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国内初のカジノは大阪で内定!?

木曽崇国際カジノ研究所・所長

テレビ大阪がワケの解らん報道を行っており、業界内が騒然としております。

テレビ大阪の独自取材によって「IR議連が政府に対して、大阪を有力候補地として推薦する方針」とのこと。しかも、同時にテレビ大阪は「返す刀」で、「沖縄は基地問題の存在から推薦される可能性は小さい」、「東京は舛添知事の消極姿勢で推薦の機運が萎む」などとし、全国のライバル候補地をメッタ切りの様相です。

以下、本報道を見た私の感想。

1)にわかに信じがたい、IR議連による候補地の「推薦」

IR議連は、今回のIR推進法の想起にあたって、通称「IR議連 基本的考え方」と呼ばれる文書を発表しており、カジノ開発地域の選定に関しては以下のように定めています。

●地方公共団体の申請に基づき、国がIRの設置区域・地点を指定する

カジノを含むIRが設置される区域・地点の指定は、地方公共団体による提案・申請をもとに、国がこれを評価・判断し、指定する。

(下線は筆者)

以上のように、地域へのカジノ導入は地方公共団体の「発議」が起点となって行われるものであって、国が国の都合で勝手にその設置地域を指定するものではないというのが、IR議連が発足以来、明確に示してきた考え方です。一方、「IR議連が推薦地域を指定する」という今回の報道は、議連が自ら定めた上記考え方と真っ向から対立する行為であり、私としてはテレビ大阪の報道は俄かに信じられません。

2)議決の前に地域指定を行うなど愚の骨頂

そもそも、これからIR推進法案、そしてそのおよそ一年後に想起されるIR実施法案の国会決議を控えるなかで、前倒しで地域指定を行うなど愚の骨頂といえましょう。我が国の国会議員というのは勿論、建前上は「国民全体の代表者」ではありますが、その実態は「地域の代表者」の色彩が非常に強いものです。ことの良し悪しは別として、そして各議員によってその程度の大小はある前提で、議員というものは根源的に地域利害を念頭において動かざるを得ない生き物です。

そのような中で、例えば今回のように必要な法案議決の前に、地域利害に関連する事項を定めるなどというのは、最も愚かしい行為。賛成派の議員であっても、当然ながら「各論反対」の立場にならざるを得ず、このような手法のもとでは「纏まるものも纏まらない」という状況に必ずなります。

同様の事態が起こったのが2005年から2007年のイギリス。イギリス政府は当時、現在の我が国と同様に設置数を限定する形で統合型リゾートの導入を構想していました。しかし、当時のイギリス政府はその実施にあたっての戦術を、完全に間違えました。具体的には、統合型リゾートの導入に関連する国会議決のすべてが完了する前に、建設候補地を絞り込んでしまった(正確には、候補地選定そのものを国会の議決事項にしてしまったのだが)。それ故に国会審議が紛糾し、統合型リゾート賛成派が多数を占めながらも国会の議決が得られず、その構想はご破算となってしまいました。現在、イギリスでは法律上、統合型リゾートの導入を可能とする制度はありながらも、その設置が行われないという状況が続いています。

今回、テレビ大阪が報じた、IR議連側が必要な議決を待たずして「推薦地」を発表するなどという行為は、まさに上記英国で起こった混乱の再現であって、完全に間違った戦術であるといえます。

3) とはいえ、誰かがそういう「絵」を描いているのだろう

ということで、私としてはIR議連がそのような構想を持っているという事自体を信じられないのですが、何もないところでテレビ大阪が「複数の関係者」に対する取材としてこのような報道をするワケはなく、「誰か」がそういう絵を描いているは事実なのでしょう。しかも、今回の推薦で利を得る人間は原則的に大阪界隈の人間しかおらず、またIR議連に対して強い影響力を持っている面々ともなれば、業界関係者は「どの辺」が蠢いているかは容易に想像できてしまうワケですが。。

実は、このような特定地域にというか、もっと言ってしまえば大阪に統合型リゾートを誘導しようとする動きは、2010年に民主党政権下でカジノ合法化の機運が高まった時にも行われました。詳しくは当時の私のブログエントリを読んで頂ければ幸い。

カジノ法案サマリーを使ってはいけない

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/3548702.html

当時の動きは、今回と同様にIR議連が起点となったもの。IR議連が発表した文書を、巧みに書き換えながら大阪に有利な形に論議誘導するという試みが行われました。具体的には、法案上に定められた「法の目的」を、サマリーと称する文書の中で「伝言ゲーム」のように文言を書き換えながら、当時、大阪がいち早く表明をしていた「MICE振興の為のカジノ導入」という政策目的に誘導してゆくという手法だったワケですが、当時と同じような恥も外聞もない政策誘導がまた起ころうとしているということです。

繰り返しになりますが、開発地域の具体的な絞り込みは、必要となるすべての国会議決が完了した後に、地方自治体側の発議を前提として、公正な評価基準をもって行われるべきもの。その原理原則を捻じ曲げ、政治的影響力を使って不公正な「我田引水」をしようとする動きは、決して許してはなりません。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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