Yahoo!ニュース

那須川天心はボクシングでも世界王者になれるのか? その「可能性」と「道程」を考察─。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
4月8日にプロボクシングデビューを果たす那須川天心(写真:日刊スポーツ/アフロ)

那須川天心の闘い「第2章」

日本ボクシング界がさらに熱く盛り上がりそうである。

昨年末にバンタム級で「4団体世界王座統一」を果たした井上尚弥(大橋)が階級をアップしスーパーバンタム級への挑戦を表明。WBO世界スーパーフライ級王座を返上した井岡一翔(志成)の動向はいかに? 寺地拳四朗(BMB)のライトフライ級「3団体世界王座統一戦」も決まった。

そして、キックボクシングで無敵を誇った”神童”那須川天心(帝拳)がプロボクサーに転向、4月8日、東京・有明アリーナ『Prime Video Presents Live Boxing 4』で日本バンタム級4位の与那覇勇気(真正)を相手にデビュー戦を行う。

話題は豊富だが、この中で日本ボクシング界にとってもっとも刺激的なのは、知名度抜群”神童”那須川天心の参戦だろう。

2月9日に後楽園ホールでプロテスト(B級ライセンス)を受け合格、その4日後にはザ・リッツ・カールトン東京で記者会見を開き、デビュー戦を発表。会見の冒頭で那須川は言った。

「はじめまして、那須川天心です。今回の試合はボクシングからの果たし状だと思っているので、しっかりと勝って(強さを)証明します。尊敬の念と覚悟を持ってボクシングと向き合いますので、皆さん御注目ください!」

いよいよ、那須川天心の闘い「第2章」の幕が上がる。

速さ、そして適応能力の高さ

さて、那須川天心はどこまで強くなるのか?

世界チャンピオンになれるのか?

プロテストを観た直後に、日本プロボクシング協会長の小林昭司(元WBA世界スーパーフライ級王者・セレス小林)氏は言った。

「速い、それにパンチの反応が素晴らしい。キックボクシングから転向してくる選手はスタンスや重心移動などの適応が難しいが、それにも短期間で対応している。センスの塊だと感じた」

そして、こう続けた。

「キックボクシングのスター選手がボクシングに来てくれるのは嬉しい。彼には華があり、これからのボクシング界を背負っていく逸材だと思う。慣れてきたら、もっともっとパフォーマンスも上がる。世界王者になるチャンスも十分。楽しみでしかない」

帝拳ジムの本田明彦会長は、こう話す。

「吸収力、学習、適応能力が極めて高い。こちらが想定していた以上のスピードで成長している。1年以内に日本タイトルに挑戦させ、その後(世界王座)を見据えたい」

周囲からの評価は高く期待も大きい。プロテストでの南出仁(日本バンタム級1位/セレス)とのスパーリングを観ても、現時点で日本ランカーと互角以上に闘えると感じられた。今後の伸びしろも十分で、那須川が世界を目指せる逸材であることは間違いない。

2月13日に開かれた記者会見で立ち上がり決意を口にする那須川天心の髪は短く刈られていた。右は対戦相手の与那覇勇気。試合はAmazonプライム・ビデオで生配信される(写真:日刊スポーツ/アフロ)
2月13日に開かれた記者会見で立ち上がり決意を口にする那須川天心の髪は短く刈られていた。右は対戦相手の与那覇勇気。試合はAmazonプライム・ビデオで生配信される(写真:日刊スポーツ/アフロ)

話題性には流されない

それでは今後、どのような道を歩むのか?

デビュー戦は、スーパーバンタム級リミットで与那覇と闘うことが決まったが、その後はどうなるのか?

1つ、モデルケースがある。

元K-1スーパーバンタム級王者・武居由樹が、いち早くプロボクサーに転向している。 武居は、井上尚弥らがいる大橋ジムに所属し一昨年3月にデビュー、すでにOPBF(東洋太平洋)スーパーバンタム級王座を獲得し、世界挑戦を見据えている状態。

彼は、これまでに6戦を行っており戦績は次の通りだ。

2021年3月11日 〇(TKO、1R1分43秒)高井一憲(中日)/6回戦、後楽園ホール

2021年9月9日 〇(TKO、1R2分57秒)竹田梓(高崎)/6回戦、後楽園ホール

2021年12月14日 〇(TKO、1R59秒)今村和寛(本田F)/8回戦、両国国技館

2022年4月22日 〇(TKO、2R1分22秒)河村真吾(堺春木)/10回戦、後楽園ホール

2022年8月26日 〇(TKO、5R2分07秒)ペテ・アポリナル(フィリピン)/OPBF王座獲得、後楽園ホール

2022年12月13日 〇(TKO、11R2分17秒)ブルーノ・タリモ(オーストラリア)/OPBF王座初防衛、有明アリーナ

武居は年間3試合のペースでリングに上がりKO勝利を重ねた。

那須川も武居と同じように6回戦からスタート、そこからキャリアを積み重ねることになる。ただ、本田会長は「年内に日本王座に挑戦させたい」と発言している。

順調に勝ち進めば武居よりも少し早く、4戦目で日本、もしくはOPBF、あるいはWBOパシフィックのベルトをかけた闘いに挑むことになるのではないか。

デビュー戦は、井上尚弥と同じスーパーバンタム級で行うことになるが2戦目以降は1つ階級を下げバンタム級に移行するかもしれない。おそらくトレーニングを積みカラダを絞る中で、そこが適正階級となろう。

世界王座・日本人最速奪取の記録(田中恒成<畑中>がデビュー5戦目でWBO世界ミニマム級王座を獲得)を狙うのでは、との声もある。

だが、那須川は言う。

「そこは、あんまり意識していません。道なき道を行く感じなので。納得のいく練習をして納得のいく試合をしたい」

本田会長も「急ぐ必要はない。輝きのある選手を責任をもって育てたい」と口にしている。

伝統ある帝拳ジムらしく話題性に流されず、じっくりと時間をかけ万全の状態をつくっての「那須川天心・世界王座奪取」を計画しているようだ。

まずは4・8有明アリーナでのデビュー戦で神童が、いかなるパフォーマンスで魅せてくれるかに期待したい。

注目ポイントは「スピード」か─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

近藤隆夫の最近の記事