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那須川天心は、ボクシングデビュー戦で勝てるのか? 対戦相手・与那覇勇気の「秘策」とは?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
4月8日にプロボクシングデビューを果たす那須川天心(写真:スポニチ/アフロ)

「みんなをビックリさせられる」

那須川天心(帝拳)のプロボクシングデビュー戦が刻一刻と迫っている。

2月下旬から米国に飛び、ラスベガスで約2週間、スパーリング中心の強化練習を行った那須川は3月12日に帰国。

羽田空港で彼は言った。

「毎日、いい発見がありました。(デビュー戦では)みんなをビックリさせられると思う。期待してください!」

前WBO世界スーパーバンタム級王者のアンジェロ・レオ(米国)らと計35ラウンドのスパーリングをこなしたことで「間合いの取り方が分かってきた」とも口にした。手応えを摑んだのだろう。表情からも自信がうかがえた。

キックボクシングで「42戦全勝」を誇った那須川のプロボクシング転向初戦の舞台は、4・8有明アリーナ『Prime Video Presents Live Boxing 4』。このイベントでは、2つの世界タイトルマッチも行われる。

<WBA、WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ>

寺地拳四朗(王者/BMB)vs.アンソニー・オラスクアガ(米国) or ヘラルド・サパタ(ニカラグア)

※WBO同級王者のジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)が体調不良により来日不能となり「3団体王座統一戦」は消滅。いずれが相手になるかは近日中に決定。

<WBA世界バンタム級王座決定戦>

井上拓真(大橋)vs.リボリオ・ソリス(ベネズエラ)

この2つのビッグマッチが組まれているにもかかわらず、那須川のデビュー戦がメイン級の扱いとなっている。国内における注目度の高さでは、世界タイトルマッチをも上回っているのだ。

そして、那須川の対戦相手は日本バンタム級4位の与那覇勇気(真正)に決まっている。

注視すべきは初回の与那覇の出方

「(この試合の)オファーを受けた時は『これが武者震いか』というくらいムチャクチャ興奮した。自分はビッグマウスで『俺の時代が来る』と言い続けてきた。そして、何者でもなかったこの俺が、超大物を食うチャンスを得た。必ずモノにします」

2月13日、ザ・リッツ・カールトン東京で開かれた記者会見で那須川天心を迎え撃つ与那覇は、瞳を輝かせてそう話した。

「俺は甘くないぞ!」2月13日に開かれた記者会見で力強い言葉を発した与那覇勇気(写真:日刊スポーツ/アフロ)
「俺は甘くないぞ!」2月13日に開かれた記者会見で力強い言葉を発した与那覇勇気(写真:日刊スポーツ/アフロ)

与那覇は沖縄県出身の32歳、那須川より8つ歳上。

沖縄尚学高校、東洋大学ボクシング部を経てプロデビュー、アマチュア戦績63戦50勝(27KO)13敗、プロ戦績17戦12勝(8KO)4敗1分を誇る。

昨年10月に、南出仁(セレス/那須川のプロテストでスパーリングの相手を務めた選手)に判定で敗れたが、それまでは5連勝を飾っていた。高いKO率が示す通りのハードパンチャーだ。

与那覇は、会見でこうも話した。

「キックボクシング無敗の実績を持ってボクシング界に飛び込んでくる那須川選手に対して、一般的には“ボクシングは甘くない”との声もあるが、自分はそんなことは思っていない。ボクシングが甘くないんじゃなくて、『俺は甘くないぞ!』という気持ちです。

自分のパンチは空振っても会場がどよめく、もちろん当たったら一撃で試合が決まる。その拳に挑戦してくる姿勢に敬意を込め、全力で殴り倒しに行きます」

すでに与那覇は、闘い方を決めているように思う。

両者を比較すると、一撃で倒す力では与那覇が優る。対してスピードでは那須川が上位。そして技術、試合の運び方においても那須川が上回っているように感じる。相手との距離の測り方、重心移動等もすでにボクシングにアジャストしており、ヒット・アンド・アウェイを駆使できるだけのフットワークも身につけている。

ラウンドを重ねるにつれて、那須川はリズムよく動き出そう。加えてスタミナも十分だ。与那覇にとって長期戦は得策ではない。

ならば、作戦は「1ラウンド勝負」だろう。

誰もがデビュー戦は緊張するもの。1ラウンドは那須川も動きに硬さが出る。そこを与那覇は狙う。

那須川が距離感を見極めてペースを摑む前に、一気に攻め切ろうとするのではないか。開始早々に強打をクリーンヒットさせることができたなら、展開は与那覇優位に傾こう。この時、『俺の時代が来る』と豪語する男がフルラウンドを闘うスタミナなど無視し神童に猛然と襲いかかれば面白い。

私の予想は、那須川の判定勝ち。それでもアップセットの可能性も十分にあると感じる。闘いが熱くなるか否かは、開始ゴング直後の与那覇の出方次第か─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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