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国立競技場労働者の自殺問題:日本社会全体の敗北

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

非常に痛ましい事件が起こってしまいました。以下、ハフポストからの転載。

「新国立競技場」建設で新入社員が過労自殺か 残業200時間超、遺族が労災申請

http://www.huffingtonpost.jp/2017/07/20/overwork-suicide-issue_n_17536030.html

東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場建設の工事を請け負う建設会社の新入社員の男性=当時(23)=が3月に自殺したのは、残業が月200時間を超えるなど過重労働が原因だったとして、遺族が労災を申請した。代理人の川人博弁護士が7月20日に記者会見して明らかにしたもので、NHKニュースなどが報じた。

建築デザイン問題で二転三転し社会を騒がせた新国立競技場。新たなデザイン案の元で進みはじめた現場労働者が、過重労働を原因として自殺した問題です。本件は一般メディアにも大きく報じられ、既に厚生労働省も背景の調査に動き始めている状態であります。

本件に関しては勿論、直接的には月200時間を越えるような過重労働を労働者に強いた雇用主側に一義的な責任があるのは事実でありますが、一方でこの事件の背景には当然ながら世間を騒がした一連の国立競技場問題が存在しているわけで、これをただ雇用主と被雇用者の二者関係だけの問題で終らせてしまってはいけないと思うんですね。

この問題の背景にあるのは、当然ながら二転三転した国立競技場建替え問題でありまして、

・コンペを経て決まっていたザハ案の事後撤回により、そもそもの開発スケジュールが大崩壊した

・「今デザイン案を撤回すると必要十分な工期が確保できない」という事は多くの建設関係者が口々に主張していたにもかかわらず、一部専門家が「十分間に合う」という論陣を展開し、それが「最コンペ必至」という世論形成をしてしまった

・一方、コンペ撤回の主たる理由が「当初計画を上回る多大なコスト」にあったため、撤回後の開発計画には強度の予算抑制圧力が自ずと生まれた

・施設開発というのは限られた期間内で突貫工事になればなるほど、同じ規模の開発計画であってもコストが格段に上昇するものであるにもかかわらず、予算抑制と工期必達の両方の圧力がふりかかり、結果的に現場にしわ寄せが落ちていった

と様々な事象がこの事件の背後に横たわっているわけです。そういう意味で、私は今回の痛ましい事件を発生させたのは「日本社会全体」であると思いますし、23歳の若き現場労働者の死は他人事でも何でもなく「日本社会全体の敗北」として受け止められなければならないと思います。

このような痛ましい事件は元より、その背後に我々が起こしてきた社会のゴタゴタは二度と起こしてはならないと思うわけですが、その他の様々な五輪関連の開発工事の現場で似たような状況が既に発生してしまっているワケで、同じような痛ましい事件が二度と起こらないことを心より祈るほかありません。

【参考】輸送の動脈に暗雲 環状2号線 五輪前の開通見えず

http://www.nikkei.com/article/DGXKASDG19H60_24072017CR0000/

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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