為が条例で禁じられようとも、そんなものは意にも介さないワケで、実は条例の施行後も根強く地域に「客引き」として残ったからであります。

実は新宿歌舞伎町において悪質な飲食店や性風俗店のぼったくり被害が激減することとなったのは、2013年の客引き禁止条例からではなく、2015年に上記のようなぼったくり被害がピークに達したことで警視庁がぼったくり防止条例の運用を強化し、これまで民事不介入を貫いていた客と店の間の金銭トラブルに介入を始め、悪質と認めた場合には「摘発も辞さず」のスタンスを取り始めて以降のことであります。

すなわち、繰り返しになりますが悪質な商業者によるぼったくりや、強引な客引き、つきまとい行為は、既存の法令で禁じられた行為なのであって、客引きそのものを禁ずる前にそれら法令を正しく運用することが必要であるということ。その上で「客引き」そのものを禁止すべきかどうかは、「客引き」がすべからく悪いものであるという先入観を除いた上で、その是非を論議することが必要であるということです。

個人的には「客引き」は街の賑わいを維持する為に必要な構成要素の一つであって、それを十把一絡げに禁じてしまう行為は街そのものの「価値」を減退させる行為であると思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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